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来た五月

16話 一人キャンプ

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先生は目を開けた。
どうした、車酔いかと尋ねたいような顔だったが、僕の真剣な表情を見た途端に、

「何があった」

と言った。
それにオシャレに雑に、持ってきた方便を使う。

「へへ、推理ゲームですぜ……」

ーーーーーー

僕は暑い車内から先生を降ろし、米の炊き方を教えろと言った。
そろそろ夕方だし、アイツらも帰ってくると思ったからだ。

「炊事なんて、小学生以来です。まぁ僕はやり方ほとんど覚えてないですけど」

そら豆みたいな金物に米と水が入っている。
水が少ない、これが美味さの秘訣か?

「で、何が聞きたい」
「……ハルのことで」
「ほぅ」

僕は今まで調査と整理した内容は言わずに、ハルが部室にたまにいないことを先生は知っているのか、そう訊いた。
麗乃が『大切な人のために時間が……』とか言っていたのを思い出した。
なら使う時間として自由なのは部活の時間これ以外休日しかない。
僕はそこに当たりをつけて、聞き出そうとした。

「知っている。入部当初から部室に葛城しかいないことが多くて影山に尋ねたことがある。お前はそれが知りたいのか?」
「ええまぁ。実は僕もハルがたまに居ない理由知りたいなぁ……なんて冗談なんですけど。事情がありましてその辺の情報が必要なんです」

先生はタバコを吸う動きを見せたと思ったら、棒のついた飴を舐め始めた。

「知っていると思ったがなぁ、葛城には確認した。アイツは知っていた。そうか、お前は知らなかったか」
「えぇ、僕は自分が一番大切で他人のことに無関心で、今すげぇ難しいんです」

僕に新しい飴を差し出した。
素直に受け取ってポケットに入れた。

「晴れて良かった」
「そうですね」
「……」

僕は話を聞いた後に、怒りとは似て非なる感情を溜め込んだ。
誰のせいでもなく、誰も悪くない。
だが、僕は何か許せないようなことがあった。
ハルの態度か性格か、それでもそれは僕だってやりそうで、しょうがないことだ。
だから攻めきることができない。
だから、だから、だから、僕が言いたいことは。
黙ったままでいるなら覚悟を決めろ、そうでなければ、人の力が必要なら口を開け。
多分そういうことだった。


ーーーーーー


キャンプ二日目の夜は更けていき、テントに各々が戻る。
その中で男三人は川辺に歩く。

「ブラウン、最後の回答だ」
「廻君……」
「では、音希田さん、お願いします」

ほとんど月明かりのない暗闇でも、ランプがあればと持ってきていたそれを置く。
川に近すぎると危険なので少し引っ込んだ。

僕は吐いて吸っての深呼吸をしてから口を開いた。

「えぇと……『僕の知らない人』それは枯葉中学校、要するにお前ら葛城麗乃と影山春人と同じ中学校出身。現在、優麗高校二年、二年……」

僕は麗乃にハルの入部理由を訊いた時に違和感を少し感じて、それは何だろうと。
それは直ぐに分かった、初対面なのか、ということだった。
麗乃とハルは親しげだっし、先生から同じ中学校出身と聞き、顔見知りだと分かった。
ならば麗乃とその『僕の知らない人』は顔見知りだとも考えた。

麗乃はハルと距離が近い、お互いの事情を話しやすい。
だが僕は例外。

同一中学校出身で、麗乃も知り得る、僕の知らない人。
そして先生の発言、まぁこれが決定的だったが、核心は外して話された。だからあえて自分で答えは出したつもりだ。


僕はC組、麗乃はD組、ハルはE組。

他のAとB組を考える、ほとんどは知らないが、教室の教卓の上の名簿に出身中学校が書かれているのを覚えている。
論理的な確証はドコニモない。
教卓の上のことなんて僕が「あぁなるほど」となっただけの話。
主要は先生の話だ。

ハルは部室にいない時はある人の家に行くそうだ。
旨はらしい。
誰かまでは言わなかった。

親戚か、それならそれが『大切な人』に該当するか。
それもあるだろうが、今までのハルとブラウンのヒントからして間違いだ。
ならば絶対と言っていいほどのハルのそれだろう。
ハルが帰るなら部活の時間にいないなら、無所属。
帰宅部というやつだ。

もしB組なら生徒会役員の紫重ちゃんが「私のクラスに部活入ってない人いるの」とか言っていただろうし、優麗高校は二年において、AB組が文系、CDEが理系クラスだ。 AとB組は二階、CとDとEは三階と別れる。
A組とB組は隣だ、Aでもそんなとこがあれば言ってくる。
それは希望的なものだが、勘弁してくれ。
僕は紫重ちゃんも4年以上も付き合いがある。
何となく分かる。
ならば残りのCDEはどうだろう。

そもそも部活に入らない生徒は優麗高校においてほとんどいない。
間は例外で僕が入部させたから少し怒られたけど。
だから必然に目立つ。

部活と出身中学校を考えると、ほとんど人付き合いを広く持たない僕でも分かった。
そして最大のヒントは初めから与えられていた。
ハルの「その人は僕が知っている人か?」という僕の質問に大して「さてどうでしょう」これこそが最大だった。

「さてどうでしょう」ヒントとしては半分良かった。ならば、残り半分は「さてどうでしょう」のような文章だっただろう。

そうだ、その人は同じクラスなのだ。
二年C組、僕、音希田は『お』から始まるから出席番号が若い。
一番左の列から最後、最高の席。
そして彼女はたまに机だけになる。

僕だって聞いた事があるはずだった、重い病気で学校に来れる日があまりない女性のこと。

名前は五十音順で若干廊下よりで一番後ろの席にいる。
だから僕は気づかなかったというか、高度な無関心を貫いていたのだろう。

本当に僕が忘れていただけで申し訳ない限りだ、知らない人を当てるゲームなど誰が得するんだ。
だけど僕は開口する。

「二年C組、日向ひなた春希はるき。僕の知り得ない、ハルの彼女だ」

ブラウンが正解不正解を告げる。

「おめでとうございます。雑ではないです。さすがです。まぁ俺は誰だか知りませんけど」
「全くだ」
「廻君、流石」

僕はハッと息を投げ捨ててから、ハルの胸ぐらを掴んだ。

「てめぇ……僕はなぁ知らないんだよ。今回はたまたまだ。だから……僕が言いたいのは……!」

力が強くなっていく。
握りしめる拳が砕けそうだ。
全てを伝える技術は僕にはない。
だから一言しか言えなかったし、きっと誤解されただろう。



僕にはもう1つ予想があった。
どうして他に部活がある優麗高校で新聞部なのか、それは僕の装備に由来していると。



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