マッシブスピリッツ

★白狐☆

文字の大きさ
上 下
2 / 15

転生ってもっと気の利くものだと思ってました

しおりを挟む
「、、、、、、、、、、何故なんだ」


「いや、コッチが聞きたいし。早くこっから出てくれない?こんなんじゃ、出るものも出ないし」


 突然、トイレの個室に転移させられた。何故トイレだと解るのかと問われれば、藤吉ユルリの向かいには下半身を露出させて座っている男性が目の前に居たからである。


 訳が分からなかったのは、目の前にいる男性の衣服は一瞬何処かの民族衣装かと思われたが、どうにもその隣に異様な大きさの日常ではお目にかかれない様な無骨な大剣が立て掛けてあった事である。


「うおぉぉぉぉ!ち、ちん、おと、露出の男がぁぁぁぁぁぁ!!」


「落ちつけ!だから早く出てって俺も見られたくないから!」


 突然の理解。と言うか一拍置いたことにより冷静さを取り戻し、いかに自分がおかしな状況に置かれているのか認知した瞬間から、藤吉ユルリは暴走した。


「嫌ぁぁぁ!お嫁に行けないぃぃぃぃ」


「こっちだって嫌だよ!人に用足す姿なんて見られたく無いからとっとと出てって!お婿に行けないからぁぁぁぁぁぁ!?」


 こうして、藤吉ユルリはトイレを追い出された。男子トイレから出た時、小さく〝父さん母さんごめんなさい。アタシ汚れちゃいました〝と呟きながらようやく頭を上げると、見たことも無い世界が広がっていた。


 広い天井、丸太で出来た壁に装飾品やテーブルや椅子までもが木で統一された、大人数が居てもパーティが出来る様な広々とした二階建てのログハウスの様な建物。


 その中でゲームのコスプレ大会でもしているのかと思っていたが、どうにも不自然であった為、建物から出ると通行人や街の雰囲気までもが見たこともない場所で、むしろ此方が浮いている事に気がついた。


 しかし、ユルリはそんな事よりも気にかかる事があった。それは残念ながら藤吉ユルリの異世界転生先は男子トイレの個室でした。って納得行くかあぁぁぁぁぁぁ!!?


 まぁ、万が一。一般人である藤吉ユルリがテレビかなんかのドッキリにかかっている可能性は宝くじを買うより低いかもしれないが、無いこともないかもしれないと建物に戻り受付らしき女性の元に駆け寄った。


「あ、あ、あの!!此処ってドラマかなんかのスタジオですか?!と言うかそうだと言ってくれ美しきエルフっぽい耳を携えたセニョール!」


「はい?此処は大陸の果て。グレストと言う街のギルドになります。ちなみに私はエルフのクウォーターなので当たりといえば当たりですね」


「、、、、、、、、、デスヨネ」


 意気消沈していたユルリの元に、一人の冒険者がやって来た。その顔には見覚えがあった、が出来れば他人のフリをしたかった。しかし来てしまったものは仕方ないと、恐る恐るそのご尊顔を拝見する。


