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抗う者達
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「誰かと思えばダウゼンのおばーちゃんじゃない、引っ込んでなさいよ」
懲りない様子の先代夫人はフンッと鼻を鳴らしてあしらおうとした、しかしダウゼン夫人は怯まなかった。
「おやおや、酒焼けしたのは声だけではなく脳の方も焼けたのね。貴女、貴族の端くれの癖に王族の血を侮り過ぎだわ」老婦人はそう言うとパンと手を叩き魔法を発現させた。
青い炎の蛇が彼女の手から生まれ出て咆えていた夫人の身体に巻き付いた、青蛇はキリキリと締め付けると焼くのではなく急速に冷やしていった。
パリパリと音を立てて足元から凍り出した先代夫人は悲鳴を上げて「誰か助けろ」と偉そうな命乞いをした。
どこまで性根が腐っているのかと周囲は呆れかえる。
「他家の事だからと手を出さずに来たけど、限界よ。本来ならねえ、貴女は本邸に住める立場にないのよ。坊やの慈悲に感謝すらしないなんてね。継母の貴女……ミリーネよ、子を成せなかった身で侯爵家で胡坐をかくのも大概にしなさい」
「きぃ!なによ!先代の妻なんだから居て当たり前でしょ」氷付きながらも抗いを止めようとしない丹力はあっぱれである。
「義母ミリーネの生家伯爵家が没落したからと優しさが過ぎるわよ、サディ坊や。潮時でしょ?」
「耳が痛いです叔母様……そうですね。父の遺言でしたが5年目です、放逐する時がきたようです」
彼らが話を進めるのを良しとしないミリーネは暴れて抵抗したが、首まで固まってしまってはどうにもならない。
「放逐なんて生ぬるい……王族を愚弄したのですからね私は許しません」
ダウゼン夫人はそう言うと孫のポールを呼びつけて指示を出した、なんとミリーネを更に氷の棺に入れろと言った。
「ポールや、さっさとしなさい。余興とでも思えば良いわ、ほら皆さんが期待の目で待ってるじゃない」
氷の蛇に巻きつかれたミリーネを面白そうに客達が凝視していた。
「御婆様?……こ、氷魔法をやれと?」
「そうですよ、貴方の得意技でしょ。王家の血を引く者の証なのですから、遠慮せず披露なさいな」
「え……そんな、聞いてない」
ポールことデニスは魔法など使えない、紛い物なのだから王家の血など流れているわけもなく成す術なく立ち尽くす。
「ポール……」
「で、出来ません。ボクには……その怪我のせいなのかその……魔法の発動がうまく」
デニスは方便でもって窮地を逃れようとしたが、祖母は「はぁ~」と落胆の息を吐いた。
何事かと周囲も騒つき始めた、胡乱の目で孫を見つめる夫人はともかく、項垂れる仮面の男は何者かと今更に騒ぐのだ。
「やはり彼方は私の孫ではなかった……薄々気が付いてはいたけど、信じたかったわ。偽物でも良かったのよ、でもね普段の貴方の素行は酷すぎたわ。金庫のお金はどこへやったの?両親が残した形見は?」
「う、うう……ボクは、ボクは……ああああぁあ!」
取り繕うとも根本がクズな性格のままのデニスはポールには成り切れていなかった。
床に頽れた彼に追い打ちがかかった、いつの間にか側に来ていたのかアナスタジアが蹲るデニスに侮蔑の目を向けて立っていた。
「あ、アナ……」
「貴方デニスね、すぐに分かったわ。10歳から18歳まで婚約者をしていたのだもの気が付かないほうがおかしい、人の所作とはどう足掻いても変えられないし滲み出てしまうものよ。ほら、そうやって左斜めに首を下げるところ、顎をしきりに掻く仕草、都合が悪いことが露見するといつもしていた癖ね。貴方はどこまで行っても愚かなデニスなのよ」
かつての婚約者に論破されたデニスはポールの仮面を脱ぎ捨てると渇いた笑い声をあげた。
「カハハハ……そうさ俺はデニス、キミを裏切って逃亡の地では恋人に捨てられた。揚げ句は盗賊にまで落ちた。結局は戦地に追いやられて……カハハハ、帰って来れたのに、罪が漱げると思ったのにさぁ!」
急に声を荒げたかと思えばアナスタジアの方へ駆け寄って背後を取ろうとした。
王族の名を騙ったことは重罪だ、捕まればろくに調書も取られず即斬首だ。
再び窮地に陥った彼は凶行に及んだのである、細身でか弱いアナスタジアを盾にして会場から逃げようと企む。
彼女の背に回って肩に手を掛けようとした、だがその汚い手がアナスタジアに届くことはなかった。
「ぎゃああ!」
サディアスが放った氷の刃がデニスの二の腕から下をザックリ斬り落としてしまった。
青い炎で傷口が塞がっていたため、会場の床を血で穢すことはなかったのが幸いだ。
「残念だ事……懺悔の言葉でもあればと思ったのに、私も甘いわね」
腕を刈り取られたポールもどきを見下ろしてダウゼン夫人は悲しそうに微笑む。彼女はこうして最後の家族を失ったのだ。
