上 下
13 / 44
光の矢

真犯人

しおりを挟む
「きゃああああ!」

その夜、私は女王様の悲鳴で目を覚ました。
城内のシャンデリアが一気に光を灯す。部屋を出ると、衛兵やメイドが王室へと急いでいた。私もその流れに乗り、王室を目指す。
「女王様!」
王室の中はひどく荒れていた。机の上にあった書類は床に散らばり、ほとんどが切り裂かれている。壁にも刃物がつけたような切り傷があり、本気で女王様を殺そうとしていたことが安易に理解できた。そして何より部屋の中に突き刺さった光の矢。消滅しつつあったがその輝きはまだ健在である。
私は床に散らばった書類に紛れ、青く小さな結晶が所々に混ざっていることに気づいた。これはきっとルークが女王様に渡した魔法石の欠片だろう。女王様はこの魔法石によって命を奪われずに済んだのだ。
そして本棚の下、衛兵に捕らえられた傷だらけの人物に私は言葉を失った。

「メイド…長」

赤い眼鏡はレンズが割れ、本人は肩で息をしているような状態だった。
「どういうことですの?なぜあなたが…だって光の矢はナターシャだけが…」
「女王様、まだナターシャを疑っておられるのですか?目の前に犯人はいらっしゃるのに。まあ私はそれでも構わないのだけど…」
メイド長は傷だらけの顔を上げた。その表情は笑っていた。
「あなたは木属性の魔法使いだったはずよ…。光の矢は光属性の者だけが使える魔法だもの」
「ええ、常識的にはそうでしょうね。常識的には」
メイド長は女王様の困惑した顔を面白そうに見つめて喋り続ける。
「魔法は生まれつきの属性で使える種類が限られてしまうわ。私であれば木。植物の成長を促したり、植物を模した飴細工を施したり。所詮そんなもの」
皆が皆動きを止め、彼女の話に聞き入っている。
「でも生まれつき決められた属性以外の魔法を使う方法はあるのよ。たった一つだけ。それは長年魔力を温存し、そのすべての魔力を一気に放出する。対価は、命よ」
そこでメイド長は血を吐いた。
「なぜそこまでして私を…」
「何があった?!」
突如部屋の入り口から声が響いた。
「ルーク様!」
そこにはルークと、魔法使いの象徴とも言える服装と帽子をかぶったおじいさんが立っていた。女王様はやってきたルークに顔を埋め泣き始めた。
「はいはい、王子様のご登場ですか。いいわね、女王様は女王という立場のみでそうやっていろんな人に守ってもらえるもの。何を言おうと自分の思い通り。憎いわ」
「それで私を殺そうと…?」
「何馬鹿なことを言ってるの女王様。そんな自分自身の恨みだけで私が命を賭けるわけないじゃない」
「じゃあ何が理由だ?どんな理由であれカトレア様を傷つけた罪は許さないがな」
ルークはそう言って、剣を片手に女王様の前へと歩み出た。
「あはは!許さないですって?笑わさないでちょうだい、何も知らないガキが!女王様は…っ」
メイド長が狂ったように笑いながら何かを言おうとした。しかしその言葉は紡がれることなく途中で途切れた。
私は何が起こったのか理解できなかった。目を離そうとしてもその場から指一本動かすことができなかった。
「いやあああ!」
誰かが叫び声をあげた。
息を飲む音が聞こえた。
その場に崩れ落ちる者が現れた。
背後で誰かが吐き出した。
ルークの表情が青ざめている。
女王様は両手で顔を覆っていた。
彼女を捉えていた衛兵が顔を引きつらせ、後退した。

視線の先、崩れ落ちた本棚の下、

メイド長の首が、床に転がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換スーツ

廣瀬純一
ファンタジー
着ると性転換するスーツの話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...