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カルと使い魔
ペンダント
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「え?!人間界に留学?!」
「うん。行こうと思うの」
私はすべてのことをハクガに話していた。
「いやいやいや、俺を召喚しといてそれはないだろ」
「大丈夫、使い魔も一緒に行けるみたいだし」
私は人間界のパンフレットとともに受け取っていた留学詳細のプリントに目を通していた。
「ほらここ。使い魔を連れて行くことは可能って。ただし魔力は制限されるものとする。だって」
「ふーん…、魔力制限がかかるのか。魔法がない世界なんてつまんなくて不便そうだな」
「行きたくない?」
「カルが行くなら行く。カルだけじゃ何をしでかすかわからないからね」
「バカにしないで!」
言い返してしまったものの、一緒に行くと言ってくれたことが嬉しかった。
「じゃあ明日、校長先生に言いに行こう」
「おう」
ハクガと少し打ち解けた気がして、私は自然と笑みをこぼした。
「ふう…」
翌日、校長先生との話が終わったのは朝礼の終わりを告げるチャイムがなった後だった。
「カル、疲れがあからさまに顔に出てるぞ」
「しょうがないでしょ。あんなに長々と話されたら嫌でも疲れるわよ」
こぼした本音にハクガが笑い出した。
「優等生面が外れてる」
「うるさい!どうせ私は魔法が使えない根っからの劣等生よ」
その後ハクガを影の中で眠らせ、私は平然と教室のドアを開けた。
「あーら、カル、遅かったじゃない。もしかしてまたお説教されてたのかしら?」
真っ先に私の前へ立ちはだかったのは例の美少女。前日の件で懲りなかったのか。
「お説教なわけないじゃん。ミレーナじゃあるまいし」
「何よそれ!まるで私が毎日お説教を受けてるみたいじゃない!」
「あれ?この前誰のせいで指導室に連れて行かれたんだっけ?」
「うっ…」
みるみる顔が真っ赤になっていくミレーナ。よほどプライドが傷ついているらしい。
「それじゃ」
私はいつも通りの態度で自分の席に向かった。
「カルのくせに使い魔なんて…」
ミレーナの呟きが私に届くことはなかった。
日が傾き、世界がオレンジに染まる頃、私は自室で留学の準備を進めていた。
基本的な生活用品などは先に転送してもらったので、今準備しているのは主に貴重品などだ。
人間界の生活様式が書かれている冊子、学校から渡されたレポート紙、そしていつも持ち歩いている日記手帳などを鞄に詰める。
「忘れ物はないか?」
ハクガの声でもう一度部屋を見渡した。見慣れた部屋はいつもより荷物が少ないせいか、広く、寂しく感じられた。
「あ…」
私の目は一つの小箱に止まった。今まで他の道具で埋もれていたのか少し埃をかぶっている。軽く埃を払うと懐かしい花の模様が姿を現した。
「なにそれ」
「これは、昔両親と撮った写真のペンダントが入ってるの」
私は小箱をそっと開けた。
金の鎖、金の縁で飾られたペンダントの中に、幼い頃の私と微笑む両親が写っている。ずっと大切にしまっておいたものだった。
「え、この写真…止まってる」
ハクガはその写真を見るなり驚きの声をあげた。
この世界での写真は一定の時間を切り取り、繰り返し再生されるものだ。つまり動いているのが普通である。一瞬を切り取るには多くの魔力と時間がかかるのだ。そのため、静止した写真はとても貴重で高価なのだ。
「両親が私のために作ってくれたんだ」
「いい両親だね」
「うん」
私は両親の顔を思い出し、思わず微笑んだ。先ほど顔を見たというのに、どこか懐かしくなったのだ。
「それ持って行く?」
「そうだな…お守りとして持って行こうかな」
私はペンダントを小箱から取り出すとその重みを確かめ、鞄の中に入れた。
まだ出発の日にはなっていないというのに、緊張と不安が交差する。人間界とはどういうところなんだろう。「カガク」とは一体何なのだろう。
