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ルチアナ襲われる

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一応、行儀見習いを務めるルチアナは兎に角暇だった、高位に当たる為に碌な用事が無かったのだ。それでも自由に動き回ることはできない。何故ならば幼い王子の世話役として従事しなければならないからだ。

「ルチャ!こっちに来てぇ、あれを取ってよ」
「はい、王子殿下」
「アルドって呼べと言ったでしょ!」
「……はいアルド殿下」

ルチアナは書棚の一番上の本を取り王子殿下に手渡す、だが「もうそれはいいや」とソッポを向かれた。こんなことが日常茶飯事で少しばかりイライラが募る。

アルド第四王子は我儘放題で「あれして、これして」と喧しい。王子が基本授業を受ける間だけ開放されるのだが、侍女として見守らなければならない。
『あぁ、暇すぎる……なのにあの控室に出入りできないなんて』
彼女は物調面で王子の授業風景をボンヤリと見つめていた。



「あぁ……こんな事なら請け負うんじゃなかった、暇でも身動きが取れないんじゃ意味がないわ」
帰りの馬車の中でブツブツと文句を垂れているルチアナは車窓を見るともなしに覗いていた、雇用期間は2週間である。今後もこの調子ならば強硬手段に出る他ないと考えていた。


***


「アルド殿下、私はちょっと用事がございますので!」
「ええ?どこへ行くの?ボクも連れていけ!」
「な、何をおっしゃるのですか」

従事して1週間目のことだ、強行突破しようと意を決したというのに王子は着いて行きたいと言った。
「何か都合が悪いのか?どこへ行こうと言うのだ」
「え、えっとお……大広間のほうへ」
「大広間だと?ふ~んなるほど、お前はさては事件のことに興味があるのだな」
「ええ!?」

的を射った事を言う王子に目を見開く彼女だ、そんな様子を見た王子はニンマリ笑って「やっぱりな」と言う。
「ボニート姉様はいつも取り澄ましていてつまらない人だった、それでも亡くなったことはちょっぴり悲しい」
「王子……」
8歳になったばかりの王子は少し遠い目をしている。



ふたり連れだって大広間へ行くと騎士が一人控室のところで護衛をしていた。
「やあ、ご苦労。ちょっとばかり入らせて貰うぞ」
「え!困りますよ王子殿下、現場は現状維持しなければ」
「黙れ、見て周るだけだ。どこも触らない」

それならばと騎士同伴で入室することになった、知れたら大目玉だがそこは王子、威厳でもって黙らせた。
「ありがとうございます、助かりました」
「ルチャ、お前まさかノープランできたのか?呆れるぞ」
「え、あははは……」

控室は当時のまま血塗れで赤黒い跡が残っていた。その上には花弁がたくさん散っている、干乾びていたが、それはルナの花と見られた。
「どうして花弁がこんなに?何か意味があるのかしら」
ふと目線を上げると姿見があった、それは壁に填め込まれている。そこには血痕のようなものが付着していた。

『……絶命する前に触れたのかしら、それにしても』
しげしげと見つめるルチアナに王子は退屈したのか「まだか?」とせっつく。だがルチアナは黙って窓際を調べている。

「ありがとうアルド殿下、もう済みました」
「うん、そうか。ならばこんな所は長居すべきではない」


そしていつもの通り馬車に揺られて帰宅するルチアナは見聞きしたことを纏めていた。血濡れの跡と痕跡の数々を書いていた。いよいよ最後のメモを取っていた時だ、馬車が大きく揺れて前のめりにコケてしまう。
「いたた……何事!?」

辺りは薄暗く良く見えない、この日は曇り空で余計に見通しが悪かった。なにやら馭者と護衛が喚いている。少しの喧騒の後に突然扉が開かれた。
「なっ!……えぇ嘘……でしょう……あぁぁ」

ルチアナは横腹に突き刺さった短剣を見つめて信じられないと呟く。





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