仮想世界β!!

音音てすぃ

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24.兵として旅

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 僕オトメとキリカは、二人で倫理委員会の戦闘部隊ECFに入隊することになった。
 未だに納得をしていない。
 しかし、キリカだけを危険に晒すことはできない。
 だから入った。それだけだ。あれ?上手く誘導されてない?別にキリカも来ることなくないですか?

「まだ剣を握る覚悟すら無いのにな……」
「どうしたのオトメ君」

 今、ギルド前に止められた『トラック』に乗り込もうとしている。
 黒い荷台に片足をかけた時だ。

「キリカ、今から君だけ入隊を取り消してくれないか?」
「バカできるわけないでしょ。あんだけ啖呵切ったんだから」
「いや、意地じゃなくて……安全的に」
「それはオトメ君も私も一緒でしょ。オトメ君が入るって言えば私も一緒にって言うんだから」

 どちらかが行くと言えば、もう片方も行くという。止めるならどちらも止めるという選択を取らなければいけない。

「そっか。でも来てくれるのは素直に嬉しいし、心強い」
「だぁろぉ?」
「おい、いつまで喋ってんだ、出発するぞ!」
「「はい!」」

 乗り込むことにする。
 見送りはマスターが許可しなかった。
 理由は分からなかった。
 しかし、この人混みを突っ切るつもりか?
 危険だと思うが。

「運転は俺だ。助手席にギンジ、後ろに二人だ。ナノ、お前は?」
「今はいいわ、本部に興味無いし」
「先に行っているぞ……オトメキョウスケの確保、感謝しよう」
「あら、人外の私にお礼なんて粋じゃない?」
「たとえお前が半人半機械でも、仲間だからな」
「あらうれしい」
「ここでは機械の替えは効かないからな」

 ツルギはそう言い残して操作を開始した。
 SE持ちだろうか、ハンドルではなく、半透明パネルを出現させ、何やら操作している。

「目標は本部でいいな、ギンジ?」
「それでいい……運転って、お前免許は?」

 ギンジが半笑いで、アクセルも踏まない、ハンドルも握らない、運転する気がないツルギを見ていた。

「いいや?こっちで取った。これで十分だろ」

 ツルギは『転送』をタッチする。

「キリカには感謝だなツルギ」
「まぁ……な」

 トラックは下から徐々に消えていく。
 中に乗る僕らは気づくことなく座っている。暗い。明かりがランプ一つとは。

「オトメさん!」
「ん?アカネちゃんじゃ……」

 僕は少し顔を出す。
 すると、ルーイとアカネちゃんが手を振っていた。
 あれ、マスターが引き留めてくれるんじゃないの?

「バイバイ、オトメさん!たまには来てくださいね!」
「この剣、大切にします!オトメ先輩!」

 僕は顔を出したまま、手を振った。

「あぁ、またな!」

 そのままトラックは消えていった。

「いっちゃいましたねアカネさん」
「うん……ちょっとだけ寂しいね」
「いやぁ、マスターの許可が出るとは思ってなかったですよ」

「君たち、何をしているのかな?」

 そこに現れたマスターの表情は怖かった。

「マスター、許可ありがとうございます!」
「ん?どういうことだね?許可を出した覚えなんてないぞ」

 アカネが頭を下げると、ルーイが視線を泳がせはじめた。

「ルーイ君!キミ無断で外に出たな!」
「すみません!」

 ルーイはアカネに外出許可が出たと噓をついていた。
 それでもアカネはクスッと笑って怒られることにした。

「まぁいい……君たちはオトメ君と仲が良かったからね、今回だけ許そう」

 ルーイが満面の笑みで頭を下げた。

「ありがとうございます!」

 の剣の愛を感じていた。

「オトメ先輩がくれたこの剣は、いつだって僕に勇気をくれるんだ……!」

 ルーイは剣の穴を感慨深く見つめていた。いつかこの剣を使いこなせるようになりたい。

「じゃルーイさん、コーヒーの淹れ方を練習しましょうか」
「はい!」

 今日もギルドは人が増えては旅立っていく。
 記憶の無き者たちの生きる糧。
 お世話役でガイド、ミニマスターアカネは、オトメの担当で良かったと実感した。人の成長は面白い。

「倫理委員会とオトメさん達の会話、聞いてたのバレなくてよかった」
「アカネさん?何か言いました?」
「いいえ何もー」

 マスターの部屋の前で聞いていたアカネをナノは無視してあげたらしい。
 その代わり……

「アカネさん、私にもコーヒーよろしくね」

 コーヒーを頂くらしい。

「了解です!」


ーーーーーー

 転送、それは一瞬だった。

「着いたぞ」
「着いた」
「とうちゃーく」

 荒野だ。辺り一面荒野、その中にはトラック以外に人工物が見当たらない。
 一体どこに本部とやらが?

