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しおりを挟むサラジーヌがバストル城に突撃したのは僅か数分後の事だった、地脈を利用して移動したのである。ドリアードの血を受け継ぐ彼女には土に関したことは些細なものだった。瞬く間に現れたサラジーヌに畏怖して驚く王は「ひぃぃ」と情けない声を上げる。
「エメリは何処!エメリアンよ何処へやったのか直ぐに話しなさい!隠しだてするのなら容赦しないから!」
冷静でいながら怒気を孕んだ声は鋭く王の居室に響いた、しかし、王は「エメリアンなど知らない」とブルブルと震えて答えた。
「ほ、本当だ!確かに私兵をそちらに向かわせたが、まだ確保したとは聞いておらん」
「本当に?嘘だったら許さない」
蔦鞭を尖らせ王の首元に宛がってサラジーヌは問いただす、王は悲鳴をあげて「本当ですぅぅ」と泣き出した。これを見たサラジーヌは早まったかと溜息混じりに言った。
「ならば誰が彼を誘拐したのか、心当たりを言いなさい。さぁさぁ!」
「ひぃ!……息子のアンセルではないかと……彼には王太子は務まらないと判断したから、エメリアンを余の後を継がせようと言ったのですぅ」
「ふん、なるほどね。だから弟のエメリアンを害そうと……愚息が考えそうなことだわ」
彼女は太い蔦鞭をバシンと床に叩きつけて大理石の床に罅を付けた。
***
サラジーヌは王を脅して”アンセルが行きそうな所”を吐かせると「人質として来い」と王を蔦で雁字搦めすると地中を巡り移動した。あまりの事に王は白目を剥き気絶する。
「なんて情けない、王なんて辞めてしまえ!」
苛立ち紛れにそう唾棄した彼女はエメリアンの無事を祈る。
王が指定したのは森深い別荘地だった、そこは王族が避暑に訪れる高原なのである。民たちが疲弊していると言いながら、贅沢なものを作ったものだとサラジーヌは呆れる。
そこはちょっとした居城だった、こぶりながら贅を尽くしたそこにはやはり王子の私兵がいて「サラジーヌが現れたぞ」と騒ぎ立てる。
するとアンセル王子は堂々と出てきてほくそ笑む、だが王が捕らえられていると知ると「この化物が父上を放せ」と怒鳴りつける。
「フハハハッ!私は知っているぞ、お前ら化物の弱点をな!」
「あらそうなの?是非やって見せてよ」
「食らうが良い!やれ!兵達よ!」
王子の合図で私兵たちは一斉にトゲトゲの葉を茂らせたものをばら撒き、そして、それらを一結びしたものをサラジーヌに向けて絡めとる。
「これは柊?私達の唯一の弱点だわ、へぇ、ちゃんと考えたのね。エライエライ」
サラジーヌは侮蔑の視線を向けながらそう言った、王子は悔し紛れの文句なのだろうと高らかに嗤う。
「ふふん、どうだ手足が痺れて動けまい!伝承の通りだ、かつてドリアードと諍い事を起こした先祖に感謝だな」
彼はカラカラと笑いドリアードの長であるサラジーヌを嘲る。
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