その日、私はなかなか眠ることができなかった。
「うん。行こうと思うの」
私はすべてのことをハクガに話していた。
「いやいやいや、俺を召喚しといてそれはないだろ」
「大丈夫、使い魔も一緒に行けるみたいだし」
私は人間界のパンフレットとともに受け取っていた留学詳細のプリントに目を通していた。
「ほらここ。使い魔を連れて行くことは可能って。ただし魔力は制限されるものとする。だって」
「ふーん…、魔力制限がかかるのか。魔法がない世界なんてつまんなくて不便そうだな」
「行きたくない?」
「カルが行くなら行く。カルだけじゃ何をしでかすかわからないからね」
「バカにしないで!」
言い返してしまったものの、一緒に行くと言ってくれたことが嬉しかった。
「じゃあ明日、校長先生に言いに行こう」
「おう」
ハクガと少し打ち解けた気がして、私は自然と笑みをこぼした。
「ふう…」
翌日、校長先生との話が終わったのは朝礼の終わりを告げるチャイムがなった後だった。
「カル、疲れがあからさまに顔に出てるぞ」
「しょうがないでしょ。あんなに長々と話されたら嫌でも疲れるわよ」
こぼした本音にハクガが笑い出した。
「優等生面が外れてる」
「うるさい!どうせ私は魔法が使えない根っからの劣等生よ」
その後ハクガを影の中で眠らせ、私は平然と教室のドアを開けた。
「あーら、カル、遅かったじゃない。もしかしてまたお説教されてたのかしら?」
真っ先に私の前へ立ちはだかったのは例の美少女。前日の件で懲りなかったのか。
「お説教なわけないじゃん。ミレーナじゃあるまいし」
「何よそれ!まるで私が毎日お説教を受けてるみたいじゃない!」
「あれ?この前誰のせいで指導室に連れて行かれたんだっけ?」
「うっ…」
みるみる顔が真っ赤になっていくミレーナ。よほどプライドが傷ついているらしい。
「それじゃ」
私はいつも通りの態度で自分の席に向かった。
「カルのくせに使い魔なんて…」
ミレーナの呟きが私に届くことはなかった。
日が傾き、世界がオレンジに染まる頃、私は自室で留学の準備を進めていた。
基本的な生活用品などは先に転送してもらったので、今準備しているのは主に貴重品などだ。
人間界の生活様式が書かれている冊子、学校から渡されたレポート紙、そしていつも持ち歩いている日記手帳などを鞄に詰める。
「忘れ物はないか?」
ハクガの声でもう一度部屋を見渡した。見慣れた部屋はいつもより荷物が少ないせいか、広く、寂しく感じられた。
「あ…」
私の目は一つの小箱に止まった。今まで他の道具で埋もれていたのか少し埃をかぶっている。軽く埃を払うと懐かしい花の模様が姿を現した。
「なにそれ」
「これは、昔両親と撮った写真のペンダントが入ってるの」
私は小箱をそっと開けた。
金の鎖、金の縁で飾られたペンダントの中に、幼い頃の私と微笑む両親が写っている。ずっと大切にしまっておいたものだった。
「え、この写真…止まってる」
ハクガはその写真を見るなり驚きの声をあげた。
この世界での写真は一定の時間を切り取り、繰り返し再生されるものだ。つまり動いているのが普通である。一瞬を切り取るには多くの魔力と時間がかかるのだ。そのため、静止した写真はとても貴重で高価なのだ。
「両親が私のために作ってくれたんだ」
「いい両親だね」
「うん」
私は両親の顔を思い出し、思わず微笑んだ。先ほど顔を見たというのに、どこか懐かしくなったのだ。
「それ持って行く?」
「そうだな…お守りとして持って行こうかな」
私はペンダントを小箱から取り出すとその重みを確かめ、鞄の中に入れた。
まだ出発の日にはなっていないというのに、緊張と不安が交差する。人間界とはどういうところなんだろう。「カガク」とは一体何なのだろう。
その日、私はなかなか眠ることができなかった。
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