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王子の決意
カイルの日記
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明星32年11月24日
今日は人生で一番喜ばしい日だ。この日のことを忘れないよう、今日から日記をつけることにする。
13時26分。この国の王女様がお生まれになった。この日をどれだけ待ちわびたことだろう。
双子の王女様はどちらも可愛らしく、元気な産声をあげた。私は思わず泣いてしまいそうだった。この国の後継者の誕生。そして私はおじいさんと呼ばれる立場かつ彼女たちの側近となることが決まった。
双子の姉の方がスピカ、妹がカトレアと名付けられた。とてもいい名前だ。
抱き上げた時の重みは決して忘れることはないだろう。
**************
私は最初のページで目を疑った。双子の王女様?名前はカトレアと…スピカ。
私と、いや、メイドであるスピカはカトレアの姉で、血が繋がっているってこと?!
じゃあなんでスピカはメイドに?王位につかなかったのだろうか?
私は日々のページを早足にめくり、起点となるようなページを探した。日記は何か出来事があった日のみに書かれているようで、次の日に書いているところもあれば、半年近く書かれていないところもある。しかし太い冊子の半分をめくっても引っかかる出来事は出てこなかった。
明星38年2月4日
二人の魔法属性が明らかになった。カトレアは闇属性であったが、スピカはなぜか闇属性も光属性も保持していた。前例だと闇と光がぶつかり合い、無属性となるはずだったのだが、なぜかスピカの魔力は互いを強調しあい、どちらの属性魔法も使えるようになっていた。前代未聞のことである。
属性とスピカの名前から、その特殊な属性は星属性と名付けられた。カトレアの魔力は平均を上回るものであったが、スピカはそれすらもはるかに超越していた。王や王妃もただただ驚くばかりであった。将来は二人とも偉大な魔法使いになることだろう。
**************
星属性…。スピカが前代未聞の魔法使い。そして女王様は闇属性…。
おかしい。私は確かに女王様から魔法が使えないと聞いている。
読み進めれば読み進めるほど謎ばかりが増えて行く。この全ての原因となる出来事が残りの半ページに書かれているだろうか?
私は先走る気持ちに押され、手早くページをめくっていった。しかしそれといったことは書かれていない。
気づけば残りは1ページとなっていた。
ここに何も書かれていなければ、諦めるか二冊目の日記手帳を探すしかない。
私は一度深く息を吸うと最後のページをめくった。
明星44年9月17日
カトレアの魔力が暴走した。
原因は不明だが、カトレアの膨大な魔力は魔界から巨大な魔人を召喚してしまった。魔人はエレクトラの国で暴れまわっている。私も戦いに行かなければ。この国を守るために。
**************
簡潔に書かれた文章は半ば走り書きのようになっていた。しかし日記は終わっていなかった。
魔人を封印した。この事件でエレクオラ国は人口の3分の2を失った。王と王妃は死亡。国の立て直しに新しい女王を立てることになったがスピカは魔力疾患で魔法が使えなくなってしまった。そのため王位継承の条件である「偉大な魔法使いであること」に反し、スピカは王位継承の資格も失った。第二王女のカトレアが王位につくことになったが、魔人による悲劇を起こした本人であるカトレアに反対の声が多く上がった。中には命を狙うものさえ現れた。領地は荒れ、国民は唯一の王女を恨み、このままでは国が滅んでしまう。私は決意した。
この国を守る。それが私の使命だ。
私が全ての魔力を使い、国民の記憶を消し、国を蘇らせる。死人は戻らないが国は再び歩き始めることができる。カトレアと言う新しい女王を迎えて。
さよなら。私の愛した国、エレクトラ。ずっと愛している、スピカ、カトレア。
**************
読み終えた私はしばらく現実に戻ってこられなかった。頭の中が混乱して目眩を起こす。
カトレアが魔人を召喚してしまい、多くの人が命を落とした。そしてスピカは魔力を失った。
魔人召喚は故意に行ったわけではないから女王様を責めるわけにはいかない。しかし…
その事実を欺き、女王として君臨するのはどうなのだろうか。
確かに王位継承者がカトレアしかいなかったのならしょうがないと言える。祖父がやったこととはいえ、謝罪の一つや二つあってもいいのではないか。たとえ国民が覚えていなくても。懺悔の気持ちはなくしていけないのではないか。罪悪感はないのだろうか。
私が怒りに拳を握りしめた時、背後から声がした。
「見てしまったのね」
振り返ったそこには殺気を帯びた女王様が立っていた。
「女王…様…」
顔を強張らせる私に女王様は人差し指を向けた。指先に黒い煙のようなものが集まっていく。そこで私はもっと恐ろしいことに気づいた。
女王様は魔力を失っていない。
「その日記のことは誰にも話さないでね。王政が崩れるから」
最後に見た女王様は綺麗な笑顔を浮かべていた。
今日は人生で一番喜ばしい日だ。この日のことを忘れないよう、今日から日記をつけることにする。
13時26分。この国の王女様がお生まれになった。この日をどれだけ待ちわびたことだろう。
双子の王女様はどちらも可愛らしく、元気な産声をあげた。私は思わず泣いてしまいそうだった。この国の後継者の誕生。そして私はおじいさんと呼ばれる立場かつ彼女たちの側近となることが決まった。
双子の姉の方がスピカ、妹がカトレアと名付けられた。とてもいい名前だ。
抱き上げた時の重みは決して忘れることはないだろう。
**************
私は最初のページで目を疑った。双子の王女様?名前はカトレアと…スピカ。
私と、いや、メイドであるスピカはカトレアの姉で、血が繋がっているってこと?!
