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新天地篇
林檎一個くださいな♪それならルビーはひと山です♡
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ドリアードが去って約1カ月後。
農家の老夫婦があぜ道でお茶休憩して、酢漬けのキュウリを齧っている。
「暑いのぉ」「ほうじゃのう」
燦々と照り付ける陽射しは真夏を物語っている。
いつもの木下で休もうとしたが枯れていて、さっぱり日除けにならなかった。
「じさま、キュウリが根つかないぞ」「知っとる、茄子もだ」
雨は適度に降っているはずなのに、畑はパサパサのままだし、肥やしを撒いても栄養が行き渡らない。
どうしたことだろうと頭を捻る。
そこへ領主の男爵がやってきた、「お前達作物なんぞ後回しだと言っただろう?」
ほら目の前に大粒のルビーがあるだろうと男爵が言う。
そんなもん何の役にたつのかと老夫婦は思った。
「これ一粒で5年は遊んで暮らせるぞ!なんでわからない?」
「……赤い石は食えませんでの」
「……そうです、石は畑の邪魔だぁ」
男爵は耄碌した農夫婦にかまってられんと、立腹して去って行った。
気を取り直して河川へ男爵は向かった、子爵領で砂金が取れたと聞いたのでうちはどうかと期待した。
川べりに痩せこけた少年が釣りしていた、魚籠を覗いたが釣果はないようだ。
「坊主、調子が悪いようだな」
「……こんな汚れてちゃ魚はいねぇよ。餌の藻も虫も住んでねぇもん」
ただの暇つぶしだと少年は言う。
赤茶けた水がドロドロとゆっくり流れていた。
「な、なんだこれは!?いつからこんな!」
「父ちゃんが鉱山のせいだって言ってる、オレはよくわかんね」
男爵は青褪めた、鉱山は侯爵以上の高位貴族が所持している。
諌言をしたいがわが身が可愛い、「くそう!」と忌々し気に悪態を吐くしかできない。
「坊主、川には入るな。身体に障るぞ、絶対に入るな!」
そう怒鳴り去って行く男爵の背を見送りながら少年はポツリと言った。
「馬鹿でも入るかい」
***
男爵が屋敷に戻り執務室で呆けていると、家令が渋面でやってきた。
「なんだ?私は気分が悪い、ルビーのことなら任せる。」
「いいえ、旦那様。私では事態収拾できかねます」
家令が帳簿を震えながら差し出す。訝しい顔で男爵が帳簿開いた。
先週の総売り上げにほくそ笑む、通年の100倍の収入だ、そして今週の……。
「な、なんだこれは!利益が先週の1割だと!?しかもどんどん下がっているでないか!」
ルビーの産出量は多くなっているのに対し、売り上げは落ちてはないが純利益が下がっている。
「ま、まさか誰かが横領をしておるのか、そうに違いない!くそ!探せ経理に携わったのは誰だ」
「……私めと奥方、嫡男様です。横領しようがございません」
男爵はそんなばかなと目を剥く。
「落ち着いて聞いてくださいまし、確かにルビーは順調に売れております。しかしながら産出量が増えて希少価値が下がりました。けれどもそれだけではありません」
家令が死にそうな顔をして床を見つめた。
「な、なんだ、まだなにか原因があるのか!?早く言え!」
「給金はルビーか貨幣で支払っておりますが、日々の糧……食糧の値段が爆上がりしてまして、クズ石で買えたパンが大粒1個でも買えないのです!」
領民を賄う食糧がほとんど入らず、値は法外にあがるばかりだと家令が言う。仕入れるほど赤字になっていくと報告した。
「そんなバカな!だったらルビーをもっと掘れ!それを給金に当てろ!足りないならばもっと!もっとだ!」
「旦那様!そんなことをすれば値崩れを起こし、ルビーは只の石ころになってしまいます!」
家令は今すぐ農業に戻すべきだと泣き崩れた。
「そんなはずがあるか!宝石が野菜に劣るだと!?バカなバカな!我が領は大成功を、幸運を得たのだぞ!」
信じがたい惨状に男爵は打ちひしがれる。
