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新天地篇
捨てた国の現状(ざまぁ)
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表向き空前の好景気なカリュアス国は、「金があっても糧がない」状況は続いた。
鉱山は従事する人で溢れ盛況のように見える、だが鉱夫たちの顔には生気がない。
金銀がでる度に給与は増えた、笑いが止まらないほどに。
だが、空腹が満たされることはほとんどなく笑えない。
一部の人夫らは蓄えを懐に国外へ出ようと試みたようだが、国境を超えるには命がけだ。
今頃は獣腹に収まっているだろう。
なぜなら国の指示により関所は封鎖されており、通行許可証も発行してもらえないからだ。
貴族でさえ出奔できないのだ。
安全な道を許されているのは食糧を買い付けする商人達だけだった。
いまや国の要の商売人たちには、騎士が護衛につくほど重宝されている。
一般人は安全な道は通れない、国境砦を避けて国境を超えるには、過酷な魔物森と断崖絶壁を乗り越えねばならないのだ。
ほぼ「死出の旅」なのである。
死の峡谷に囲まれているのはカリュアス国だけではない。
この世界、中央大陸には大小合わせ51の国が治めていて、この長く連なる渓谷は国々を分け隔てるように存在していた。
国家間で小競り合いはあっても、大きな戦争には至らない良い点でもある。
【争いを嫌う創造神の賜物】などという輩もいるが定かではない。
人間の与太を精霊たちが聞いたら鼻で笑うだろう。
鐘が成り鉱夫の休憩時間が知らされた。
足取り重く彼らは食堂へ集まった、具がほぼないスープとカチカチのパンが配られた。
「どんどん、酷くなるな……」
「あぁ、塩気があるだけマシだな」
粗末な飯で力が湧くはずもない、文句しかでない侘しい食事に彼らの目は死んでいく。
【なにがいけなかったのか】
誰かが口にした、その疑問は波紋のように国内へ広がる。国は豊かになったはずなのに、飢えと渇きは酷くなる。
【緑の加護は永遠じゃなかった】
ドリアードが、この地に根を張ってこその恩恵だったのだと、民達は気づき始めた。
しかし時すでに遅し。彼等を追い出したたのは自分たちなのだ。
頭を垂れて命乞いをしても戻るはずがない。
愚かな行為を猛省する中に、アントン一家がいた。
かつてそこにあったドリュアスの屋敷の残骸の前に佇んでいた。
アントンは自分がしでかした事の甚大さと、露見した時の民衆の報復を恐れた。
震えながらすでに居ない屋敷の主に後悔の念を零す。
「……どうして、もっと大切にしなかったのだろう、アイツは俺を父と言ってくれたのに」
地に伏せて嗚咽を漏らす、そんな夫に侮蔑の目を向けるヘレ。
「私達を選んだくせに、貴方はそうやって都合の良いほうばかり傾くのね」
剣呑な夫婦をよそに、娘は呑気になにか食い物はないかと残骸周りをうろついている。
そして瓦礫の中に何かを見つけ騒いだ。
「草が生えてる!食えるかな!?」
雑草さえ今や貴重な食材だった、アントンは色めき立って駆け寄った。
恩恵の残滓がそこにあったのだ。
「おお……草だけじゃないぞ!パンの実があるぞ!」
か細いながらも木が生えて、瓦礫の柱に巻き付くように伸びていた。パンの実は奇跡的に実っていた。
それを聞いたヘレが声を抑えるように注意する。
「馬鹿ねアンタ!世間に知れたら暴動になるわよ!」
「え!?すまない、つい嬉しくてな」
俺の謝罪にドリアードの家が応えてくれたのかとアントンはにやけた。
メリアーデが健在だった頃、庭の端で穴を掘り葉で包んだ蒸し焼きのパンの実を思い出した。
3人で食べたそれはフワフワのパンそのもので驚愕したのを覚えていた。
