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第2章 タロット・コンバッティメント

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死んだ。
殺された。
あんなタロットカード奮発して買うんじゃなかった。
え?てか、なんで僕殺されなきゃいけないわけ?
ちゃんと紙の指示通りカード引いたよな?

「ふざけんな!!」
「おっと」
まず目に入ったのは荒れた自室だった。死神が驚いたように身を引いている。
夢ではない。けど死んでもいない…?もしや生き返ったゾンビ…?
拓人はパニックに埋め尽くされた脳内で、たった一言口にした。
「ボクハイキテマスカ?」
死神に答えを求めるというのもおかしな話だが、そもそもいつまで経っても現実が見えない拓人は、答えをその死神に求める以外、選択肢がなかった。
「あっははは!君面白いな!生きてるよ、安心しろ」
「でもさっき大鎌で…」
「ああこれな…」
死神は先ほど拓人の首に当てていた大鎌を再び構え直した。
脳内はとっくに理解の域を超えてしまったのか、拓人に恐怖心が湧くことはなかった。
「これはニセモノの鎌だ」
「ニセモノ?!」
「ああ。このカードに俺を封印した人が作ったビジュアル、とでも言っておこうか。カードを見てみろ。鎌なんて持ってないし、そもそも俺とは全く似つかないだろ?それとも、俺の顔が骸骨の方が良かったか?」
数分前の拓人なら怯えきって「うわああ!すいません!今のままで大丈夫です!」なんて言っていたかもしれない。しかし今は…
「そうなんですね。ちょっと意味がわからないです。封印?あなたは誰なんですか?」
「ちょっと君?!魂どっかいってるよ?!」
死神が慌てる始末である。
「ちゃんと説明するから戻ってこい!」
そこで拓人の意識はやっと現実へと戻って来た。
「分かりやすくお願いします」
思考が戻って来た拓人は先ほどの緊迫した空気が消えているのに気づく。よく見れば彼は見た目は死神であれ、性格は普通の友達といった感じであった。
「むかーしむかし、あるところに平凡に飽きた人物がおりました~」
「真面目に話せよ」
「真面目に話してるぜ?まあ聞きなって」
拓人の冷たい視線に笑みを返すと、死神は続きを語り出した。
「平凡に飽きたその人はある時思いつきました。この平凡な日常に刺激を与えようと!幸せに飢えた人間に奇跡を与えてあげようと!」
高々と語る死神に拓人は冷たい視線を崩さない。
「驚異的な科学技術と霊能力を持つその人はタロットカードを媒体にして、刺激的なゲームを開発しました。それがタロット・コンバッティメント」
「タロット・コンバッティメント?」
「イタリア語でタロット戦闘という意味。タロットはわかるだろ?タロットカードのタロット。その人はあるタロットカード制作会社と協力してタロットカードの各一枚ずつに、それぞれのカードを司る霊をビジュアル化して封印しました。その死神のカードが俺」
「じゃあ君は幽霊なのか」
いつの間に霊感を手にしてしまったのか…。拓人は自らの右手を見つめた。しかしそれを否定するように死神は少し悩んだように表情を曇らせた。
「幽霊とはちょっと違うかなー…。うーん…難しい…」
死神が本気で悩み始めたため拓人は慌てて話の先を促した。
「まあその辺はいいや!ところでそのゲームってどんなものなの?」
「このゲームはね…どんなだっけ?」
死神は苦笑いを浮かべて目をそらした。
「まさかルールを忘れたとか…」
「あー!俺説明書持ってるんだった!」
一体なんなんだこの死神は…。出会った時との印象が違いすぎる…。拓人はため息をついた。
死神はそう言って黒い服の中から一冊の赤い本を取り出した。色の対比のせいでまるで心臓を取り出したかのような錯覚に陥る。
死神は何食わぬ顔でパラパラとその本のページをめくっていく。拓人はそのページを見てギョッとした。
本自体はちょっと厚めの日記帳のようだが、中は…見える限り白紙だ。
「あったあった」
死神は真ん中あたりのページで手を止めた。そこには数行、普通の文字が印刷されていた。あの白紙には何か意味があるのだろうか。
「ったく、なんでこれだけページがあってほとんど白紙なんだよ」
死神が呟く。どうやら理由はないようだ。
「それじゃあ、タロット・コンバッティメントのルールを説明します」
当の死神さんは相変わらず見下すようなにやけ顏だが、説明書だという本を手に持っている時点ですでに迫力は皆無。拓人も死神もルールさえ知らないゲーム初心者であった。

『タロット・コンバッティメントは願いを叶えられる奇跡のゲームである。当社のタロットカードを購入された運のいい方のみ参加することができます。
ルールは簡単です。戦闘に勝つごとに一つ、願いを叶えることができます。
詳しくは実践で学んでください』

拓人と死神は顔を見合わせた。
「だって」
「だって、じゃないよ!君はカードに封印されてたんだろ?!何か知らないのかよ!」
「君じゃなくてモルテだ」
ツッコミどころが間違っている。死神はどこかずれているようだ。
「モルテ、何か知らないの?」
モルテは少し悩むような仕草をした後「知らない」とだけ呟いた。
拓人はうなだれる。とにかく実践してみないと何もわからないということだ。
「そもそも実践しろってどうすりゃいいんだよ。ゲーム仕様もわからないのに…」
答えを求めるも、モルテは知らないと顔を背けていた。本当他人事だ。
「あ!」
そこで拓人は一つひらめく。
「別のカードに封印されている人ならわかる人がいるんじゃ…!」
「それだ!」
名案だと目を輝かせているモルテを横目に、拓人はすべてのカードをもう一度シャッフルした。そしてその中から一枚のカードを引き出す。
「法王…」
これは何か知っている人物のような気がする…と二人で意気込んでそのカードを見つめる。
しかしいくら待ってもあの強風が吹くことはなかった。
「あー…短時間に同じことを占ってはいけないってタブーが適用されているのかもな」
拓人は妙な笑顔を浮かべてモルテを見つめる。え?だってそもそもタロットカードの常識を超越してる現状なんだしここで基礎のタブー持ってくることなくないですか?
「ま、とりあえず君のカードは俺ってことだな。ところで君名前は?」
「宇宮拓人」
「拓人くん、よろしくねぇ」
モルテはふざけたようににやけながら拓人と握手を交わした。
こうしてよく分からないゲーム、タロット・コンバッティメントでの僕のカードは死神のモルテになったのだった。
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