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閑話 ロミーの罪

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少し遡って誘拐騒動の前後の話。
宿を取って数日、出かけたまま帰らないセシルをグータラしながら生活していたロミー。
だが碌に金銭を貰っていなかった彼女は宿泊中はツケでなんとか凌いでいた。「金を持った彼が戻り次第払う」と偉そうにいうものだから宿の女将は仕方なく了承した。

ところが、十日過ぎても無賃のまま居座っている客人に不信感が出てくる。
「せめて食事代くらいは払ってほしい」とロミーに言ったが「待て」というばかりで話にならない。太々しい彼女の態度に業を煮やした女将は街の憲兵に通報した。
とうぜん金のないロミーは宿代を踏み倒し、無銭飲食を働いた咎で御用になった。気が強い彼女は抵抗しまくったが捕縛されて入牢となる。平民の彼女は略式で懲罰が下り咎戒を償うことになった。
罪人の首輪を嵌められたロミーは毎日悪態を吐いたが、本人が納得せずとも刑は執行される。

「チクショー!私は伯爵令嬢で将来は伯爵夫人になる身なのよ!なによこの粗末な服は!ゴワゴワで臭いしサイズも合ってないじゃない!首輪も苦しくてイライラする!すぐに開放しなさい!私はコリンソン家の者よ!お父様を呼んで!それにセシルは何やってんの!?恋人が苦しんでいるのに」
鉄格子の奥に転がされたロミーは、嘘などとうにバレていることも知らず毎日喚いた。牢番たちはあまりの煩さに喉を焼いてしまおうかと何度も思った。

投獄されて半月ほど経った頃、償う機会が与えられたと看守がやってきた。
反省の色はまったく見せない彼女だったが、薄暗い牢獄よりはマシだろうと喜んで外に出た。手錠と目隠しをされたロミーは抗う事も出来ず、されるがまま馬車に押し込まれて田舎町へと運ばれて行く。
王都から大分離れた場所にきたことは感覚でわかっていたが、まさか廃町へ連れてこられたとは想像もしていないだろう。

馬車から出されてすぐに澄んだ空気を肌で感じた彼女、コリンソン家の別荘地だろうかと少し期待した。
だが甘い考えはすぐに打ち砕かれた、足元は石だらけの荒れ道だったし、そこに沿うのは朽ちた家屋が並んで建っているだけだったから。とんだ所へ連れて来られたロミーはここへ捨てられるのではないかと恐怖した。
ここはどこだと訊ねるも回答する者はいない、背後から「歩け」と乱暴に小突かれ渋々従うほかなかった。

ちらりと背後を見た彼女は立派な装束を着た騎士だと気が付いた。
だが、王城を護るべき彼らが何故だろうと疑問が湧いたがさっぱり答えがみつからない。

馬車から下りて30分後ほど歩いて辿り着いたのは、麦畑の跡地だった。背丈ほど伸びた雑草と細い樹木が茂っていて彼女をウンザリさせた。数メートル先に雑草処理に苦闘している人影がいくつか確認できる。
「ここがお前の仕事場だ、刑期は5年だしっかり償え」
騎士はそう伝えると木製の農機具を彼女に渡した、野良仕事とわかった彼女は庭師の父親を思い出して泣きそうになる。
「どうしてこうなったの……グスグス、大人しくしていればあの屋敷で暮らせていたかも」
我儘放題生きて来た彼女は漸くちょっとだけ後悔をして、ぐずりながら雑草を刈りボコボコに荒れた土を均していく。しばらくして喉の渇きを監視の者に伝えると甕から水を汲みコップに分けてくれた。
想像したほど悪い扱いではないと安堵する、彼女は罪人の暮らしはもっと過酷だと思っていた。

ちゃんと働けば食事は出されたし、セシルと暮らした山の別荘より遥かに美味しいご飯が食べられた。スープは具沢山だったし、肉のオカズも与えられた。肉体労働ができるように栄養が配慮されていたことに驚く。
「なんだ……囚人ってもっと悲惨かと思ってたわ」
首輪の意味を知っていたロミーではあったが、今更自分の立場を理解して受け入れた。5年くらいなら耐えられるだろうと溜息を吐く。

簡易な寝床小屋を与えられここに暮らして約一か月。
自分以外に女子がいないことにロミーは気が付いた、街道の整備と畑仕事に分けられて働く男達はみんな髭ボウボウで見分けがつかない。なんの魅力も感じないので彼女が色気を撒くこともなかった。

労働になれて筋力が付き始めた頃、数十人ほどの新規労働者がやってきた。
全員が元死刑囚らしいと耳に届いて、さすがのロミーも恐ろしくなり、極力関わらないようにしようと距離を置く。
数日後の早朝、配置換えをすると監視員が囚人らに言った。みんな面倒そうに下を向く。

女子であまり力が無いロミーは畑の耕しと食事仕度の補助を言い渡された。
通いの下女と飯場で働き始めると話し相手が出来て少しばかり楽しくなった。お喋り好きの中年女は王都でのことを面白しろ可笑しく聞かせくれた。その中に元死刑囚の話が混ざっていた。
「なんと元貴族の坊ちゃんがいるんだってよ!」
「へえ、何をやらかしたのかしら?バカね」

子息ならば大人しく暮らしていれば一生安泰だろうにと、彼女らはジャガイモを洗いながら噂する。
芋スープと炙った鶏肉の香が立ち上り始めると囚人たちがゾロゾロと集まり列が出来た。給仕でせっせと働くロミーだったが、誰かの視線を感じて顔を上げた。

そこには見知った顔が立っていてお玉を落としそうになった、生き別れてしまった恋人セシルが木皿を片手にこちらを見ていたのだ。
「ろ、ロミー……キミもここにいたのか、でも何故?」
「セシル!ぬけぬけと……あんたのせいでこうなったのよ馬鹿!あんたがちゃんと宿に戻っていれば私は罪人なんかに落ちなかったのよ!」

かつて愛し合った二人であったが、再会はとても苦いものだった。

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