完結 妹がなんでも欲しがるので全部譲りました所

音爽(ネソウ)

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指輪から発動したユリアネの呪いはカリーナに容赦はしない、朽ちかけの老木のようになった彼女は姉の全てを欲しがったことを後悔することになる。



『姉様の物は全部欲しいの!』
『そう、わかったわ。全部あげる』
かつてカリーナの誕生日で躱した言葉である、その日の彼女はなんでも許されて横暴が過ぎた。それを容認した両親がすべて悪いのだ、結果、姉ユリアネの部屋は塵以外なにも残らなかった。

必要最低限の家具さえ奪われたユリアネは悲しそうな顔を演技した、そうすることでカリーナの欲は満たされる。わかっていて姉は敢えてそう見せつけたのだ。
『あっはっは!ざまぁ!姉様は虫みたいに床で寝れば良いのよ!』
全て奪い取り満杯になった己の部屋を眺めてカリーナは上機嫌であった、代わりに親たちが上等な家具類を姉に提供しなければならないことを知らずに。

『年上の者は欲しがる目下の者に与えなければなりません、よろしくて?』
『ユリアネ……あなたという子は!』
妹に奪われたものと同等の数を搾取せんとユリアネは母に侮蔑の視線を向けながら物品を漁った。強欲なところが似ているのか金に物を言わせて作らせた一点物のアクセサリーが山のように鏡台の引き出しから現れた。
粗方を奪われた母は号泣したが、因果応報なのでどうしようもない。

ユリアネは親たちが言い放った言葉をそのまま呪術契約にしたのである、このような結果になるとわかっていて両親はカリーナに好き勝手させているのだ。
そして、心に傷を負った代償を払うのは父親だ。溜め込んでいたへそくり金貨のほとんどをユリアネに差し出さなければならなかった。当然激高する父だったが呪いの契約を反故すれば相応の罰が与えられる。
一度だけ支払いを拒否した彼は手酷い呪いを受けて片目の視力を失い片足の自由を奪われた、父親は大慌てで娘に懺悔して慈悲を請いたが戻されたのは視力だけだった。

『これに懲りたら出し渋りを止めることですわ』
『……わかった、今後は満額支払うだからどうか……』
呪いが嫌ならばカリーナの性格を矯正するなり、制止すれば良いのにとユリアネは思うのだが両親は態度を改める様子はないまま今日まで過ごしてきた。

「これもまた呪いなのかしら、私のではなく妹カリーナが掛けた強欲の呪いに」
「左様ですね、まったく理解し難い心理でございます」
そうとしか思えない所業だったので、彼女と侍従らはそう解釈をせざるをえない。

***

「あぁあああ!嘘でしょ……私の愛らしかった顔が真珠のように美しかった白い肌がぁ!」
積年の恨みをその身に受けた妹は生気をすべて吸い取られたかのような姿になった、まるで老婆のような彼女を見てアロイスはあっさりと婚約破棄を申し出て逃げた。
形だけでなく愛そうとした矢先の出来事にカリーナは捨てられて日々泣いて暮らす羽目になった。
しかも四肢がまったく動かなくなり寝具から起きられない状態になっている。

これは寝たきりになっていたユリアネの身体の状態を貰い受けたせいだ。カリーナが望んだ「姉様のものは全部欲しい」と願った報いなのだ。心から懺悔しようともう取り返しがつかない。
そして、アロイスの心変わりはさっそく形になり姉へ再婚約を申し出てきたのである。

「不随になったカリーナでは嫁として迎え入れるわけにいかなくなった。どうかこれまでの事を水に流してくれないか」
「水に流すですって?愚かな物言いだこと、それは許す側の言葉だわ。彼方は脳味噌までもカリーナの毒に浸食されたの?とても真面とは思えないわ」
「そこを何とか!二度も婚約を失敗した私はどこの家からも相手にされないんだ!」
歴史が長く裕福なアロイスの子爵家だが、好条件とはいえ下位貴族で曰く付きとなれば寄って来る家はないようだ。

「そうですか、わかりました。ですが条件がございます」
「条件とは?私はなんでもするぞ!」

彼の不幸はいま始まった。
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