タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~

ルッぱらかなえ

文字の大きさ
上 下
4 / 134
第一章 | 傾奇ブルワー、江戸に飛ぶ

傾奇ブルワー、江戸に飛ぶ 其ノ肆

しおりを挟む
泥酔して起きたらゴミ捨て場だったことはある。
植込みの中で眠っていたり、知らない女とホテルにいたこともある。

記憶は気軽に飛ぶタイプだから、途中のことをまったく覚えていないなんてことはざらにあるわけだけれども……

「起きたら違う世界にいたなんてことあるかーーーい!」

なおは5本目の熱燗を徳利ごと煽ると「おかわり!」と叫んだ。
周囲からは「いいぞ、いいぞ」と歓声が上がる。

喜兵寿たちのはなしによれば、ここは将軍様のおひざ元にある、堀に面した「下の町」。

近くには「墨田川」が流れているといっていたから、やはりなおが飲んでいた墨田ブルーイングからは遠く離れておらず、別世界にいるとしか考えられなかった。

「んー、まさかこんなことが起こるなんてなあ……」

なおが腕組みしながら唸っていると、喜兵寿が熱燗と一緒に小さな小鉢を持ってきた。

「これ、食ってみろ」

中に入っていたのは子芋の煮っころがしで、甘辛く煮詰められた香ばしいいい香りが鼻先をくすぐる。
先ほどビールを「毒」扱いしたことを悔いているからだろうか。
喜兵寿はなんやかんやと世話を焼いてくれていた。

「お、うまそう!」

なおは子芋を大きな口で頬張った。
子芋の皮はパリっと香ばしく、噛んだ瞬間に中からほろほろとやわらかい芋が崩れる。

間髪入れずに熱燗を飲み下すと、双方のあまみが助長されるように喉奥いっぱいに広がった。

「やっぱうまいな!なんか喜兵寿のつくったもん食べると緩むわ」

なおは大きく息つく。

「新作ビールは無事リリースしたばかりだし、仕込みは昨日ひと段落着いたところだし……あれ、ひょっとして急いで帰らなくてもいい感じか?」

思い返せば、ここのところ働きすぎていた気もする。

初めて自分のレシピでビールを造るという大事なタイミングだったから全く苦には感じなかったが、長らく休暇というものをとっていない。

「知らない町に、知らない文化。あ、なんかこれって海外旅行みたいだな?」

もしもこれがタイムスリップなのだとしたら、そう滅多にできるもんじゃない。

どうやら美味いものはたくさんあるみたいだし、この時代のいろんな酒を飲んでみるのもいいかもしれない。
元来旅行好きのなおは一気にわくわくが湧いてくるのを感じた。

「よっしゃ、そうと決まったら俄然楽しくなってきたぞ!まずは飲むか!」

なおは隣の男の男に向かっておちょこを持ち上げた。

「よろしくな!乾杯!」

「は?なんだそれ?」

男はぽかんとおちょこを見つめる。

「ひょっとして乾杯知らないのか??ん~まああれだ。一緒に楽しく飲もうぜ、ってことことだ。こうやって持ち上げて、おちょこ同士をぶつけんだよ」

なおが説明すると、「ぶつけるのか?!」「ほお、おもしろそうだな」「おい皆でやろうぜ」と男たちが次々とおちょこを持ち上げた。

「それじゃあ!みんなよろしくな~!乾杯!!!」

なおの掛け声で男たちは一斉に立ち上がり、「かんぱい!」と言いながらものすごい勢いでおちょこ同士をぶつけ始めた。がちゃんがちゃんと鈍い音が鳴り、中には勢い余って拳をぶつけあっている男もいる。

「あはははは!なんだそりゃ」

その様子を見ながらなおは腹を抱えて笑った。

「ちょっと!!!あんたたちいい加減にしなさい!」

つるの叫ぶ声を聞きながら、なおは再び「乾杯!」と叫んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おねしょ合宿の秘密

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
おねしょが治らない10人の中高生の少女10人の治療合宿を通じての友情を描く

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...