ナイトシューター

ウツ。

文字の大きさ
上 下
2 / 2

第1章 始まり

しおりを挟む
一人の少年が街中を走っていた。その表情は喜びに満ち溢れているように見える。
少年の名はシェル。10歳である。薄い茶髪に緑色の瞳。肌はとても健康的で、スポーツ少年を連想させる。
「ルチアー!いくよー!」
シェルはとある家の前に来ると、そう言いながら扉を叩いた。
「はいはい。わかってるわよ。ちょっとは落ち着いたら?」
呆れたように家から出てきたのは綺麗な栗色の髪を二つに結った少女だった。シェルの幼馴染、ルチアである。
「これが落ち着いていられるかよ!ついにナイトシューター本部見学の日が来たんだよ?!早く行こう!」
シェルは待ちきれない!と、駈け出す素振りを見せた。ルチアはそんなシェルに苦笑をこぼした。

シェルには夢があった。それはナイトシューターになることだ。
この世界には突如として何もない空間から動物や昆虫に鎧をつけたような巨大生物が現れることがある。その生物は目に映るすべての人間を襲い、殺していく。人々はそれを「死を下す者」として「ディスペアー」と呼んだ。
人々をディスペアーから守る騎士団、それこそが「ナイトシューター」である。
ナイトシューターは限られた人にしかなることができない。戦う意思、戦うための運動能力、冷静に事を捉えられる思考力や精神力。そして命をかけて戦う覚悟がある者だけだ。
昔は戦う意思さえあればナイトシューターに入団できた。しかしそれでは戦闘力に欠ける、ということで、その年から高い運動神経を持つスポーツ選手は全員強制的にナイトシューターに入団させられた。
現在強制入団はなくなったが、戦える力を持ちながらなぜそれを人々を救うためにあてないのか、という目で見られることが多くなったため、現在スポーツ選手という職業は廃れつつある。
シェルがナイトシューターに憧れを持ったのは7歳の時だ。
ある日、シェルが友達と遊んでいた公園にディスペアーは現れた。見た目はウサギのようだった。
しかし、赤い目が四つ。大きさは7mにも達し、口は裂けていた。そして顔の上半分を締め付けるように兜をつけ、手や足、腹にも鉄でできたような甲冑を着けていた。お世辞にも可愛いウサギとは言えなかった。
シェルたちはその恐ろしい姿に声をあげることも忘れ、ただただ立ち竦んだ。
ディスペアーがシェルたちに向かって拳を振り上げる。シェルは反射的に目を閉じた。しかしその拳が振り下ろされることはなかった。
シェルが目を開けた時、振り上げられていたディスペアーの拳はなかった。拳はおろか、右肩から全てが切り落とされていた。切断面には機械のようなものが埋め込まれていたのをなんとなく覚えている。
「おりゃああ!」
何が起こったのかわからず呆然としていたシェルに、力強い声が飛び込んできた。
声の方を見ると、一人の袴のような服を着た男性がディスペアーに飛びかかっていた。そしてディスペアーの胸元を刀で大きくクロスで切り刻んだ。ディスペアーは地響きするような声をあげて倒れ、砂となって消えた。
「大丈夫だったかい?」
男性は刀をしまい、シェルたちに声をかけた。友達の中には安堵で泣き出す者もいた。
しかしその時シェルはその男性をただかっこいいと思っていた。あの大きな怪物に危険を顧みずに飛び込んでいく勇姿に。刀一本でディスペアーを倒せる力強さに。
ナイトシューターの活躍はよくテレビで見ていた。その時は何も感じはしなかった。ただ自分たちをディスペアーから守ってくれる存在であり、他人事だった。しかし今、自分の目の前にディスペアーが現れ、初めてその人たちのすごさを知った。
その時からシェルはナイトシューターに憧れを持った。自分もナイトシューターに入団して、人々を守りたいと思うようになったのだ。

そしてシェルは幸運にもナイトシューターに知り合いがいた。それが幼馴染ルチアの両親であった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

天使さんと悪魔くん

遊霊
ミステリー
キュートで笑顔が素敵な 天使さんと、いつも無感情でトゲトゲしてる 悪魔くんと普通な人間 同助のキズナの物語.... ある日突然主人公の一心同助(ドースケって呼んで)の家に天使さんと悪魔くんが訪ねてきた。 異次元からやってきた天使さんと悪魔くんは現世に居場所がなく仕方なくたまたま見かけた同助の家に居候することに。 困る同助はこのまま外にいたら何をしでかすか分からない二人を仕方なく受け入れる。 天使さんと悪魔くんは無事元の世界へ帰ることができるのか....? ※R15 全文がピエロで愚かです。

ユートピア

紅羽 もみじ
ミステリー
一見、何の変哲もない事件。しかし、その裏を探っていくと歪み切った人間たちの思惑が交錯していた。 「彼ら」を救えるのは、事実か、虚実か。

最近、夫の様子がちょっとおかしい

野地マルテ
ミステリー
シーラは、探偵事務所でパートタイマーとして働くごくごく普通の兼業主婦。一人息子が寄宿学校に入り、時間に余裕ができたシーラは夫と二人きりの生活を楽しもうと考えていたが、最近夫の様子がおかしいのだ。話しかけても上の空。休みの日は「チェスをしに行く」と言い、いそいそと出かけていく。 シーラは夫が浮気をしているのではないかと疑いはじめる。

影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -

葉羽
ミステリー
孤島に建つ天文台廃墟「虚塔」で相次ぐ怪死事件。被害者たちは皆一様に、存在しない「何か」に怯え、精神を蝕まれて死に至ったという。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に島を訪れ、事件の謎に挑む。だが、彼らを待ち受けていたのは、常識を覆す恐るべき真実だった。歪んだ視界、錯綜する時間、そして影のように忍び寄る「異形」の恐怖。葉羽は、科学と論理を武器に、目に見えない迷宮からの脱出を試みる。果たして彼は、虚塔に潜む戦慄の謎を解き明かし、彩由美を守り抜くことができるのか? 真実の扉が開かれた時、予測不能のホラーが読者を襲う。

停止列車

テトラポット
ミステリー
僕は今も、列車に乗り続けている。 この列車が止まることは決してない 僕以外には誰も乗っていない ずっとずっと、僕が降りることは無い。

「鏡像のイデア」 難解な推理小説

葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。

アサシンのキング

ミステリー
経験豊富な暗殺者は、逃亡中に不死鳥の再生を無意識に引き起こし、人生が劇的に変わる。闇と超自然の世界の間で、新たな力を駆使して生き延びなければならない。

とある女の身の上話

紅羽 もみじ
ミステリー
主人公の岡田ひろみは、夫と幼稚園に入園する息子の3人暮らし。ひろみの教育方針で夫を説得し、息子を私立の幼稚園に通わせることにした。入園後には、保護者同士のつながり、いわゆるママ友との交友もできていく。そんな折、1人のママ友からの一言で、ひろみの人生は少しずつ変化していくこととなる。変化した先で待っているひろみの運命とは。

処理中です...