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取り調べ

微風

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ベイルはトリトル卿の怒りを気にしてない風に。
「あっ、これ出すの忘れてた。」
ベイルは一枚の巻かれた紙を懐から取り出して、開いて見せた。
内容はこの者を代理人として、委任するというものであった。
委任状はよくある事であったし、代理人が参加するの事もあった。
だが、問題はそこに記載されていた名前であった。
この場にいる人間ですら、その人物に会った事はほとんどなく、存在自体も疑われてる人物であった。
「それが本物かどうか疑わしい。参加を認める訳にはいかない。」
トリトル卿は参加を認めようとしなかった。
「その権限がいつから貴殿に?」
先程まで黙って、壁に控えていた小柄な老父が口を開いた。
「何か問題でも?」
トリトル卿は鋭い眼光でその老父を睨んだ。
席に座りかけていた筋骨隆々の騎士が顔を曇らせた。
「トリトル殿、貴殿は口の聞き方さえ知らぬのか。」
興味もなさそうに席に座っていた銀髪の男性がトリトル卿を諌めた。
「これはシュラル殿のお付きの方でありましたか。」
シュラルと呼ばれる男と筋骨隆々の男は床に膝をつき。
「御無沙汰しております。来られるなら、こちらもその準備を致しましたのに。」
「お元気そうで良かった。たまにはうちの若い者を鍛えに来て下され。」
この二人が臣下としての挨拶をして、出迎える事はほぼない。
何故なら、シュラルは第壱席として、ミナリスの内政を司り、筋骨隆々の男ダインは第弐席として、ほとんど軍事を司る立場である。
この壱席と弐席の地位としては同等とされていた。
だが、トリトル卿と違い、2人とも国内の勢力争いに無関心であった。
そんな二人が額づく程の老父は微笑みながら。
「そんなに畏まるな。もう隠居の身だ。今回は旧知の友からの頼みでな、直に見極めに来た。」
そう言うと、温和な眼差しが一気に鋭くなり、リョーを見た。
「窮地の様だな。お前の使役獣は?」
リョーが答える前に苛立ちを隠せずにトリトル卿が口を開いた。
「流石に御二方の知り合いでも勝手な真似は困りますぞ。」
「黙れ、こちらはフラン様だ。胸の勲章を見て、分からぬのか。」
フランと呼ばれる老父の胸には輝く勲章が。
そして、フランと呼ばれる老父こそがミナリス国の建国の英雄の一人であった。
部屋に居た全ての者がその場に平伏した、リョーとトリトル卿を除いて。
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