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王子の決意
口封じ魔法
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「…ピカ…スピカさん…!」
ん…?
私はゆっくり目を開けた。眩しい光が広がっていく。
「あれ…?私…」
「よかった!なかなか目を覚まさないから心配したんですよ」
アマリリスが私を見て微笑んだ。
ここは…ベッドの上だ。なんでベッドなんかに…。
「女王様の部屋の掃除に行ったっきり戻ってこないから様子を見に行ったんです。そしたらスピカさん倒れているんですもの!私びっくりしちゃいましたよ。このまま死んじゃったらどうしようって…」
「大げさだなぁ」
その時のことを思い出したのか今にも泣きそうな顔になるアマリリス。私はそんなアマリリスを安心させるように笑って見せた。
えーと、確か私は衛兵に頼まれて女王様の部屋の掃除をしに行ったんだ。そこで日記手帳を見つけて…。私はその日記を読んで…。
「アマリリス!」
「はい!なんですか?!」
私はこの部屋にアマリリスしかいないのを確認すると、先ほど見つけた事実を小声で話すことにした。
「実はさっきね、女王様の部屋でカイルっていう人の日記を見つけたの。その日記にはこの国の歴史が書いてあって…うっ…!」
しかしそれを最後まで伝えることはできなかった。肝心な部分に触れようとした時、脳を貫くような鋭い痛みが走ったのだ。
「スピカさん?!」
アマリリスが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
この痛みは何…?!
私は頭を押さえたまま呆然とその場を見つめた。
「日記によると、女王様は…ああっ!」
再び訪れた激痛に私は悶えた。消えない痛みに思わず涙が滲む。
どうなってるの…?!どうして話すことができないの…?!
「闇属性の魔法がかかってるね」
「へ…?」
聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。部屋の入り口にいたのは、歴史を知りたがっていたあの召喚術師の少女だった。
「ミラ…」
「ミラ様」
寄り添うように飛んでいるニッケルを連れてミラは私の方へ歩いてきた。
「歴史、分かったの?」
「うん…。分かった。でも、話せない」
まっすぐ向けられたミラの視線から逃れるように私は俯いた。
「メイドさん。ごめんだけどちょっとスピカと二人にさせて」
「あ!はい!じゃあ私パーティーの準備に戻ります」
アマリリスはそう言って席を外した。準備の中、ずっと私のそばにいてくれたんだなと思うと、とても嬉しかった。
「アマリリス、ありがとね」
「はい!スピカさんも体調が良くなったら来てくださいね」
「うん!」
扉が閉められたのを確認するとミラは再び私に視線を戻した。
「その魔法、誰にかけられた?」
「…っ」
私は女王様の名を告げようと口を開いたが、その言葉が出てくることはなかった。
頭の奥が再び疼いたのだ。まるで告げるなというように。
「言えないんだね。口封じの魔法か。たちが悪いな」
ミラは「うーん…」と言いながら考え始めた。
「闇属性の口封じの魔法…。高度な魔法だな…。この城内にそんな凄腕の魔法使いがいたかな…」
私は今すぐにでも全てを吐き出したかった。皆が皆、女王様の可能性を排除している。当たり前だ。女王様は魔法が使えない設定なのだ。自分でそう演じているのだ。何かあった時、自分の可能性が排除されるように。あの惨劇の記憶が消されている今、女王様の魔力の存在を知る者はいない。
そこで私はハッとした。
闇属性最上級魔法。
あのメイド長の悲劇。
魔人を召喚できるほどの膨大な魔力。
女王様には可能だったのでは?
私は思考を振り払った。だってあの魔法は命を犠牲にして行うもの。女王様は現に今生きている。
しかしもしメイド長があの日記を読んでいたのなら。
女王様を狙う動機は容易く想像できる。
そして女王様は真実を語ろうとしたメイド長を殺した。
筋が通り過ぎている。
否定したいのに否定できない。
あの優しかった女王様が今恐ろしく怖い。
「スピカ?」
私は泣いていた。震える体を抑えるように抱きしめる。ミラはそんな私の頭を泣き止むまで静かに撫でてくれていた。
「僕の光魔法をスピカにかけておく。対極的な属性だからその闇魔法も少しは軽減されると思う。それとスピカの身に何か危険なことがあったら僕に伝わるようになってる。安心して」
しばらくして、落ち着いた私にミラがそう言った。
「ありがと。だいぶ気が楽になったよ」
「お礼なんていいよ。だってスピカは、その…友達、だし…」
「このこの~!可愛い奴め!」
私はそんな照れたミラを茶化し、笑顔を取り戻した。
「じゃあ僕も仕事に戻るね」
「うん!私もそろそろ準備に戻るよ」
「じゃあね」とミラを見送り、私もベッドから離れた。その時、廊下を駆けてくる足音がこちらに近づいてきた。
「スピカ!倒れたって聞いたけど大丈夫?!」
そう言って部屋に現れたのは
あの女王様だった。
ん…?