「ありがとう、偽物さん。それなりに楽しい日々だったわ」
懲りない様子の先代夫人はフンッと鼻を鳴らしてあしらおうとした、しかしダウゼン夫人は怯まなかった。
「おやおや、酒焼けしたのは声だけではなく脳の方も焼けたのね。貴女、貴族の端くれの癖に王族の血を侮り過ぎだわ」老婦人はそう言うとパンと手を叩き魔法を発現させた。
青い炎の蛇が彼女の手から生まれ出て咆えていた夫人の身体に巻き付いた、青蛇はキリキリと締め付けると焼くのではなく急速に冷やしていった。
パリパリと音を立てて足元から凍り出した先代夫人は悲鳴を上げて「誰か助けろ」と偉そうな命乞いをした。
どこまで性根が腐っているのかと周囲は呆れかえる。
「他家の事だからと手を出さずに来たけど、限界よ。本来ならねえ、貴女は本邸に住める立場にないのよ。坊やの慈悲に感謝すらしないなんてね。継母の貴女……ミリーネよ、子を成せなかった身で侯爵家で胡坐をかくのも大概にしなさい」
「きぃ!なによ!先代の妻なんだから居て当たり前でしょ」氷付きながらも抗いを止めようとしない丹力はあっぱれである。
「義母ミリーネの生家伯爵家が没落したからと優しさが過ぎるわよ、サディ坊や。潮時でしょ?」
「耳が痛いです叔母様……そうですね。父の遺言でしたが5年目です、放逐する時がきたようです」
彼らが話を進めるのを良しとしないミリーネは暴れて抵抗したが、首まで固まってしまってはどうにもならない。
「放逐なんて生ぬるい……王族を愚弄したのですからね私は許しません」
ダウゼン夫人はそう言うと孫のポールを呼びつけて指示を出した、なんとミリーネを更に氷の棺に入れろと言った。
「ポールや、さっさとしなさい。余興とでも思えば良いわ、ほら皆さんが期待の目で待ってるじゃない」
氷の蛇に巻きつかれたミリーネを面白そうに客達が凝視していた。
「御婆様?……こ、氷魔法をやれと?」
「そうですよ、貴方の得意技でしょ。王家の血を引く者の証なのですから、遠慮せず披露なさいな」
「え……そんな、聞いてない」
ポールことデニスは魔法など使えない、紛い物なのだから王家の血など流れているわけもなく成す術なく立ち尽くす。
「ポール……」
「で、出来ません。ボクには……その怪我のせいなのかその……魔法の発動がうまく」
デニスは方便でもって窮地を逃れようとしたが、祖母は「はぁ~」と落胆の息を吐いた。
何事かと周囲も騒つき始めた、胡乱の目で孫を見つめる夫人はともかく、項垂れる仮面の男は何者かと今更に騒ぐのだ。
「やはり彼方は私の孫ではなかった……薄々気が付いてはいたけど、信じたかったわ。偽物でも良かったのよ、でもね普段の貴方の素行は酷すぎたわ。金庫のお金はどこへやったの?両親が残した形見は?」
「う、うう……ボクは、ボクは……ああああぁあ!」
取り繕うとも根本がクズな性格のままのデニスはポールには成り切れていなかった。
床に頽れた彼に追い打ちがかかった、いつの間にか側に来ていたのかアナスタジアが蹲るデニスに侮蔑の目を向けて立っていた。
「あ、アナ……」
「貴方デニスね、すぐに分かったわ。10歳から18歳まで婚約者をしていたのだもの気が付かないほうがおかしい、人の所作とはどう足掻いても変えられないし滲み出てしまうものよ。ほら、そうやって左斜めに首を下げるところ、顎をしきりに掻く仕草、都合が悪いことが露見するといつもしていた癖ね。貴方はどこまで行っても愚かなデニスなのよ」
かつての婚約者に論破されたデニスはポールの仮面を脱ぎ捨てると渇いた笑い声をあげた。
「カハハハ……そうさ俺はデニス、キミを裏切って逃亡の地では恋人に捨てられた。揚げ句は盗賊にまで落ちた。結局は戦地に追いやられて……カハハハ、帰って来れたのに、罪が漱げると思ったのにさぁ!」
急に声を荒げたかと思えばアナスタジアの方へ駆け寄って背後を取ろうとした。
王族の名を騙ったことは重罪だ、捕まればろくに調書も取られず即斬首だ。
再び窮地に陥った彼は凶行に及んだのである、細身でか弱いアナスタジアを盾にして会場から逃げようと企む。
彼女の背に回って肩に手を掛けようとした、だがその汚い手がアナスタジアに届くことはなかった。
「ぎゃああ!」
サディアスが放った氷の刃がデニスの二の腕から下をザックリ斬り落としてしまった。
青い炎で傷口が塞がっていたため、会場の床を血で穢すことはなかったのが幸いだ。
「残念だ事……懺悔の言葉でもあればと思ったのに、私も甘いわね」
腕を刈り取られたポールもどきを見下ろしてダウゼン夫人は悲しそうに微笑む。彼女はこうして最後の家族を失ったのだ。
「ありがとう、偽物さん。それなりに楽しい日々だったわ」
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