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第3章 偽りの出会い

縛られた二人と縛った一人

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あの少女、ノウ・パーキング・エリアことエリアを、少年、ワンウェイことウェイに預け一週間と少しが経った。
エリアは俺やウェイの前でよく笑顔を見せてくれるようになった。一人にするとやはり発狂してしまうが、それでもだいぶ精神状態は回復していると思う。
今日もエリアとウェイに見送られアパートを出てきた。行き先はルーラーのところである。珍しく緊急呼び出しを受けたのだ。しばらく帰っていなかったこともあり、少しだけ恐怖を感じる。風にはためく白をそっと見つめた。
壁を飛び越え、寂しげなドアを開ける。
「呼び出しとは珍しいな、ルーラー」
あえて強気で問う。ルーラーに弱気など見せてはいけない。経験上俺はそう学んでいた。
「ちょっとな。今日は大きな事故が起こる。その手伝いに呼んだだけだ」
闇に響き渡る中性的な声の返答にホッと胸をなでおろす。どうやらお叱りはないようだ。
「初の協力仕事だ。頑張れよ」
「は?」
俺とルーラーなら大体の事故現場で協力している。ウェイたちの件もそうだ。だから「初」というのは違和感があった。
「本当に二人で協力しないといけない事故なの?ルーラー」
疑問をぶつけようとした時、俺の横から久々に聞く高めの声が響いた。
「エンタリィ…」
俺は驚いた。エンタリィとはウェイが正面衝突して死亡させたことになっている女性…エリアの言うお姉ちゃんである。本名はノウ・エンタリィだ。
暗闇に慣れてきたことで、エンタリィの頬に、ルーラーに助けられた証拠である進入禁止の印が確認できた。
ただ、彼女はあまりこの場に姿を現さない。ルーラー曰く、どっかをほっつき歩いているんだそうだ。正直なところ、俺も顔を合わすのは二、三度目にしかならない。
そんな彼女はそもそも人を分別するという仕事をしているのだろうか?雰囲気からも鎖を扱う姿は想像しがたい。
「まあ協力というか補佐が必要な感じか」
ルーラーはそう彼女に返した。
「詳しく説明してくれよ。なんで今回はこんなに大事なんだ?」
ルーラーは俺がそう聞いてくると読んでいたのか「エンタリィに聞け」とだけ言って姿を消した。
「時間がないから現場に向かいながら話すね」
エンタリィと共に、俺も暗闇を後にした。
ルーラーが笑っていたように感じたのは気のせいか。いや、いつものことか。



「今日もいい天気ね」
路上を少し足早に歩いていく中、エンタリィが急に切り出してきた。
「ああ、そうだな」
俺はそっけなく返した。正直、どうだっていいことだ。
「こんな日はきっと夕日が綺麗よ。帰り、一緒に見ない?いい場所があるの!」
「そうなのか?いいな。寄ってくよ」
「やった!」
エンタリィはどこか子供じみた笑顔を見せた。彼女もこんな表情をするんだなと初めて気がついた。
「そうだ。俺も綺麗に朝日が見れる場所知ってるんだぜ。帰り、ついでに教えてやるよ」
「本当?!嬉しい!」
エンタリィの心からの笑みに、俺もつられて笑みを浮かべた。嘲笑ではなく、本当の笑顔を。



たわいのない話に花が咲き、こんな時間が続けばいいと思った矢先、現場へと到着した。
大きなビルが目の前に立ちはだかっている。どうやらデパートのようだ。
エンタリィの話によると、今日、このデパートで放火事件が起こるらしい。それは事故ではなくれっきとした事件じゃないかと吠えたい気持ちを必死に飲み込む。俺はてっきり大型車などの事故を予想していたのだ。だってルーラーは事故って言っていただろ?!
まあそんなことは置いといて、とりあえずその放火事件を起こした犯人を俺たちで罪から逃すかどうかの分別をしろ、ということらしい。
…これ俺一人で十分だぞ?
それとも犯人の人数が多いのか?
「犯人探索と行こうか?」
エンタリィに促され、俺の疑問は散っていった。



「ルーラーの言うところによると火元は4階みたい。ってことは犯人も4階にいるはずだね」
エンタリィは淡々とエスカレーターに乗り、4階へ向かっていく。俺はその背中を追った。
ルーラーの唯一の欠点といえば、事故や事件の起こる場所は特定できても、死に際に立たされる者や罪を持つ者はその出来事が起こってからじゃないとわからないということだ。
4階には本屋、雑貨店などが限られた空間内に並んでいた。午後2時すぎということもあって人も多く感じる。
色とりどりな品を横目に流し、人目のつかないい場所を探していた俺は、不意に視線を感じて振り返った。
「え…?」
そこには茶色の髪を二つに結った少女が立っていた。その少女の視線は俺たちに向けられていた。
俺たちのいる次元は普通の人とは違う。だから姿は見えないはずなのだ。でもあの少女は明らかに俺たちを見ている。
ということはー・・・
罪から逃れた者か…?
エンタリィは気づいていないらしい。エンタリィに声をかけようとした時、少女は何事もなかったように人の流れに紛れていった。
見失ってしまうと気のせいだったのではないかと思えてくる。いや、むしろ気のせいだったという可能性の方が高い。偶然視線の先に俺たちがいただけかもしれないのだ。
「エグジィットどうしたの?」
立ち止まっていた俺をエンタリィは不思議そうに見つめていた。
「あ、いや、なんでもない」
俺はごまかし笑いを浮かべた。



私は知っている。
あの人たちを見た場所では少なからず事故や事件が起こることを。
私は恐怖に急かされるように出口へと足を進めた。



「油の匂いがする…」
エンタリィがそう発したのは、あの少女を見失ってすぐのことだった。
俺たちが向かっているのは4階で最も人目のつかない隅の通路だった。
見慣れた緑の標識とともに階段が見える。その付近で数人の男が何かを話していた。
「あいつらか…」
「たぶんね」
一歩一歩近づくにつれ、その男たちの会話は耳へと流れ込んできた。
「防犯カメラはないし、ここはうってつけの場所だな」
「久々だよ、この緊張と興奮!半年前以来だっけ?」
「その時は何人死んだんだっけな。全然しらねぇや。はははっ。てか前の事件で普通防犯カメラつけるだろ。低脳野郎が」
半年前…?
おかしい…なぜか頭部と首の傷が痛む…。
「どうしたの?」
疼く痛みが表情に出ていたのか、エンタリィが心配そうに覗き込んでくる。
「いや、なんでもない。大丈夫だ」
俺は再び何度目かになるごまかし笑いを浮かべた。
罪を背負うものは今見えている限り5人だ。でもたった5人なら俺一人で片付けられる。だからと言って他に仲間らしい人は見つからない。
「そろそろかな。人が増えてきた。愚かな人間たちだよ!」
笑いながらリーダーらしき男がマッチを取り出した。仲間とともに階段を数歩下がる。
「いくぜ?」
男はマッチを擦り、



油をまいている方向へと投げ捨てた。
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