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「シャリー・ロズランドでございます、姉サラジーヌがお世話になっておりますぅ」
「あ、ああ、宜しくシャリー」

婚約者であるサラジーヌを押し退け、可愛らしく挨拶をする愚妹シャリーは、ニッコリと微笑みアンセル・バストル王子に媚を売った。姉は『またか』と諦め顔だ、妹はこのようにしていつも姉のモノを奪おうとするからだ。

『別にいいのよ、欲しければ上げるわ。そんなアホ面男なんて』
彼女はチラリとアンセルの顔を見た、見事に妹の罠に引っ掛かったらしい王子は鼻の下を伸ばしている。サラジーヌは扇の影で口をへの字に曲げて舌を出した。

王子は身分はそれなりにあるが無能で見目もごく普通、取り立てて秀でた所がない男だ。金と地位はあれど人として尊敬する部分が皆無なのだ。
そんなだからサラジーヌはこの度の縁について固執することはない、どうぞ勝手にやってくれと思っていた。


そして、このアホ王子はやらかすのだ。
それは王太子の発表をする場面で起きた、王侯貴族がいる場で颯爽と現れた王子は声高に言い募る。


「サラジーヌ!お前との婚約を破棄する!あろうことか妹シャリーの能力を自分のものと偽り王族を謀ったのだからな!」
「は?……なるほど、そうきましたか」

実は彼女の能力は豊穣の力を有している、遠い先祖がドリアードとの子を成し、その血を受け継ぎ地を豊かにしてきたという伝承があった。
その力は長いこと覚醒してこなかったが、この度、サラジーヌの代で見事に目覚めさせ枯れた林檎の木を蘇生させ実を付けさせたのだ。一族はその能力に畏怖しながらも「奇跡だ」と湧いた。

そこに目を付けた王は「是非、アンセルと婚約を」と申し出てきた。ロズランド子爵夫妻は喜んでこれを受けたのだ。長い事能力者が出ていなかったロズランド家は歓喜した、そして、身分も伯爵に陞爵して「我が家は安泰」と胸を躍らせる。




「で、私がどうやって謀ったと言うのでしょう?証拠はございまして?」
「ふん、証拠だと、ならばこのシャリーの偉業を見せてやろう。なぁシャリー?」
「ええ、アンセル様もちろんです!ご覧ください皆様この奇跡の御業を」

彼女はコホリと咳をするとコップを持ち出した、それから聞き取れないか細い声で何事が呟く。胡乱な目でその様を見ていたサラジーヌは『あぁ。あれをやるのか』と呆れた。

彼女が持ったコップがゆるりと震えて、それから何も入っていないそこに水が滴りだした。何も知らない観衆は「おお!」と言って感心する。確かにそれは奇跡と言っていいかもしれない。だが、その程度の事はドリアードの血を引くものならば出来る事なのだ。

「見給え、この力こそがドリアードの血を引く証拠に他ならない!そうだろう、皆の者!」










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