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兄と妹

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白い大理石に鎮座して頭を垂れる男が大声で叱責されていた、ぐぅの音もでないとひたすら懺悔の言葉を繰り返す。
彼はどうやら大失態をやらかした様子だ。その姿を見下して怒り狂う人物は床まで届くほど長い銀髪を伸ばす麗人である。
美しい女性にょしょうに違いないが、その身の丈は山ほど大きい。

『贖罪はその身をもって償え、それほどの事をやらかしたのだからな』
「はい、我が咎は理解しております。反論はいたしません抗いもしません」

『潔いな』

その麗人は優美な仕草で美髪をかき上げると、長い溜息を吐いてから彼に罰を与えた。
平身低頭でそれを享受する男の身体は霧散して消えた。



***

”うぅぅ……ごめんなさい……ついウッカリなんですぅ……ちょっと手が滑って”
質素な寝具に蹲りながらウンウンと魘される青年が誰かに揺り起こされた。

「ちょっと!寝ぼけてないで起きて!お兄ちゃん!ステ兄ったら!」
「――え、あぁ……ごめん。変な夢をみちゃって」

慌てて起き上がった青年は起こしてきた相手の瞳の端に光るものを見てギョッとした。
理由を聞いてみると何をしても1時間近く無反応だったと少女が言った。

「また、みたいに死にかけたと思ったんだよ!怖かったんだからね!?」
「そうか、それはすまなかった……ごめんよ」

少しぐずる妹の頭を撫でて慰めてから、寝汗でベタベタになった体を拭って身支度を始める青年、それを「まったくもう」と不平を漏らすミント髪の少女は「洗浄」と言って汗臭い青年を身綺麗にしてやった。

「おお、さすがだね。ありがとうフィとっても気分が良い」
「ふん、そんな初歩魔法くらい使いなさいよ……あ、ごめん」

フィオナが口を押えて謝罪した、禁句を言ってしまったことを後悔している。
兄ステファーノは気にするなと言ってブーツの紐を締め直す。

「んじゃ行こうか、次の町までどのくらいだったかな」
「えーとね、馬車で半日くらいかな。そこで討伐以来があれば稼げるね」

若干くしゃくしゃの地図を開いてフィオナが目算して答えた。
安宿に滞在時間ギリギリまで寝ていたため陽はだいぶ高い位置で輝いていた。昼食を兼ねた食事を摂ろうと小さな村を歩く、出立方向の途中で肉サンドの屋台が開いていたので買い食いした。

「んふー美味しい、けどちょっと硬いねぇ」
干し肉をふやかして炙ったそれは歯ごたえが凄かった、老人だったら苦労したに違いない。
妹が残した半分を兄は齧ってもう少し美味しいものを与えたいと渋い顔をした。


「俺なんかに同行せず王都に残れば良かったんじゃないか?今からでも遅くないぞ」
自分とは違って有能な魔法使いの妹を不憫に思ってそう言うが、すぐさまフィオが反論する。

「不憫なのはお兄ちゃんでしょ、野良冒険者なんてボッチで生きられるわけないじゃん!心配でついてきてあげたんだからね、魔の森なんか入ったら瞬殺よ、瞬殺!」

「あー……はは、そうだね。フィには感謝しかないです、ありがとうございます!」
「わかれば宜しい!大魔法使いで癒し手でもある妹に任せなさい!ずーと面倒みちゃうんだから!」

「ずっと?」
「ずっとよ、生涯ずっとよ!」

妹フィオナはそう言うと兄の左腕をヒシッと抱きしめて歩いた。兄は悪い気はしないが距離感がおかしいと冷や汗をかいた。この重症なブラコンぶりに将来が心配だとステファーノは空を仰ぐ。

彼女が宣うようにとても有能な妹フィオナは、王都に残って王宮魔術師か聖女と呼ばれるほどの能力を有し王族から婚約を請われるほど実力を持っている。その輝かしい未来をすべて蹴って無能な兄とともに国を捨ててしまった。

国総出で妹を抱き込もうと躍起になった王族だったが、フィオナを押さえつけることは敵わなかった。それほどにスゴイ人材なのだ。ついには謀反者として追放処分とされたが「願ったりかなったり」だとフィオナは笑い飛ばした。

後に喜んで出て言ったフィオナに大慌てした生国アドルナ側は、脅しに屈しなかった彼女に謝罪し擦り寄ったが後の祭りであった。

「あんなks国なんてこっちから願いさげよ、平民だからとバカにして!」
「こらフィ、口が悪いよ」

優しく窘める兄にフィオナは「頭を撫でてくれたら反省する」と強請った。順番が逆だと笑いながらステファーノは仕方なく撫でてやった。まだ13歳ということもありやや甘やかしがちである。


「えへへー、なんでだろう。お兄ちゃんに撫でられると安らぐんだよね」
「……ふーん。気のせいだろ、そんなことより馬車乗り場へ行こう」
「え、待ってよ!もう!」

隣町まで出ているという辻馬車の乗り場へ急ぐ、朝の便と昼の2回しか馬車は動かないのだ。
「ふぅ、昼の便はぎゅうぎゅうだなぁ……」
「誰かが起きなかったせいなんだけど?」

妹が兄の脇腹を突いて揶揄った、悪かったよとステファーノは謝罪してドライフルーツをひとつ齧らせた。
「んふ、甘くて美味しい。いつのまに買ったの?」
「あぁ、日持ちするからな大分前だと思うぞ」

フィオナが齧っていると香気に釣られた他の客が売ってくれと言った。
断わったがシツコイので仕方なく相場の1割増しで譲ることにした。

「あんがと!甘い物に目がなくてね、多めに持ってたんだけど食べ尽くしちゃってさ」
冒険者らしい少年はニィっと歯を出して笑った。日に焼けた身体は小さいが戦闘経験が多いのか古傷を体中にたくさんつけている。

「俺はカルってんだ半日だけど宜しく~、隣町に稼ぎに行くんだ!」
「ふぅん?キミは冒険者だろ、隣町にギルドなんてないじゃないか。大きく稼ぐならその先の都市へ行った方がいいぞ」

疑問を持ったステファーノがそう言ったが、少年は頭をフルフル振って反論した。

「ちげーよ、討伐以来が隣町から来てんだよ。なんか厄介事らしくてさ2年くらい達成出来てねぇの」
「へぇ、そうなんだ。魔物絡みかしらね」
「まぁそんなとこさ、退治してもすぐに復活しちゃうらしいぜ。こう見えてA級冒険者だから名指しで依頼がきたのさ。休暇で田舎に帰ってたのにさ」

「なるほど、キミは優秀なんだな。一見は華奢なのに」
「へっへーん、あなどるなよ」

面倒な分、報酬も吊り上がっているらしく、一気に稼ぐことが可能なのだと少年カルは言った。


「ねぇ、その討伐を私達と組まない?そこそこ強いわよ」
「えぇー、俺は仕事でつるむの苦手なんだけど……」

渋る少年にフィオナは提案する。
「もし組んでくれたら古傷を全部治してあげるよ?どう?」
「へ?」

フィオナは少年の足にあった一つの傷を一瞬で癒してみた。
「す、すげーーー!?上等のポーションだって古傷を治せないのに!あんたら何者!?」

するとフィオナは兄に抱き着き「ただの野良冒険者の兄妹だよ」と言って笑った。


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