「やっべ。激おこですわ。うっわー顔面某ビーフジャーキーの顔みたい、社会人的に平謝りしとこ。どうもこの度はスミマセンでした」


「何言ってんだかわからんが、この冒険者ギルド五指に入るスパーク様の、、、、か、か、か、下半身を見たからには、ただでは済まさんからな」


 スパークは顔が真っ赤だった。ちなみにユルリもちょっと思い出して顔を赤らめていたが、咳払いして誤魔化した。


「まぁまぁ、ちっちゃい事は気にしないで。そんな立派な剣は女性に向ける為にあるんじゃないでしょ?」


「、、、、、うぐぅ」


 どうやら、スパークは口のほうはあまり立たないらしく口論にすらならなかった。最悪、剣を向けられた瞬間に逃げる準備はしていたが、何とかその危機は回避できた様である。


「ところで魔法使い。何故あんな場所に転移魔法テレポートを使ったんだ。座標違いにも程があるだろうが」


「スミマセン、アタシ魔法使いでも何でもなく村人みたいなものです」


「馬鹿を言え、単体での転移は本人以外は出来ない筈だ。もしや大魔導師マジシャンロードか王宮魔術師とでも繋がりでもあるのか?」


 話を聞くと、他人を転移させる事が出来る魔法使いは限られているらしい。弟子の取れる様な名のある魔を導く師、つまりは魔導師クラス以外は他者を転移させる事など不可能なのだとスパークは語った。


「いえ、ですから。私の衣服を見てもらえれば解りますよねスパークさん。全然見た事ない素材とかでしょ?」


 ユルリに言われスパークはマジマジとユルリのパジャマを見つめた。寝る前に異世界転生が行われたせいで、寝巻きのままずっとウロウロしていた事に今頃気がついていた。


「新手の法衣なんじゃないのか?それにアンタの腰には魔導書が装備されてるじゃないか」


「これには防御力なんて有りません!腰にって、、、、、、、、何だこれ」


 ユルリはこの世界の衣服を見れば何となく察しがついたが、此方の世界の住人はユルリの寝巻きを見ても何も感じないらしい。いやむしろ、変な格好の奴くらいには思われているかもしれないが。


 魔導書なんて自分が持っている訳がない為、腰の本を取り出すとそれはあの古い雑貨屋で手に入れた冒険の書であった。


「これ魔導書じゃなくて冒険の書。って何?」


 自分で言っていて意味がわからなかった。そもそも冒険の書とは何なのかも分からず、スパークに思わず尋ねる程であった。


「マジかよ。冒険の書って言やぁ〝別名蘇りの書〝って言われる特級魔術道具じゃねえか、まさか生きてこの目で拝める事が出来るとは」


「え!?これって貴重な物だったのやっぱり」


「、、、、、、何で知らねぇんだよ!宝の持ち腐れじゃねぇか!冒険の書には赤い賢者の石が埋め込まれ、所有者には如何なる不幸が訪れても冒険者の歩みを阻む事は出来ないとされる、宝物庫からも見つかる事がなかなか無い特級魔術道具オーバーレアじゃねぇか」


「全然何言ってるか分からん。取り敢えず売るのは難しそうだな」


 スパークは〝この女、こんなお宝売る気だったのか!〝と、信じられないとたじろぎながら呆れていると、冒険者達が冒険の書見たさに野次馬達が集まって来ていた。


「クソッ!一旦此処離れるぞ、これじゃ話もできない」


 二人を取り囲んでいた野次馬達を無理矢理押し退けて、ギルドから一度離れ町の入り口付近にやって来た。町の外はガンマンでも居そうな荒野で砂と岩の他何もなく赤土の煙が巻き起こっていた。


「つまり、これって何?貴重な本ってのは分かったけど」


「それを持って居れば、何度冒険に倒れても決して死ぬ事はない最強のお守りだ」


 いや、まず死ぬ様な場面に会いたくは無いんだが、など言えばまた説教じみたスパークの話が続くかも知れないとユルリは言葉を飲み込んだ。


「そうだ。ちょっとあの小屋で待ってろ、すぐに戻る。それとあまり歩き回らない様に」


 そう言いスパークは一人町の方に戻って行った。ユルリはとりあえず小屋の方に向かいながらふと、遥か先の空に何か見える物がある事に気がついた。


「何だろ、巨大な建物?でもあの形は」


 遥か先にあるそれは、雲と霞みがかったモヤのせいでハッキリとしたものは見えなかったが、巨大なその輪郭はボンヤリと捉えられていた。


 暫くそれを眺めていると小屋にスパークが戻ってきた。手には何か持っているのが分かった。それをユルリに手渡すと、スパークが言ってきた。


「その格好は目立って仕方ないからな。それにさっきのギルドで冒険の書を持っている事がバレてるから、万が一を考えて着替える方が良いだろう」


 手渡されたのは着替えであった。それも、冒険者が着る様な全身を覆えるフード付きローブの様な服で、見た目は魔法使いの様な格好であった。


「ありがとう。何か怖い人かと思ってたけど色々助かります」


 スパークが小屋を出ると、すぐさまユルリは持ってきた服に着替えた。フードを被っている為、怪しさが普通では増すが異世界には沢山そういった人々が行き交う為、カモフラージュは成功している様に思えた。


