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偽りの言葉はもう要りません
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王族の名を騙りダウゼン家の乗っ取りを企てた嫌疑で捕縛され牢に入れられたデニスは刑の執行を待つばかりになった。もとより軍規違反で指名手配をされていた身だが、その罪を霧散させるほどの大罪である。
取り調べを受ける合間に、彼は本当の親族であるオルコット伯爵へ恩赦を請うように嘆願書を出した。
しかし、返事がくることはない。
絶望した彼は牢獄の中で日に日に窶れていった、それでも悪足掻きする彼はあろうことかアナスタジアへ手紙を出したのだ。追い詰められた彼は形振りかまっておれないのだろう。
本邸に移ることになったウイベリー夫妻と侍従達は忙しい日々を送っていた所だ。
執事は忙しい最中も届けられる書簡の仕分けをして、忌まわしい差出人の名を見て絶句する。
ハリスは奥方に届けるべきか苦悩した、結局は勝手に処分するなど出来ないと判断してアナスタジアの元へ届ける。
「少々躊躇う手紙でしたが、奥様自身が開くかどうか判断すべきかと」
「……そう、煩わせてごめんなさいね。とりあえず受け取ります」
粗末な素材の手紙は手の上でゴワゴワと存在をアピールしてきた。
「いまさらなんの用があるのかしらね、大方は保釈金狙い……バカね死刑が覆るわけないでしょうに」
叶いもしない釈放をデニスは願っていると想像した彼女は手紙を読むことなく切り刻んで捨てた。
開く価値さえなどないのだとアナスタジアは判断したのである。
「貴方がなにを思って手紙を綴ったのか、有りもしない愛でも囁いた?だとしたらなんて愚かなの。偽りの言葉など私は要らないわ」
彼女はそう呟き屑籠をボンヤリと見ていたら、新しく雇ったメイドが掃除に現れ、ゴミの回収をした。その様子を黙って見守る女主人の視線を感じたのかメイドが問う。
「奥様、なにか間違って捨てられましたか?」
「いいえ、まったく問題ないわ。お掃除ご苦労様」
労いの言葉をかけられた年若いメイドははにかんだ笑顔を見せて居室から出て行った。
「デニス、貴方の最期の足掻きはすぐに灰となるでしょう。私の黒歴史と共にね」
いまとなっては忌まわしい記憶となったデニスとの婚約は今すぐ脳から消し去りたい事柄だ。
彼女は短く息を吐くと頭をふるふると振って、彼の事を追い出そうとする。
そして、愛しい夫の元へ行って仕事を手伝おうと思うのだ。
ドアを開けると目の前に愛しい顔があって驚いた、執事から手紙のことを聞き心配であったのだろう。
「……あれを読んだの?」
「いいえ、刻んで捨てちゃったわ。目を通す時間が勿体ないじゃない?」
「アナ……」
複雑そうな顔をするサディアスを見たアナスタジアはクスリと笑って、背伸びをすると彼の唇に吸い付いた。
突然の接吻に吃驚した彼は顔を真っ赤に染めて狼狽えるが、すぐに受け入れ激しく求め返した。
「愛しているわサディ、この世の誰よりも」
「私もだよアナ、世界中で一番愛している。誰にも渡さないぞ」
「ふふ、言ったわね?ねぇサディそろそろ欲しいわ」
「え、なにを?」
アナスタジアは悪戯な笑みを浮かべて言う。
「私達の愛の結晶よ」
それを聞いたサディアスは益々と顔を赤く染めて「今日は仕事さぼっちゃおうか」と嘯くのだった。
その日の晩は愛を請う赤裸々な声が廊下まで響いたとか、ないとか……。
完
取り調べを受ける合間に、彼は本当の親族であるオルコット伯爵へ恩赦を請うように嘆願書を出した。
しかし、返事がくることはない。
絶望した彼は牢獄の中で日に日に窶れていった、それでも悪足掻きする彼はあろうことかアナスタジアへ手紙を出したのだ。追い詰められた彼は形振りかまっておれないのだろう。
本邸に移ることになったウイベリー夫妻と侍従達は忙しい日々を送っていた所だ。
執事は忙しい最中も届けられる書簡の仕分けをして、忌まわしい差出人の名を見て絶句する。
ハリスは奥方に届けるべきか苦悩した、結局は勝手に処分するなど出来ないと判断してアナスタジアの元へ届ける。
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彼女はそう呟き屑籠をボンヤリと見ていたら、新しく雇ったメイドが掃除に現れ、ゴミの回収をした。その様子を黙って見守る女主人の視線を感じたのかメイドが問う。
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いまとなっては忌まわしい記憶となったデニスとの婚約は今すぐ脳から消し去りたい事柄だ。
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それを聞いたサディアスは益々と顔を赤く染めて「今日は仕事さぼっちゃおうか」と嘯くのだった。
その日の晩は愛を請う赤裸々な声が廊下まで響いたとか、ないとか……。
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