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茶会からションボリと帰宅した愛娘の様子に、公爵夫妻は心配になり彼女に問いただすが「なんでもないの」と言うばかりでその日の夕食も摂らずに臥せってしまった。


やむを得ずクリスティアナ付きの侍女にその時の事情を聞くと、ヘイデンの愚行に大変立腹した。

「なんと……社交デビュー前だからとエスコート無しでも許していたが、他所の令嬢に現を抜かすとは!」
憤る公爵に妻が落ち着くよう宥めた。

「あなた、落ち着いて。ヘイデンの事だもの図鑑につられただけかもしれないわ」

「しかしだな!」
「あなた、挨拶もろくに出来ない女子にティアが負けるとでも?」

「……わかった、だがアラベラという令嬢について調べるぞ。今後もこのような事があるなら婚約解消も視野にいれよう」
「ええ、貴方の心のままに」


その日のうちに、公爵はモスリバー伯爵家へ抗議文を送りつけた。
二階級上の公爵に恫喝の文を送られた伯爵は大層慌て、急ぎ謝罪と先触れを出し、翌朝に青褪めた顔で訪問してきた。


「こ、この度は我が愚息が大変失礼な態度をとりました。誠に申し訳ありません!」
伯爵は床にめり込むような体制で公爵夫妻の前で謝罪の言葉を吐いた。

「ふむ、貴公の気持ちはわかった。だが肝心のヘイデンはどうした?なぜ当人が謝罪にこない、公爵家をバカにしているのか?」

「め、滅相も無い!……倅はその……図鑑に夜通ししがみ付いていた様子で蹴っても踏んでも一向に目を覚まさないのです」

「娘が心を痛めていると報せているのに図鑑に夢中で夜更かしして寝腐っているだと!?巫山戯るのも大概にしろ!」
「ひぃぃ!申し訳ありません!どうかどうか挽回のチャンスを」

厳しく問い詰められた伯爵は、いよいよ土気色になってミシミシと床が軋むほど頭を擦りつけた。

「ハッ、もう良い!次期当主が図鑑オタクで成り立つのか甚だ疑問だ!伯爵領の事業は紡績だったな、植物学を極めるのは感心だが、趣味の範疇で将来に役にたつとは思えぬ。父として貴殿はどう考えている」

「は、はい。もちろん我が家の事業についても学ばせております。今後はさらに厳しく監視もつけます。どうか今回は御赦し願いたく」


半泣きになり頭を垂れ続ける伯爵を睨みつけながら、公爵が告げた。

「口ではどうとでも、せめて解消されたくないのなら誠意を見せたまえ。次はない、そちらの有責で破棄にする」
「それだけはご勘弁を!どうかどうか!」

平行線の言い合いにげんなりしてきた公爵は条件をだすことにした。
遠回しに『辞退』を促しているのだが、伯爵はそれをしないのだ。


「ならばヘイデンが懇意にしてるというアラベラという娘のことを洗いざらい調査してこい。貴殿はとうに把握済みだとは思うがそれだけでは足りない。もちろん我が家でも調査はする、報告書に虚偽はあっては困るからな」

「か、畏まりました!隅々まで調べ上げて参ります!今回はこれをお納めください」
伯爵は従者に目配せして、重そうな麻袋を公爵側の執事に手渡した。


ずしりと重そうな袋だったが、公爵ははした金と目もくれず応接間から去って行った。

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