上 下
5 / 18

4

しおりを挟む




その頃、バストル王国を出奔していたサラジーヌは隣国の小さな村の宿で手足を伸ばしていた。やっとしがらみから逃げた彼女はとても嬉しそうだ。

「あぁ、こんなにゆっくり眠れたのは久しぶりだわ。おじい様の御小言も両親の戒めも届かない!私は自由なのだわ」
彼女は飛び跳ねるようにステップを踏んでしまい隣から「煩いぞ」と苦情まで来た。「ごめんなさい」と見えない隣人に頭を下げた。
「いけない、浮かれ過ぎてしまったわ。気を付けないと」


その後、食堂に降りると朝食が用意されていた。「おはよう」と宿の女将に声をかけて席に着く。
「一泊二食付きで銀貨5枚、悪くないわ。いただきます」
食事とは言っても堅いパンとスープのみだ、それでも不満を言うことなく彼女はスープにパンを浸してニコニコと食べた。
食後に薄い茶をゆっくりと飲んで「ご馳走さまでした」と感謝する。

ケフリと小さくゲップをすると斜め前にカチカチのパンと格闘している男性を見つける。食べ方を知らない様子だった。彼は堅いパンを無理矢理千切ろうとしてパンに齧りつく。
「クスクス……それではダメだわ、歯が欠けてしまいます」
「え?」

吃驚した男性はサラジーヌの方を見た、拍子にパンをポロリと落としてしまう。
「あ!しまった!これはいけない大切な糧が」
見兼ねたサラジーヌはパンを拾ってあげて、食べ方を教える。

「うん、大丈夫、カチコチパンは埃を払えばいけるわ。はい、こうやってスープに浸して食べるといいわ」
「やぁ、ありがとう。うん、これなら食べられるぞ」
男性は礼を言いながらアグアグと頬張り、ニカッと笑った。その所作を見た彼女はワザと粗雑そうに振る舞っていると見破る。

食べ慣れない堅いパンといい、彼は身分を隠さなければならないほどに高位の者だと悟った。

「では、私はこれで」
立さ去ろうとするサラジーヌだったが「待って」と腕を取られた。不審に思った彼女は身体を強張らせる。

「あ、いや、済まないな。驚かせるつもりはないんだ」
「はあ?」
腕を取る手を申し訳なさそうに放すと彼はエメリと名乗った、女の子のような名前だと彼女は笑う。

「私はサラというの、それで何か御用かしら?」
「うん、実はギルドという所へ行きたいんだ。教えて貰えないだろうか?」
独り立ちする為に隣国から出立したは良いが右も左もわからないと言うではないか。

「あらぁ……気の毒ね、良くここまで辿り着いたこと」
呆れるサラジーヌに「えへへ」と頭を掻くエメリなのだった。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

幼馴染と結婚するために、私との婚約を一方的に解消した元婚約者様へ。貴方の幼馴染には、好きな人がいるみたいですよ?

柚木ゆず
恋愛
「リゼット。今日この場で、お前との婚約を解消する」 「理由、詳細は、卿に話してある。知りたくばお前の父親に聞くんだな」  リートアル伯爵家の嫡男・ドニ様。私の婚約者様はある日突然そう仰り、宣言後は一切の説明なく去ってしまわれました。  そのためお父様に伺ってみると、解消の理由は『この婚約は選択ミスだと気付いたから』。ドニ様はとある出来事によって幼馴染の伯爵令嬢・シルヴィ様と結婚したいと思うようになり、私に興味がなくなったためあのようにされていたそうです。  ……そう、だったのですね。  ドニ様は、ご存知ではなかったのですね。その恋は、一方通行だということを――。

私を捨てた元婚約者が、一年後にプロポーズをしてきました

柚木ゆず
恋愛
 魅力を全く感じなくなった。運命の人ではなかった。お前と一緒にいる価値はない。  かつて一目惚れをした婚約者のクリステルに飽き、理不尽に関係を絶った伯爵令息・クロード。  それから1年後。そんな彼は再びクリステルの前に現れ、「あれは勘違いだった」「僕達は運命の赤い糸で繋がってたんだ」「結婚してくれ」と言い出したのでした。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず
恋愛
 ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?  ……残念です。  貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。  ※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

柚木ゆず
恋愛
 ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。  自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。  マリオン達は、まだ知りません。  それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。

処理中です...