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「この機会を逃す手はないわよね、まだ黒い感情を抱いていないのならば」
悪辣非道な兄を矯正する事を思いついたアルメスは、腹を空かせて泣いているだろう兄の部屋にやってきていた。案の定、半べそを掻いて部屋の隅で体育座りをしているニールの姿があった。時刻は夜11時頃だ。

「ぷっ!ざまぁないわね、今日の夕食は鴨のステーキだったのよ。ちょっと癖があったけどジューシィでとても美味しかったわ」
「うぐ……なんだよおぉ。グスグス……笑いに来たにしても酷いぞ!グギュゥゥゥ」
彼は恨めし気にそういうとソッポを向く、鳴り止まない腹の虫と格闘している。そんなニールの姿をしばらく見て、満足そうに笑ったアルメスは懐から包を出して言う。

「これなーんだ?ふふ、今の兄様が欲して止まないものよ」
「あ、サンドイッチ…………ゴクリ」
限界にきたであろうニールは何とか奪おうとアルメスに近づく、だが彼女の方が一枚上手でササッと躱すと「パクリ」とサンドイッチを食べてしまう。

「うーん!美味しいわぁ夜食はトマトと野菜、そして鴨の炙りが最高ね!モグモグ」
目の前で食べられたサンドイッチを見て「あぁぁ」と情けない声で悄気返るニールであった。彼は涙と鼻水を垂らし「酷い酷い」と嘆く。

「あら、酷いのはどっちよ。妹の夜食を奪おうとしたでしょ、お母様に言いつけちゃおう。そしたら今度は朝食も抜きだわ」
カラカラと笑うアルメスは今とてもに違いない、いつも兄に泣かされてきたのだ優悦に浸って何が悪いのだろう。

「ひぃぃぃ!お願いだよそれだけはやめてくれ!このままでは干乾びてしまう!」
「あら、大袈裟ね。知っていて?人間は水さえ取っていれば2~3週間は平気なのよ。その後は知らないけどね」
彼女はそう言うと残りのサンドイッチを彼の目の前で平らげた。

「グギュウゥゥゥ……あぁヒモジイよ、情けないよぉ……グスングスン」
「ふふふ、少しは反省したかしら?ねぇニール」
「反省した!すごくしたよアルメス!」
「は?アルメスですって?誰が呼び捨てにして良いと言った?」

彼女は隠し持っていたもう一つの包を取り出すと「ダァン!」と踏みつける。食べ物を粗末にするようで気が引けたが、無駄にしなければ良いわねと考えた。

「ほら、貴方のせいで鴨肉が台無しよ。どうするの?責任とってよニール、ほらぁ」
「え……そんな」
目の前にあるのは踏みつけられてパンからはみ出た美味しそうな鴨肉だ、別に汚れてはいないが其れを食べろと言われた彼の矜持はズタズタである。

この寝室において絶対的支配者はアルメスである、逆らえば更なる悲劇が待っていると知ったニールは犬のように這いつくばりムシャムシャとそれを食べた。

「どうよ、私の足型つきのサンドイッチは?とても美味しいでしょ?」
「あぁ、美味しい……美味しいよ」
「なってないわ、と言いなさい」
グリグリと首元を踏みつけるアルメスは良い笑顔である。

「は、はい、とても美味しいです、御主人様……ムシャムシャ」
これが切っ掛けとなり、新たな扉を開いてしまったニールは恍惚とした顔でサンドイッチを貪り食うのだ。









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