私はゆっくり目を開けた。眩しい光が広がっていく。
「あれ…?私…」
「よかった!なかなか目を覚まさないから心配したんですよ」
アマリリスが私を見て微笑んだ。
ここは…ベッドの上だ。なんでベッドなんかに…。
「女王様の部屋の掃除に行ったっきり戻ってこないから様子を見に行ったんです。そしたらスピカさん倒れているんですもの!私びっくりしちゃいましたよ。このまま死んじゃったらどうしようって…」
「大げさだなぁ」
その時のことを思い出したのか今にも泣きそうな顔になるアマリリス。私はそんなアマリリスを安心させるように笑って見せた。
えーと、確か私は衛兵に頼まれて女王様の部屋の掃除をしに行ったんだ。そこで日記手帳を見つけて…。私はその日記を読んで…。
「アマリリス!」
「はい!なんですか?!」
私はこの部屋にアマリリスしかいないのを確認すると、先ほど見つけた事実を小声で話すことにした。
「実はさっきね、女王様の部屋でカイルっていう人の日記を見つけたの。その日記にはこの国の歴史が書いてあって…うっ…!」
しかしそれを最後まで伝えることはできなかった。肝心な部分に触れようとした時、脳を貫くような鋭い痛みが走ったのだ。
「スピカさん?!」
アマリリスが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
この痛みは何…?!
私は頭を押さえたまま呆然とその場を見つめた。
「日記によると、女王様は…ああっ!」
再び訪れた激痛に私は悶えた。消えない痛みに思わず涙が滲む。
どうなってるの…?!どうして話すことができないの…?!
「闇属性の魔法がかかってるね」
「へ…?」
聞き覚えのある声に思わず顔を上げた。部屋の入り口にいたのは、歴史を知りたがっていたあの召喚術師の少女だった。
「ミラ…」
「ミラ様」
寄り添うように飛んでいるニッケルを連れてミラは私の方へ歩いてきた。
「歴史、分かったの?」
「うん…。分かった。でも、話せない」
まっすぐ向けられたミラの視線から逃れるように私は俯いた。
「メイドさん。ごめんだけどちょっとスピカと二人にさせて」
「あ!はい!じゃあ私パーティーの準備に戻ります」
アマリリスはそう言って席を外した。準備の中、ずっと私のそばにいてくれたんだなと思うと、とても嬉しかった。
「アマリリス、ありがとね」
「はい!スピカさんも体調が良くなったら来てくださいね」
「うん!」
扉が閉められたのを確認するとミラは再び私に視線を戻した。
「その魔法、誰にかけられた?」
「…っ」
私は女王様の名を告げようと口を開いたが、その言葉が出てくることはなかった。
頭の奥が再び疼いたのだ。まるで告げるなというように。
「言えないんだね。口封じの魔法か。たちが悪いな」
ミラは「うーん…」と言いながら考え始めた。
「闇属性の口封じの魔法…。高度な魔法だな…。この城内にそんな凄腕の魔法使いがいたかな…」
私は今すぐにでも全てを吐き出したかった。皆が皆、女王様の可能性を排除している。当たり前だ。女王様は魔法が使えない設定なのだ。自分でそう演じているのだ。何かあった時、自分の可能性が排除されるように。あの惨劇の記憶が消されている今、女王様の魔力の存在を知る者はいない。
そこで私はハッとした。
闇属性最上級魔法。
あのメイド長の悲劇。
魔人を召喚できるほどの膨大な魔力。
女王様には可能だったのでは?
私は思考を振り払った。だってあの魔法は命を犠牲にして行うもの。女王様は現に今生きている。
しかしもしメイド長があの日記を読んでいたのなら。
女王様を狙う動機は容易く想像できる。
そして女王様は真実を語ろうとしたメイド長を殺した。
筋が通り過ぎている。
否定したいのに否定できない。
あの優しかった女王様が今恐ろしく怖い。
「スピカ?」
私は泣いていた。震える体を抑えるように抱きしめる。ミラはそんな私の頭を泣き止むまで静かに撫でてくれていた。
「僕の光魔法をスピカにかけておく。対極的な属性だからその闇魔法も少しは軽減されると思う。それとスピカの身に何か危険なことがあったら僕に伝わるようになってる。安心して」
しばらくして、落ち着いた私にミラがそう言った。
「ありがと。だいぶ気が楽になったよ」
「お礼なんていいよ。だってスピカは、その…友達、だし…」
「このこの~!可愛い奴め!」
私はそんな照れたミラを茶化し、笑顔を取り戻した。
「じゃあ僕も仕事に戻るね」
「うん!私もそろそろ準備に戻るよ」
「じゃあね」とミラを見送り、私もベッドから離れた。その時、廊下を駆けてくる足音がこちらに近づいてきた。
「スピカ!倒れたって聞いたけど大丈夫?!」
そう言って部屋に現れたのは
あの女王様だった。
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