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新天地篇

林檎は医者いらずと言うけれど

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宿を確保したボクらは二人一組に分かれて、薬屋と雑貨屋巡りをする事にした。
ボクとメイペルが組むことになった、彼女のことを知りたいので丁度良い。

「たしか中央通りから右へ折れたところに診療所があるんです、その横に薬屋が……あった!ありましたよ!」
「メイペルはこの街へ良く来てた?」

「そうですね、流通の要の地だし、人も集まるので世界情勢を聞き取ったり、人員の確保もしてました」
なるほど魔導士協会副会長としてちゃんと働いてたのか。

まだ16歳だという彼女、見た目よりしっかりしている。
最初の交渉は任せて欲しいと願い出る。


薬屋の間口は小さかったが入店すると奥行きのある作りだった、独特の香りが漂う中には、瓶詰の蛇や干乾びたトカゲのようなものがぶら下がっていた。

滋養強壮と書いてある、爬虫類にそんな効果が?

カウンター越しにヤル気がない店主らしきと茶飲み友のような老人が話に花を咲かせていた。
そこへメイペルが声を掛ければ「おっこらしょ」と店主が立ち上げる。

「らっしゃい、なにをおさがしで?」
「いいえ、新しい薬を売りにきたのです。水薬ですが良く効きます、最初はお試しでいかが?」

店主は眉間に皺を寄せて値踏みするようにボクらを観察する。
眼鏡越しの目は老人にもかかわらずとても鋭い。

「材料でなく薬ですか?珍しい押し売りだ、はて効果のわからんもんを買う気になれんねぇ」
「ならば2瓶ほど無料で預けます、それともここで披露しましょうか?」

メイペルが自分の腕を突き出してナイフで切りつけた。
「おいおい嬢ちゃん!?なにを」
「大丈夫ですよ、ほら」

メイペルは痛みに顔を歪めながら小瓶の液を傷へちょっぴり垂らす、みるみる塞がる傷に店主が悲鳴をあげた。
「なんとまぁ……まさか聖女か治癒師なのかい?」
「いいえ、ただの薬売りですよ」

メイペルは人懐こい笑顔を老人にむけた、まずは警戒心を解くという作戦。
ただの少女とちっこいボクに、店主は漸く穏やかな顔になる。

「飲んで良し、塗って良しの優れものですよ!では小瓶をどうぞ」
約束通り2瓶は無料と言って置いていく。


通りに戻ったボクら次の店へ移動する。
「ふふ、三日後あたり反応はあるんじゃないですか?」
「そんな上手くいくかな」


そんな会話を交わし、ボク達は通りを歩く。

陽が傾いた頃合いで仲間が宿へ戻ってきた、手応えはあるが買い取りには至らなかったらしい。
「まずは営業です、信頼を得なければ何事もうまくいきません」
メイペルが宿の食卓でそういった。

「営業……か」
「協会だってそうです、どんな魔導士がいるか宣伝しなきゃ依頼はきませんよ」

なるほどとボクらドリアードは全員頷く。
「そういうわけで明日も頑張って営業ってやつをやろう!」
ボクは仲間を鼓舞してパインジュースで乾杯した。



翌朝、すっきり目覚めたボクらは張り切っていた。
きょうはどの辺りを回ろうかと相談しながら朝ご飯にかぶりつく。

「今日は薬じゃなくて林檎の売り込みをしようと思う、味見程度に持参して市場と食堂を回ろう」
ボクは袋に3個入れてみんなに託した。

「なぜ林檎なんですか?」エリマが疑問をぶつける。
「それはな、メイペルによれば林檎はサウスバーグに実らないらしいんだ。」

林檎というのは寒い気候の地でしか実らない。とはグルドの意見。
仮に実をつけても美味しくないし、すぐ枯れるのだという。

「なにげ物知りだよね?」
肩の上のグルドはドヤ顔である。


ということで、ついでではないがお世話になっている宿屋にも3個進呈した。
珍しい果実に宿側は食いついた、「独占販売とでもなれば宿の名物になる」とカウンター奥から聞こえた。
ごめん独占はさせない。

「ドリュアス様の林檎はすっごい美味しいですからぁ!」
なんでかラミンがドヤる。


そして夕刻。
怪し気な薬と違って物珍しい林檎はすぐに買い手がついた、果実屋が2件と食堂が3件契約してくれた。
「ドリュアス様やりましたね!」
マホガニーが誰より良い笑顔でボクを高い高いする、やめろ!

なんだかんだ、執事である彼が一番懐事情を心配していたんだ。
だめな主でごめんよ。

その日の夕飯はとても美味しく感じた。

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