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あれから完全回復するまで半年ほどかかってしまった。それでも弱い自分を払拭したくて微温湯に浸かるような生活から離れる決意をしたのよ。
両親に貴族籍を抜き独り立ちする旨を相談した、だけど一人娘の私を甘やかす二人がそれを許すわけもなくて……。
教養はそれなりに受けているけど手先が器用ではない、職業婦人など出来そうもないと諭された。
たしかに私は秀でたものを何ひとつ持っていない。
私財もなく特別な資格能力もない、ならば身ひとつでこなせそうなものを自分なりに考えた。
痩せこけた己の身体は線が細くて頼りない、無駄に高い上背のせいで余計に貧相に見えた。
「ならば体力作りからしましょう、健康になれば心も強くなるというものね!」
広い世間に出ることを許されないならば態度で示さなければと思った。
この日から私は緩んだ心身を叱咤して鍛錬に励むことにした、もちろん世界情勢を学ぶ研鑽も忘れない。
裏庭の一角を自分専用に拝借して日々自分を磨くことにしたわ。
碌に歩いたこともない足はすぐに縺れるし、すぐに体中の筋肉が悲鳴を上げた。でも諦めない!諦めちゃいけないの。
公爵で騎士総団長を務める父は最初こそは「女の身ではしたない」と咎めていたが雨風が吹き荒れても体力作りをする私の決意の固さに眉を下げるようになった、一応は認めてくれたのでしょうか?
一日も欠かさず鍛錬に励んでいたある日、お父様が書斎へ来るようにと言った、頑迷な彼のことだ私の行いがやはり気に入らないのだろう。少しは認められたと思っていたのに。
淑女らしく振舞えといよいよ叱られるのだろう、ならば私も覚悟を知らしめよう。
もとから廃籍を望んでいたのだもの今更怖くない。
「ルチャーナ、お前は……女を捨てようとしておるな、違いないか?」
「……はい、お父様。私はもう社交界に戻りません、家督を継ぐ婿を迎えることを拒否します。不出来な娘でごめんなさい」
私は真っすぐに父の日焼けした強面を見据えて答えた。声が震えてないか心配だ。
余計なことを考えていたら父が長い溜息を吐いて黒檀の机に突っ伏した、一体なにが起こったのかしら?
「愛娘を手放すわけがないだろう、言わずともわかる。廃嫡を願っているのだろうが申し出は却下だ」
「……私は誰とも結婚しませんよ」
私は護身用に携帯していたナイフで長髪をザクザクと斬り落とした。
無惨になった頭髪など気にしない、私はそう選んだのだから。
「なんてことをルチャーナ!あぁ短気なところが私にそっくりだ……話は最後まで聞きなさい」
父が大袈裟に嘆いて肩を竦めるものだから私はポカンと呆ける。
「こんな髪の毛を惜しむことはないですよ、精神がやられた期間に真っ白に変色しています」
「茶化すでない容姿のことはともかく今後の身の振りの事をちゃんと話そう」
父はベルを鳴らし散らばった白髪を片付けろとメイドに言った。
かつて黄金に輝いていた名残はそこにはない。
両親に貴族籍を抜き独り立ちする旨を相談した、だけど一人娘の私を甘やかす二人がそれを許すわけもなくて……。
教養はそれなりに受けているけど手先が器用ではない、職業婦人など出来そうもないと諭された。
たしかに私は秀でたものを何ひとつ持っていない。
私財もなく特別な資格能力もない、ならば身ひとつでこなせそうなものを自分なりに考えた。
痩せこけた己の身体は線が細くて頼りない、無駄に高い上背のせいで余計に貧相に見えた。
「ならば体力作りからしましょう、健康になれば心も強くなるというものね!」
広い世間に出ることを許されないならば態度で示さなければと思った。
この日から私は緩んだ心身を叱咤して鍛錬に励むことにした、もちろん世界情勢を学ぶ研鑽も忘れない。
裏庭の一角を自分専用に拝借して日々自分を磨くことにしたわ。
碌に歩いたこともない足はすぐに縺れるし、すぐに体中の筋肉が悲鳴を上げた。でも諦めない!諦めちゃいけないの。
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「……はい、お父様。私はもう社交界に戻りません、家督を継ぐ婿を迎えることを拒否します。不出来な娘でごめんなさい」
私は真っすぐに父の日焼けした強面を見据えて答えた。声が震えてないか心配だ。
余計なことを考えていたら父が長い溜息を吐いて黒檀の机に突っ伏した、一体なにが起こったのかしら?
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「こんな髪の毛を惜しむことはないですよ、精神がやられた期間に真っ白に変色しています」
「茶化すでない容姿のことはともかく今後の身の振りの事をちゃんと話そう」
父はベルを鳴らし散らばった白髪を片付けろとメイドに言った。
かつて黄金に輝いていた名残はそこにはない。
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