仮想世界β!!

音音てすぃ

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96.先に登る

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「どうして?」

剣を抜いた僕の横でセツナが三人へ向かって叫んでいる。仲間か何かか?

 スイレンがセツナに問う。

「その二人は誰だ?」
「あの剣士を一緒に倒してくれる人たち」
「……どうして他人を信用できる?」
「それは……でも、この人たちは本当!信用に足るよ!」

 ミセットが僕の方を見ている。あの目は「レジスタンス?本当に?」と言っているようだ。

「セツナ、貴様は我々の存在を冒すつもりか?」
「違う!信じて……」

 まずいな、壁に行くのに時間が惜しい。

「……裏切り者としてセツナを排除する」

 勝手に足と口が動いた。

「おいあんた!そりゃないだろ?」

 攻撃予測が見えた。横の小さい子供からだ。

「うるさいよお兄さん」
「クッソマジかよ」

 アサシンナイフをルーンナイフで防いだ。

「ソウ、やめて」
「セツナには関係ないでしょ、キミ裏切り者だから」

 僕は蹴りを入れて子供を突き飛ばした。それでも華麗に着地された。

「やるねぇ」


「最後に……」

 セツナが黒魔石の髪飾りを外して左手に持った。

「どうしても信じてくれないのね、スイレン?」

 声が震えていた。

「……」
「う……」

 言葉にしなくとも返事はできるのだ。僕は学んだ。

 三人の姿が消えた。すると一斉に攻撃予測が表示される。

「二人とも行って!」
「え?」
「早く!あなた達は壁に行かないとダメでしょ?あいつらは私が優先なの!」

 いつもなら自分も一緒に戦うと言っているとこだ。しかし、ECFの作戦を投げ出すことは出来ない。

「……ミセット、行こう」
「了解」

 僕とミセットは先に走った。
 セツナは白刃イノセントを抜いた。

「へへへ、返しに行けるかな?」

 少ない涙を拭った。


ーーーーーー

 走った走った走った走った走った走った走った。
 僕は仲間を見捨てたのか?時間が短いからといって、僕についてきてくれた仲間を見捨てた。そんなぬるいねっとりとした何かが胸の中を動いているようだった。
 気持ち悪い。

「おいオトメ、セツナはレジスタンスか?」

 ミセットの視線が背中に刺さる。

「……いや」
「だろうな。エイルやカエデもそうだが、オトメは知り合った人とすぐに仲良くなる性質があると私は思う。勝手にこんなこと言って詮索しているわけではないんだ。嫌だったら謝る」
「いいんだ」
「じゃあセツナは誰だ?」
「……暗殺者」
「はぁ」

 ため息をつかれた。

「いいか、通常の思考として、仲間に悪人がいたとしよう。そんなやつが危機に瀕しているとする。そんなやつ救う義理はない。だからオトメは前に進んでいいんだ」
「……チッ」

 その一般的な善人的考えは理解出来た。でもそんな理由で人を見殺しに出来るなんて。いいや、考えても無駄だ、実際見殺しにしているようなものなんだから。
 僕はECFという理由をぶら下げてセツナを切る。

「僕は最低だ」
「……そして、だとしても私は」

 ミセットは頭をかいて照れくさそうにした。

「いくら仲間に悪人がいたとしても、大切な仲間だ。見捨てる道理はどこにもない……だって理由なんて仲間ってだけで十分だろ?いいか!私はこれ以上言わないぞ!何も!……いいや言う、だから、でもだ、お前は苦しくても前に進んでいいんだ!セツナのあの捨て身を受け入れていいんだ」
「……分かった」

 僕は前に進む。
 ミセットは振り向いて匍匐した。

「私はスナイパーでもある。任せろ」
「かっこつけやがったな」
「安心して先に行け、ここは任せろ私たちの最終兵器」



ーーーーーー



 壁には巨大な大穴が空いていて、そこにはライヴが固まって防衛線を作っていた。人が重なるように作った人の壁。人が一列に並び、前列の人間が盾とバリア系の魔導障壁を展開し、中列が人の隙間から銃を構えている。更に後には魔道士もいる。これを突破するのか?