 外に出るとスパークが待っていた。服を貰えたのは嬉しかったが、何か下心でも有るのではないかと勘ぐっていると、それを遮る様に話しかけて来た。


「大丈夫そうだな、さっきも言ったが冒険の書は所有者にしか効果はない。だが、その価値から高値で取引される為、狙われる可能性は高い。実際、服を買いに行った際にお前を捜している奴等が4、5人は居たからな」


「そんな。アタシただの村人Aですよ!そんな危ない目に会いたくないし、簡単にやられちゃいますよ」


「、、、、、、、、だろうな。だから、俺と契約しないか?勿論、タダじゃねぇが暫くは一緒にパーティを組むだけでも良い」


「それじゃ、スパークさんにメリットは有りませんよ。それにアタシは出来れば元の世界に帰りたいだけですし」


「そうだな。まず俺のメリットについてだが、冒険の書はパーティが全滅した際、その恩恵はアンタ一人だけでなくパーティにも付与される。つまり復活代も手間もないんだ」


 通常。パーティが全滅するとギルドに明記された遺体は、自動的に復活の泉か町の復活屋に転送される。しかし、パーティに冒険の書を持つものが居るだけで、その恩恵を受ける事が出来るとのことだった。


「いつも思うんだけど、異世界ここに死の概念ないの?」


「死ならある。ギルドに登録していない者、病気と寿命。復活には制限があるから、蘇りのできない場所だってある。万能じゃないんだ」


 ただ、ユルリの持つ冒険の書によって通常の冒険者よりも蘇りの幅も広がる為、そう言った意味でもかなりの価値が生まれるとの事だった。


ーーーーーーーーその時だった。


 町の中心地から爆発音が聞こえた。スパークはすぐさま小屋を飛び出すと、爆発音のあった方向に聞き耳を立てていた。


「あっちには行きつけの飲み屋花花があるってのに!!」


 スパークはそれだけ言うとユルリを置いて町の中心地に向かって走って行った。残されたユルリはどうするかを考えてみたが、まだスパークに聞きたいこともあった為、追いかける事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

それ行け!! 派遣勇者(候補)。33歳フリーターは魔法も恋も超一流?

初老の妄想
ファンタジー
フリーターの33歳ヤマダタケルは、コンビニバイトの面接で高時給のバイト「派遣勇者(候補)」を紹介された。 時給と日払い条件につられて、疑いながらも異世界ドリーミアにたどり着いたタケル達は、現世界のしがらみやRPGとは違う異世界の厳しさに戸惑いながらも成長し、異世界を救うため魔竜の討伐へ力を合わせて行く。多くの苦難や信じていた人々の裏切りを乗り越え、やがて真の勇者へ成長する。 リアルとファンタジーが入り混じる虚構の世界が展開される超長編のサーガを書き上げるつもりです。(今のところは)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

裏社会の令嬢

つっちー
ファンタジー
ある日、学校へ行く途中トラックに轢かれそうになった小さな子供を助けたと同時に身代わりになって死んでしまった私、高ノ宮 千晴は目が覚めたら見知らぬ天井を見上げていた。 「ふぇ!?ここどこっ!?」 そして鏡を見るとそこには見目麗しい5歳?の少女が...!! これは異世界転生してしまった少女、高ノ宮 千晴改めアリス・ファーロストがなんとなく生きていく物語。

処理中です...