その日出された夕飯は濁って臭い水とパンが一個だった。
だが男爵が本当の絶望を知るのはこれからである。
農家の老夫婦があぜ道でお茶休憩して、酢漬けのキュウリを齧っている。
「暑いのぉ」「ほうじゃのう」
燦々と照り付ける陽射しは真夏を物語っている。
いつもの木下で休もうとしたが枯れていて、さっぱり日除けにならなかった。
「じさま、キュウリが根つかないぞ」「知っとる、茄子もだ」
雨は適度に降っているはずなのに、畑はパサパサのままだし、肥やしを撒いても栄養が行き渡らない。
どうしたことだろうと頭を捻る。
そこへ領主の男爵がやってきた、「お前達作物なんぞ後回しだと言っただろう?」
ほら目の前に大粒のルビーがあるだろうと男爵が言う。
そんなもん何の役にたつのかと老夫婦は思った。
「これ一粒で5年は遊んで暮らせるぞ!なんでわからない?」
「……赤い石は食えませんでの」
「……そうです、石は畑の邪魔だぁ」
男爵は耄碌した農夫婦にかまってられんと、立腹して去って行った。
気を取り直して河川へ男爵は向かった、子爵領で砂金が取れたと聞いたのでうちはどうかと期待した。
川べりに痩せこけた少年が釣りしていた、魚籠を覗いたが釣果はないようだ。
「坊主、調子が悪いようだな」
「……こんな汚れてちゃ魚はいねぇよ。餌の藻も虫も住んでねぇもん」
ただの暇つぶしだと少年は言う。
赤茶けた水がドロドロとゆっくり流れていた。
「な、なんだこれは!?いつからこんな!」
「父ちゃんが鉱山のせいだって言ってる、オレはよくわかんね」
男爵は青褪めた、鉱山は侯爵以上の高位貴族が所持している。
諌言をしたいがわが身が可愛い、「くそう!」と忌々し気に悪態を吐くしかできない。
「坊主、川には入るな。身体に障るぞ、絶対に入るな!」
そう怒鳴り去って行く男爵の背を見送りながら少年はポツリと言った。
「馬鹿でも入るかい」
***
男爵が屋敷に戻り執務室で呆けていると、家令が渋面でやってきた。
「なんだ?私は気分が悪い、ルビーのことなら任せる。」
「いいえ、旦那様。私では事態収拾できかねます」
家令が帳簿を震えながら差し出す。訝しい顔で男爵が帳簿開いた。
先週の総売り上げにほくそ笑む、通年の100倍の収入だ、そして今週の……。
「な、なんだこれは!利益が先週の1割だと!?しかもどんどん下がっているでないか!」
ルビーの産出量は多くなっているのに対し、売り上げは落ちてはないが純利益が下がっている。
「ま、まさか誰かが横領をしておるのか、そうに違いない!くそ!探せ経理に携わったのは誰だ」
「……私めと奥方、嫡男様です。横領しようがございません」
男爵はそんなばかなと目を剥く。
「落ち着いて聞いてくださいまし、確かにルビーは順調に売れております。しかしながら産出量が増えて希少価値が下がりました。けれどもそれだけではありません」
家令が死にそうな顔をして床を見つめた。
「な、なんだ、まだなにか原因があるのか!?早く言え!」
「給金はルビーか貨幣で支払っておりますが、日々の糧……食糧の値段が爆上がりしてまして、クズ石で買えたパンが大粒1個でも買えないのです!」
領民を賄う食糧がほとんど入らず、値は法外にあがるばかりだと家令が言う。仕入れるほど赤字になっていくと報告した。
「そんなバカな!だったらルビーをもっと掘れ!それを給金に当てろ!足りないならばもっと!もっとだ!」
「旦那様!そんなことをすれば値崩れを起こし、ルビーは只の石ころになってしまいます!」
家令は今すぐ農業に戻すべきだと泣き崩れた。
「そんなはずがあるか!宝石が野菜に劣るだと!?バカなバカな!我が領は大成功を、幸運を得たのだぞ!」
信じがたい惨状に男爵は打ちひしがれる。
その日出された夕飯は濁って臭い水とパンが一個だった。
だが男爵が本当の絶望を知るのはこれからである。
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