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突然の別れ

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なにかと多忙らしい婚約者と会ったのは久しぶりで、アナスタジアは浮かれていた。頬を紅潮させ愛しい彼の元へ駆け寄る。
「半月ぶりですね!デニス様、お会いしたかったですわ」
彼女は少しばかりはしたなく彼に抱き着いてしまった、するとゆっくりと腕を掴まれて剥がされる。
「え?」
「ごめん、アナ。今日は大事な話があって……」
彼はそう言って乗って来た馬車へ誘導する、深刻そうな表情をした婚約者の様子に彼女は違う意味でドキドキした。ただ事ではないとその顔から読み取ったからだ。

「実は近いうち戦場に赴くことになった……激戦区らしいから生きて帰れるかどうか」
「そんな!?二月後には挙式だと上官の方もご存じでしょう?」
「どうにもならない、軍の命令は絶対だから」
急な命令を受けたらしいデニスは辛そうに目を伏せた、そしてとんでもない事を言いだしてアナスタジアを悲しませる。
「無事帰れるか保証がない、だから俺と別れてくれないか?キミには幸せになって欲しいんだ」
「デニス……待っていては駄目なの?私は貴方がいないと幸せになんてなれない!」
彼女は泣きじゃくって「お別れは嫌だ」と何度も懇願したのだが、婚約者の考えは変わらなかった。
「うぅ……そんなぁ、デニス様……」
「ごめんよ、キミの事を思えばこそ、愛しているからこの選択をしたんだ。辛うじて戻ってもまともな身体ではないだろう、そしたらキミに一生苦労を強いる事になってしまう」

「デ、デニス様」
「この通りだ!」
土下座する勢いで頭を下げるデニス、騎士の男が女にここまでするなど矜持を棄てての態度だった。
国の軍人とはどのような状況でも誉れ高く堂々とした居住まいでいなければならない、しかし彼は恥を棄ててまで頭を下げたのだ。
「……デニス様、たいへん受け入れ難いことですが、わかりました。ですが手紙を送り続けることは了承してください。私なりの精一杯の譲歩ですわ」
アナスタジアは両目に涙を溜め作り笑いを浮かべて言葉を紡いだ、今すぐにでも泣き叫んでしまいたいほど心は張り裂けそうだったが貴族の娘として堪えたのだ。

「すまない……手紙はいつでも送ってくれ、返事はできないが」
「はい、ありがとうございます。デニス様どうかご武運を」
人目のつかない寂れた公園へ呼び出された理由を今更にわかったアナスタジアは唇を噛み震えた。


それは春の終わり頃の悲しい出来事だった。

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