じゃあなんでスピカはメイドに?王位につかなかったのだろうか?
私は日々のページを早足にめくり、起点となるようなページを探した。日記は何か出来事があった日のみに書かれているようで、次の日に書いているところもあれば、半年近く書かれていないところもある。しかし太い冊子の半分をめくっても引っかかる出来事は出てこなかった。
明星38年2月4日
二人の魔法属性が明らかになった。カトレアは闇属性であったが、スピカはなぜか闇属性も光属性も保持していた。前例だと闇と光がぶつかり合い、無属性となるはずだったのだが、なぜかスピカの魔力は互いを強調しあい、どちらの属性魔法も使えるようになっていた。前代未聞のことである。
属性とスピカの名前から、その特殊な属性は星属性と名付けられた。カトレアの魔力は平均を上回るものであったが、スピカはそれすらもはるかに超越していた。王や王妃もただただ驚くばかりであった。将来は二人とも偉大な魔法使いになることだろう。
**************
星属性…。スピカが前代未聞の魔法使い。そして女王様は闇属性…。
おかしい。私は確かに女王様から魔法が使えないと聞いている。
読み進めれば読み進めるほど謎ばかりが増えて行く。この全ての原因となる出来事が残りの半ページに書かれているだろうか?
私は先走る気持ちに押され、手早くページをめくっていった。しかしそれといったことは書かれていない。
気づけば残りは1ページとなっていた。
ここに何も書かれていなければ、諦めるか二冊目の日記手帳を探すしかない。
私は一度深く息を吸うと最後のページをめくった。
明星44年9月17日
カトレアの魔力が暴走した。
原因は不明だが、カトレアの膨大な魔力は魔界から巨大な魔人を召喚してしまった。魔人はエレクトラの国で暴れまわっている。私も戦いに行かなければ。この国を守るために。
**************
簡潔に書かれた文章は半ば走り書きのようになっていた。しかし日記は終わっていなかった。
魔人を封印した。この事件でエレクオラ国は人口の3分の2を失った。王と王妃は死亡。国の立て直しに新しい女王を立てることになったがスピカは魔力疾患で魔法が使えなくなってしまった。そのため王位継承の条件である「偉大な魔法使いであること」に反し、スピカは王位継承の資格も失った。第二王女のカトレアが王位につくことになったが、魔人による悲劇を起こした本人であるカトレアに反対の声が多く上がった。中には命を狙うものさえ現れた。領地は荒れ、国民は唯一の王女を恨み、このままでは国が滅んでしまう。私は決意した。
この国を守る。それが私の使命だ。
私が全ての魔力を使い、国民の記憶を消し、国を蘇らせる。死人は戻らないが国は再び歩き始めることができる。カトレアと言う新しい女王を迎えて。
さよなら。私の愛した国、エレクトラ。ずっと愛している、スピカ、カトレア。
**************
読み終えた私はしばらく現実に戻ってこられなかった。頭の中が混乱して目眩を起こす。
カトレアが魔人を召喚してしまい、多くの人が命を落とした。そしてスピカは魔力を失った。
魔人召喚は故意に行ったわけではないから女王様を責めるわけにはいかない。しかし…
その事実を欺き、女王として君臨するのはどうなのだろうか。
確かに王位継承者がカトレアしかいなかったのならしょうがないと言える。祖父がやったこととはいえ、謝罪の一つや二つあってもいいのではないか。たとえ国民が覚えていなくても。懺悔の気持ちはなくしていけないのではないか。罪悪感はないのだろうか。
私が怒りに拳を握りしめた時、背後から声がした。
「見てしまったのね」
振り返ったそこには殺気を帯びた女王様が立っていた。
「女王…様…」
顔を強張らせる私に女王様は人差し指を向けた。指先に黒い煙のようなものが集まっていく。そこで私はもっと恐ろしいことに気づいた。
女王様は魔力を失っていない。
「その日記のことは誰にも話さないでね。王政が崩れるから」
最後に見た女王様は綺麗な笑顔を浮かべていた。
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