11 / 82
厄介な相手
しおりを挟む
燻りだされた連中は荒縄で巻かれ、ウネウネと身を捩って抵抗していた。
残念ながら一人足りなかった。
どう逃げ果たせたのかフォードがいない、ヤツは魔道具を扱う商人だ。なんらかの方法で逃走手段は持っていたのだろう。
「申し訳ありません」
「いいや、賊を甘く見てた。ボクが直接捕らえるべきだったよ」
執事達がボクに跪いて捕り物時の報告をする、フォードと対峙した時の子細だと魔法陣らしきを一瞬だけ目撃したそうだ。
逆にクズ家族はあっさり捕縛できたようだ。視界と呼吸を奪われたのだ、当たり前か。
「どうやら無二の親友とやらはお前を見捨てたみたいだね」
這い蹲るクズにそう言い放つとヤツは悔しそうにボクを睨む。
なにか怒鳴りたい様子だが、大量の煙を吸い込んだ喉がいう事を聞かないらしい。
ゲホゲホと咳き込み、涙に鼻水と涎でグシャグシャだ。
汚い……ボクは数歩離れた。
こんなゴミより取り逃がしたヤツを警戒しないと。
「フォードか、厄介な敵だね。狙いがわからない」
「坊ちゃん、どうか視野を広く……」
執事が耳元でなにごとか囁く、それを聞いたボクは顔を顰めた。
それが本当なら大規模な事だ、個人で太刀打ちできるだろうか?
執事がじっとボクの目を見て無言の訴えをしてくる。そうだね、小さな殻を破る時が来たのだと覚悟しよう。
たった1人で起こりえる大事に危惧しても解決しない。
クズ親子たちは侵入者と同様に地下牢へ転がした。
死なせない程度に持て成し上げよう。
***
騒ぎから一夜。
「君たちに名を付けようと思うんだ、抵抗があるなら止める。希望する名はあるかい?」
執事は期待の眼差し、メイド二人は自我がないのでキョトリとしている。
とくに抵抗はないようだ。
「名をつける事は仲間意識が強まる、それと意思疎通がし易い。メイドたちには自我が生まれるだろう。どうかな?ボクと仲間、もしくは家族になってくれないか?」
「御意」
相変わらず、淡々とそれしか言ってこない。
いやなんかこう……言い方ないのかなぁ。
項垂れたボクに執事が言う。
「坊ちゃん、今の時点では私どもは従僕です。自我も育ってません、最初は命令でいいのですよ」
「私達も少しづつ家族とやらに近づきたいと思います」
メイドもそういうなら……。
「わかった!実は一晩考えて候補を箇条書きしたんだ。選んでくれないかな?」
執事用とメイド用に描き分けた名前候補メモを手渡す。
ゆっくり選んで欲しいと伝えた。
夕方までには決定すると彼らは返事をした。
***
「な……まえ。難しい」
メイドのひとりが床を掃きながらブツブツ言う。
ツインテの薄葉色の髪の毛に鶯色の瞳をしている。
「野菜と果物の呼び名となにが違う?」
もうひとりのメイドはガラス窓を磨きながら遠い目をした。
同じくツインテで鶸色の髪を揺らし作業している。瞳の色は若苗色だ。
「わからないから、ジャガイモでいい」
「それはリストに載ってない、ジャガイモは野菜よ」
「ならばキューリ、私はあれが好き。ポリポリ美味い」
「それも野菜」
二人は仕事をこなしつつ、悩んだが結局「わからない」になった。
「執事に聞く?」
「そうしよう、主を困らせていけない」
残念ながら一人足りなかった。
どう逃げ果たせたのかフォードがいない、ヤツは魔道具を扱う商人だ。なんらかの方法で逃走手段は持っていたのだろう。
「申し訳ありません」
「いいや、賊を甘く見てた。ボクが直接捕らえるべきだったよ」
執事達がボクに跪いて捕り物時の報告をする、フォードと対峙した時の子細だと魔法陣らしきを一瞬だけ目撃したそうだ。
逆にクズ家族はあっさり捕縛できたようだ。視界と呼吸を奪われたのだ、当たり前か。
「どうやら無二の親友とやらはお前を見捨てたみたいだね」
這い蹲るクズにそう言い放つとヤツは悔しそうにボクを睨む。
なにか怒鳴りたい様子だが、大量の煙を吸い込んだ喉がいう事を聞かないらしい。
ゲホゲホと咳き込み、涙に鼻水と涎でグシャグシャだ。
汚い……ボクは数歩離れた。
こんなゴミより取り逃がしたヤツを警戒しないと。
「フォードか、厄介な敵だね。狙いがわからない」
「坊ちゃん、どうか視野を広く……」
執事が耳元でなにごとか囁く、それを聞いたボクは顔を顰めた。
それが本当なら大規模な事だ、個人で太刀打ちできるだろうか?