「キョウスケ、突破口は?」

 建物の上から頭を出して状況を見ていた。

「あそこにグレネードでも投げれば」
「おいおい……」

 幸いあと一つグレネードを持っている。投げ込んでみようか。シールドに弾かれたら場所もバレそうだし、危険だ。

「ECFはどこまで来ている?」
「周囲には50名集まっています。あと二分で20も追加されます」

 マップには物陰に沢山の隊員が待機している。これだけの人数で勝てるか?相手は400人はいるぞ。

「場が動かない。せっかくゴールドグリップがいないんださっさと攻略したいね」

 僕らは目の前の多くを無力化して先に進む。どれだけの地獄絵図になろうともこればかりは心を鬼にしなければ。あのビヨンドがもう一機潜んでいないとも限らないし。
 通信が入った。ツルギさんだ。

『壁周辺の70名に告げる、これよりライヴの掃討を開始する、各隊で出来るだけ固まってぶちかませ以上』
「て、適当な……ところでキョウスケ、壁の入口はあの1箇所だけなんだよな?」
「マップを見る限りそのようですね」
「うん……しょうがないのか」
「おや?誰か来ますよ」

 軽やかに右側に着地したのはキリカだった。少し息が上がっている。

「急いで、ツルギさんから命令、壁を登る」
「え?壁?目の前のライヴは?」
「あれは陽動みたいなのだって。一足先に壁の上からって言われた」
「う、うん分かった。でもあんな高い壁、フックショットの連続使用だと無理がありそうだけど……」
「ここから全力でとんで張り付く。剣でも刺せば大丈夫じゃない?」

 なんて脳筋な。

「先輩達がこの人数を頑張って抑えるの。あわよくば殲滅だけど、人数差は埋まらない。だから……」
「分かった全力で壁を登ろう」

 僕は正面の敵を無視して、穴から少し離れたところから壁へ向かった。人もいない、避難したのか?
 壁に触れてみる。綺麗に平坦で自然の物とは思えない、人の手を持ってしてもこれほど美しく滑らかに加工できるものか。

「刺され!」

 ルーンナイフを試しに突き立ててみる。割とすんなり刃が通り固定出来た。これなら僕の体重でも耐えられそうだ。

「キリカ、少し待ってて」

 手首を少し切って、地面に血液を垂らした。

「ちょっ……何やってんの!」
「液体硬化、僕の魔術で少し効き目を緩やかに固くしてみる。これを靴に付ければ壁にくっついてくれると思う。大丈夫、血はすぐ止まる」
「……ビックリしたー、うわ……べったり」
「うるせぇ!落ちたらどうすだよ!」

 それから身体強化からの跳躍である程度高さのアドバンテージを得てから壁を登っていく。ステルスも軽くかけていて見つかりにくいはずだ。横目で右側の大穴が見える。もうすぐ戦闘が始まる予感がする。

「急ぐよオトメ君」
「分かってる……」

 垂直の壁を一蹴り、急いで体を接着。心臓に悪い。キョウスケのアシストがないとここまで速く登れない。

「怖っ」
「まぁ……ねっ!」

 僕の左側のキリカは青の剣閃を右手に発動させて壁を無理やり掴んで登っている。どうやら左手には使えないようだ。ナイフでも貸してやろうか。

「キリカ……ナイフを……」

 左手を離してナイフを取り出した時、体に染み付いたような悪寒を呼び起こさせるような言葉を告げられた。

「強力な敵の反応感知、壁の上から大穴へ、ゴールドグリップと思われます」
「なっ……なんだって!?」
「どうしたのオトメ君、ナイフがなに?」
「ナイフを受け取れ、登りやすいと思う。それと、ゴールドグリップが来る。大穴まで。急いで上に行こう」
「……わかった」

 僕らは一層ペースを早めた。それから三秒後、大穴に攻撃予測が見えた。地面に向けて天から一直線、それは着地した。
 攻撃ではなくただの着地、それに予測が着いた。それは移動すらも攻撃のようなものだと、強さを再認識させた。
 軽い風が服を揺らす、肌と髪を撫でる、目は乾くように見開いていた。遠目でも分かる、あれはゴールドグリップだ。

「ようやくお出ましだな」

 腕に血が流れる、まだろくに止血できていない。

「数ヶ月ぶりに見たね」

 痛みはない。

「今なら勝てるかな……?」

 大丈夫。

「やめて」

 分かっている、今は登ろう。

「あぁ、みんなに任せよう」

 再戦の意識を押し殺して僕らは壁を登っていく。

ーーーーーー

「よぉ……ツルギィ……久しぶりじゃねぇか?」

 黄金は大穴の前に豪華に着地、周囲を軽く吹き飛ばした。
 ライヴの兵士は盾と魔術によりほとんどダメージがない。

「ああ、何年ぶりか、まるで隕石のような登場だなゴールドグリップ」

 大穴の正面にはECFの最強が一人、ツルギが二本の刀を持って佇んでいる。

「ツルギ隊長、援護、任せてくださいね!」

 横にはアリエ、左手に文字が浮かんでいる。
 ツルギは彼女一人だけを連れて正面に挑んだ。

「この世界の最前線を崩す。恨みはない、覚悟しろ箱庭のクソ野郎ども」

 二本の刀を天に向ける。重ねるようにして交わった二本は非実体化、合成される刀は雷剣『迅雷』予め捲られた袖が焦げ付く。

「おい、なんだそら!」
「突き穿つ!」

 ツルギは迅雷の出力を上げて、大穴へ向けて刀を突き立てた。


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