「見えるだろお前なら」

 ツルギがそう言い終わると、キョウスケが大きくロックオンした。

「ひ、広い……というかデカい!お、おいキョウスケどこスキャンしてんだ?」
「見えたようだな。俺らの本部はステルス効果が付与された移動型の要塞だ。普通SEかPE持ち、魔力、エーテルが強い者にしか見えん。勿論それ対策にセキュリティは貼るが」

 キョウスケのおかげでディティールがわかる。まるで巨大戦艦に匹敵する大きさだ。
 いや、もっと大きい。

「『移動式要塞ノアオルタ』未だ管理者達に見つかっていない高度な技術を用いたセキュリティ、収容人数、要塞自体の戦闘能力の高さが特徴」

「あのー、私まったくみえないんですけどー」
「我慢しろ」

 ツルギは厳しかった。

「えぇー」
「本部内に写真がある。それでも見ておけ。入るぞ」

 出入口か、重い金属板が上に開く。

「おぉ!」

 無意識に声が出る。
 アバンドクローリーも動けばこんな感じなのかなぁ。

「まず本部長に挨拶だついてこい」

 前からツルギ、僕、キリカ、ギンジの順番で要塞内を歩く。
 広い廊下、印象はSF映画のマッドな研究室。
 同じ戦闘制服を着用している人がわんさかいる。
 あれ、映画?聞いたことがある。

「左が武器の製造部だ」

 進んでいくと、厚いガラスのようなもので隔てられた部屋があった。
 どんな仕組みかはわからないが、真っ黒な刀が次々と生産されている。
 他にも弾薬を一つ一つ作っていたり、刀の品質を確認していたり、職人気質の人が多い気がする。

 他の部屋は、食堂とか談話室とか、訓練場があった。ここでの戦闘訓練を想像した。ちょっと楽しそう。

「他の施設は経験で覚えろ、ここが本部長の部屋だ。入って挨拶をする。わかっていると思うが……」

 首筋がヒヤリとした。

「無礼がないようにな?」

 やっぱり目に殺気がある。

「はい……(あんたが一番怖いよ)!」

 ノックをして、ガチャリ……と防音加工とともにドアを開け、四人で入る。

「本部長、新入り二人です」
「オトメです」
「キリカです」
「まぁ俺はギンジなんだけどな」
「ツルギか?よくやった。その赤い方がD9かな?」

 赤い?どこが?

「そうです。そしてもう一人はオトメキョウスケの仲間です。共に入隊を希望しています」
「そうかわかった、ツルギが言うなら許可しよう……私は、β世界、管理者達の対策部として要塞を構え、ECFを指揮するナオヒトだ。1.00前の世界においてはただの倫理の犬だったが、β世界ここじゃあ頭取らせてもらっている。よろしく頼む」

『ナオヒト』Green
相対レベル132
・武器:empty
・防具:本部長特注服
・攻撃するべきではない存在。
他スキャンを実行していません。

 ギンジさんと同等の体格を持つ大男だろう。
 スーツにも似た服の上から強靭な筋肉がわかる。
 相対レベル三桁オーバーを見たことがないのだが……一体どれ程の強さなのだろう。
 僕の刃が通るのかすら怪しい。
 きっと……モテるんだろうな。

「「よ、よろしくお願いします!」」

 キリカと深く頭を下げる。
 隣のツルギの圧を感じていた。

「頭を上げてくれ。君たちの協力を感謝する」

 こう改まって言われると困る性分が出る。

「あ……いえいえとんでもない(ああぁマジ死にたくねぇぜ)」
「ツルギとオトメキョウスケだけにしてくれないか、ギンジ」
「了解です……キリカ、行くぞ」
「は……はい」

 キリカとギンジは部屋を出ていく。
 武闘派の二人に囲まれたな。

「オトメキョウスケ君、君には記憶が無いと思うが、謝罪させてくれ」
「しゃ、謝罪!?」
「君も聞いたかもしれないが、君の目をNO.D9それにしてしまったのは私たちだ。一方的な戦力としての起用だ。申し訳ない」
「聞きました、よくわからないですけど。でも……何で僕なんですか?」

 他にもいるでしょというニュアンスを含んでいるように聞こえただろう。まったくその通りだ。
 ECFが来てからずっと気になっていた。
 記憶が無くなったってことを知っている。その事実が僕が生きていた証だ。
 奪われる対象が何故多くの人間で僕だったのか。

「すまない……それについて詳しいのはナノなんだ。仲間内じゃ彼女しかPEの施術が出来ない。そして未だその理由を教えてくれないのだ。困ったものだ。向こうからも大したことは聞けていなくてね」
「本当に困りますね……そうですね、道理に合った理由を期待します!」

 知りたい。前の自分の記憶。剣を取る理由になるだろうか?

「ナオヒト本部長、それでは早速訓練を始めてもいいですか?」
「あ、あぁ引き留めたね。かまわない。よろしく頼む」

 訓練?あぁさっきの。

「オトメキョウスケ君……いや、オトメ君、君には期待している!」

 ナオヒトさんは両肩に強く手を置いた。
 そうか、理由はどうあれ、倫理委員会ここの人にとっては僕は希望のそれなんだ。
 何百、何千という人が僕に期待している。これを振り切れる程、声を聴かない男ではないはずだ。

「がんばり…(違う)…命張って、やらせていただきます!!」

 ツルギの口が笑っていた。と思う。
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