「穴を掘るぞ、久しぶりの美味い飯だ」
アントンは小さな声で己の家族に伝えた。
鉱山は従事する人で溢れ盛況のように見える、だが鉱夫たちの顔には生気がない。
金銀がでる度に給与は増えた、笑いが止まらないほどに。
だが、空腹が満たされることはほとんどなく笑えない。
一部の人夫らは蓄えを懐に国外へ出ようと試みたようだが、国境を超えるには命がけだ。
今頃は獣腹に収まっているだろう。
なぜなら国の指示により関所は封鎖されており、通行許可証も発行してもらえないからだ。
貴族でさえ出奔できないのだ。
安全な道を許されているのは食糧を買い付けする商人達だけだった。
いまや国の要の商売人たちには、騎士が護衛につくほど重宝されている。
一般人は安全な道は通れない、国境砦を避けて国境を超えるには、過酷な魔物森と断崖絶壁を乗り越えねばならないのだ。
ほぼ「死出の旅」なのである。
死の峡谷に囲まれているのはカリュアス国だけではない。
この世界、中央大陸には大小合わせ51の国が治めていて、この長く連なる渓谷は国々を分け隔てるように存在していた。
国家間で小競り合いはあっても、大きな戦争には至らない良い点でもある。
【争いを嫌う創造神の賜物】などという輩もいるが定かではない。
人間の与太を精霊たちが聞いたら鼻で笑うだろう。
鐘が成り鉱夫の休憩時間が知らされた。
足取り重く彼らは食堂へ集まった、具がほぼないスープとカチカチのパンが配られた。
「どんどん、酷くなるな……」
「あぁ、塩気があるだけマシだな」
粗末な飯で力が湧くはずもない、文句しかでない侘しい食事に彼らの目は死んでいく。
【なにがいけなかったのか】
誰かが口にした、その疑問は波紋のように国内へ広がる。国は豊かになったはずなのに、飢えと渇きは酷くなる。
【緑の加護は永遠じゃなかった】
ドリアードが、この地に根を張ってこその恩恵だったのだと、民達は気づき始めた。
しかし時すでに遅し。彼等を追い出したたのは自分たちなのだ。
頭を垂れて命乞いをしても戻るはずがない。
愚かな行為を猛省する中に、アントン一家がいた。
かつてそこにあったドリュアスの屋敷の残骸の前に佇んでいた。
アントンは自分がしでかした事の甚大さと、露見した時の民衆の報復を恐れた。
震えながらすでに居ない屋敷の主に後悔の念を零す。
「……どうして、もっと大切にしなかったのだろう、アイツは俺を父と言ってくれたのに」
地に伏せて嗚咽を漏らす、そんな夫に侮蔑の目を向けるヘレ。
「私達を選んだくせに、貴方はそうやって都合の良いほうばかり傾くのね」
剣呑な夫婦をよそに、娘は呑気になにか食い物はないかと残骸周りをうろついている。
そして瓦礫の中に何かを見つけ騒いだ。
「草が生えてる!食えるかな!?」
雑草さえ今や貴重な食材だった、アントンは色めき立って駆け寄った。
恩恵の残滓がそこにあったのだ。
「おお……草だけじゃないぞ!パンの実があるぞ!」
か細いながらも木が生えて、瓦礫の柱に巻き付くように伸びていた。パンの実は奇跡的に実っていた。
それを聞いたヘレが声を抑えるように注意する。
「馬鹿ねアンタ!世間に知れたら暴動になるわよ!」
「え!?すまない、つい嬉しくてな」
俺の謝罪にドリアードの家が応えてくれたのかとアントンはにやけた。
メリアーデが健在だった頃、庭の端で穴を掘り葉で包んだ蒸し焼きのパンの実を思い出した。
3人で食べたそれはフワフワのパンそのもので驚愕したのを覚えていた。
「穴を掘るぞ、久しぶりの美味い飯だ」
アントンは小さな声で己の家族に伝えた。
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