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新天地篇

面倒な出会いの話 そして

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興奮気味のウンディーネを宥めるように、ドリュアスはドライパインを食べるようすすめた。
甘酸っぱい甘味にウンディーネは喜びちょっぴり落ち着く。

それから淡々と自分語りを話し始めた。
霊力を回復するまで漂ううちに河口に着いたウンディーネ、だが流れに逆らう力は戻っていたなかった。
とうぜん海原へ出てしまう、塩辛い水にウンディーネはショックを受けた。


だがそこは水の精、数日もすればすっかり馴染み悠々と海を楽しむ余裕が出てくる。
海流に身を委ね漂ううちに沖に出ていた。クラゲたちに紛れ陽を浴びたり、時折潜って海藻に巻かれて眠ったりした。
湖とは違う海の中は鮮やかで美しく煌めいた、その光景はウンディーネを魅了して離れがたくした。

でもその油断が良くなかった。湖を忘れたウンディーネは海獣の背に乗って遊んでいた時に、うっかり海の精霊ネプトにぶつかった。慌てて謝ろうろした彼女だがすっかり言葉を忘れていて謝罪ができなかった。

侮辱されたと思ったネプトは、ウンディーネを恫喝した上に無理矢理嫁にしようと捕まえた。
「次の満月の晩に結婚式をあげるぞ、それまでに腹を据えておくがいい」
トゲ珊瑚の檻に幽閉された彼女は嘆き悲しみ、霊力を再び失い姿を保てなくなる。

あまりに泣くものだから次第に身体が縮み、檻の隙間から出られるほど小さくなってネプトから逃れた。
忌々しい沖から離れ河口へ戻ろうと必死に泳いだ、しかしその手前で漁師の網にかかってしまった。


こうしてウンディーネはドリュアスと出会い、難を逃れた。
だが執念深いネプトは彼女を諦めなかった、腹を立てて捕らえた癖にウンディーネを愛してしまったのだ。
ウンディーネが身勝手なネプトを嫌うのは当たり前だ。


こうして面倒な出会いを告白したウンディーネは喉と身体が渇いたのか、水を出して己の身体を冷やす。
「ふぅ、ごめんね。ドリアード王ドリュアス、図らずも巻き込んで悪かったわ」
彼女はプルルと震えて水滴を撒く。

「うん、ことの成り行きは理解した。それでネプトとはどうするの?」
「海の精霊だし、山の湖には上がれないと思うの。だから河川を上って戻るつもりよ、ドリュアスだってずっと海にいるつもりはないでしょ?私と山へ行かない?」

ウンディーネはそういってドリュアスの手をとる、薔薇色の頬は微かな恋心を覗かせる。
こういうのに慣れてないドリュアスは困惑する、目的のない流浪の旅だったが悩むところ。

仲間たちをチラリ見るドリュアス、だが彼等はドリアード王の心のままにという態度だった。
人間の連れメイペルも同意見のようだ。

「少し考えさせて、それとネプトには僅かにも興味はないの?」
「当たり前よ、捕虜のような扱いをされて嬉しいわけがないわ!嫌いよ!」

それを聞いたドリュアスは複雑な思いだった。
漁獲量が減った噂が気にかかる、ネプトの荒んだ様子が影響してないかと。
「杞憂に終われば良いのだけど」
「え?なーに?」

魚が減ったこととネプトの関係を話した。どちらにせよウンディーネからみれば知ったことではない。
「私に逃げられたからと人間に八つ当たりはどうかと思うわ、仮に影響が出たとして精霊の矜持を疑うわね。妖精も精霊も敬われてこそ力を発揮する存在だもの」

「人に敬われる?」
「そうよ、当たり前じゃない。人間に限らず……すべてを加護するわけではないけど、世界を造った存在の一柱としての責務はあるわ。あなたもねドリュアス、少なくともあなたの先祖はそうしてきたのでしょ?」

それを聞いたドリュアスは長年燻ぶっていた疑念が解れた気分だった。
ドリアード族はずっとカリュアス国の人々に疎まれていた存在だったばかりに、そんな本質を見落としていた。

「人だけではない世に生を受けたモノたちの為に……そうか、そうだね」
己の有り余る力はなんのためにあったのか、なぜ持って生まれたのか。

「ボクは根源から目を背けていたのだね……」
「少なくとも私の存在意義は湖を守り、その周辺の地を安寧に導く事と思ってるわ。少し遊び過ぎちゃったけどね。急いで山へ戻るつもりよ」

ウンディーネの言葉はドリュアスの心に大きく影響を与えた。
「ボクが目指すべき地がどこなのか分かったよ。ありがとうウンディーネ」

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