執事がじっとボクの目を見て無言の訴えをしてくる。そうだね、小さな殻を破る時が来たのだと覚悟しよう。
たった1人で起こりえる大事に危惧しても解決しない。
クズ親子たちは侵入者と同様に地下牢へ転がした。
死なせない程度に持て成し上げよう。
***
騒ぎから一夜。
「君たちに名を付けようと思うんだ、抵抗があるなら止める。希望する名はあるかい?」
執事は期待の眼差し、メイド二人は自我がないのでキョトリとしている。
とくに抵抗はないようだ。
「名をつける事は仲間意識が強まる、それと意思疎通がし易い。メイドたちには自我が生まれるだろう。どうかな?ボクと仲間、もしくは家族になってくれないか?」
「御意」
相変わらず、淡々とそれしか言ってこない。
いやなんかこう……言い方ないのかなぁ。
項垂れたボクに執事が言う。
「坊ちゃん、今の時点では私どもは従僕です。自我も育ってません、最初は命令でいいのですよ」
「私達も少しづつ家族とやらに近づきたいと思います」
メイドもそういうなら……。
「わかった!実は一晩考えて候補を箇条書きしたんだ。選んでくれないかな?」
執事用とメイド用に描き分けた名前候補メモを手渡す。
ゆっくり選んで欲しいと伝えた。
夕方までには決定すると彼らは返事をした。
***
「な……まえ。難しい」
メイドのひとりが床を掃きながらブツブツ言う。
ツインテの薄葉色の髪の毛に鶯色の瞳をしている。
「野菜と果物の呼び名となにが違う?」
もうひとりのメイドはガラス窓を磨きながら遠い目をした。
同じくツインテで鶸色の髪を揺らし作業している。瞳の色は若苗色だ。
「わからないから、ジャガイモでいい」
「それはリストに載ってない、ジャガイモは野菜よ」
「ならばキューリ、私はあれが好き。ポリポリ美味い」
「それも野菜」
二人は仕事をこなしつつ、悩んだが結局「わからない」になった。
「執事に聞く?」
「そうしよう、主を困らせていけない」
121
お気に入りに追加
3,083
あなたにおすすめの小説
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
王子の婚約者なんてお断り 〜殺されかけたので逃亡して公爵家のメイドになりました〜
MIRICO
恋愛
貧乏子爵令嬢のラシェルは、クリストフ王子に見初められ、婚約者候補となり王宮で暮らすことになった。しかし、王妃の宝石を盗んだと、王宮を追い出されてしまう。
離宮へ更迭されることになるが、王妃は事故に見せかけてラシェルを殺す気だ。
殺されてなるものか。精霊の力を借りて逃げ切って、他人になりすまし、公爵家のメイドになった。
……なのに、どうしてまたクリストフと関わることになるの!?
若き公爵ヴァレリアンにラシェルだと気付かれて、今度は公爵の婚約者!? 勘弁してよ!
ご感想、ご指摘等ありがとうございます。
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる