上 下
8 / 9

卒業式は誰の為

しおりを挟む
学生最後の大舞台、卒業式と盛大なパーティが開かれた。
大赤点を出した王子とヒーナは在校生側で仏頂面を露わに参加した、手には木箱と袋を手にしていて周囲を騒つかせる。恥も外聞もなく現れた二人に職員らは呆れて見ていた。

送辞と答辞が交わされる行事が例年通り行われた、在校生からの祝福の言葉は恙なく終わった。しかし答辞を指名されていたバカ王子が卒業が出来なかった。やむなく主席卒業を果たしたナディアが代役を務めた。
恥を晒した揚げ句に華の舞台を奪われたフレッド王子は凄い形相で壇上のナディアを睨んでいた。
そして、国王の祝辞で締められる場面がやって来た。

父王が壇上へ姿を現すやいなや、バカ王子とヒーナが乱入をした。
大荷物を抱えた彼らはマイクを奪うと、声高にナディアの悪行の数々を知らしめる時がきたと叫んだ。
何事かと狼狽える生徒達とやりおったと頭を抱える教師たち、そして全てを把握済みの愚王と貴賓席に並ぶ大臣らが青い顔をして項垂れる。

「きょうの良き日に水を注すことを許して欲しい!ここにいるヒーナ嬢へ悪辣非道な行いをしてきたナディア・ルフィンス・リフレートの罪を白日の下に晒したいのだ!全ては俺とヒーナの尊厳のために!」
その宣言は一個人の都合であるというのは明白だ、彼ら二人以外は全員関係のない話である。
王は大きくため息を吐くと愚息に向かって言った。

「やめなさい、今なら咎めなしで赦してやる。王族の籍に留まりたいならばな」
「な!父上なんていう事を被害者はヒーナだというのに!罪人の肩を持つと言うなら親とて容赦しないぞ!」
自分の言葉に酔っているらしい王子には王の言葉が通じない、王は生気のない目で貴賓席にいる宰相の顔を見た。
だがその表情には慈悲は伺えなかった。

諦めた王は「好きにしろ、余は疲れた」と言葉を残して壇上から去って行く。
一番聞いて欲しい相手が場から消えてしまった、焦る王子だがヒーナがせっついてスーツの端を引っ張る。
「フレッドぉ早く断罪しちゃいましょう、きっと皆は私たちの味方だわ。そして盛り上がったところでパーティよ!」
「そうか、そうだな!」
宰相や大臣はいるのなら問題ないと踏んだ王子は捏造した証拠の数々を打ち撒いて咆えた。
ボロボロの教科書、インク塗れのドレス、そしてヒーナの怪我した写真と診断書を掲げていかに虐げられてきたかを衆目へとアピールした。
そして三文芝居を披露するヒーナは身振り手振りで「あーだこーだ」と訴える。

「見て下さい皆様!これは私が大切にしていた髪飾りですわ!御婆様の形見ですのよ!」
四方に折れ曲がった状態の成れの果てを掲げて瞳をウルウルさせるヒーナは悲劇のヒロインそのものだった。
シーンと静まりかえった会場を見回して王子は「うまくいった!」と拳を握る。
だが、それに水を注す声が響いた。

「恐れ入ります殿下、その髪飾りはうちの商会が最近流行らせたものです。ですから形見になるはずがございません」時系列的に無理がある品物を指摘して大商会の令嬢が論破してしまった。
それを聞いた生徒らがざわつき始めて波のように広がった。

「あらぁどういう事かしら?そういえば同じものを妹が愛用してますわ」
「そうだわ、間違いない。最近店頭に並んだものじゃない」
ヒーナが吐いた嘘が盛大に広がっていく、恥で顔を真っ赤にした彼女は「間違っただけよ!言葉の綾だわ!」と弁解する。

「こちらをご覧なってズタズタの教科書よ!ナディアが盗んで破り捨てたものだわ!私がゴミ箱で発見して泣いていたのを見た人もいるわ!」
目撃者がいると叫ぶヒーナだが、名乗りでる者はいない。それどころか違う目撃者が現れる。
「その教科書だけど、ヒーナ嬢が自ら刻んでいた所を見たぞ。変わった子だなと思って観察してたんだ。たしか3学年の廊下だった。そこなら映像記録に残ってると思う、先月の上旬のことだ」

予期してなかった目撃者の登場に王子は瞠目して叫ぶ。
「え、映像記録!?なんだよそれは!知らないぞそんなもの」
「私も知らなーい!ないようそれぇ!ずるーい!」
ぎゃいぎゃいと煩い彼らを尻目に学園長の指示で何かの機材が壇上のすぐ横に設置された。そして、ここ最近の防犯カメラの映像を早送りして披露する。事務員が手慣れた様子で先月分の記録を投影した。

白い壁に映し出されたのは廊下の隅でコソコソやっているヒーナの姿だ。手にはナイフとインクがある、己の鞄を漁って教科書を取り出すとザクザク切り刻み始めた。動かぬ証拠を見せつけられたヒーナは「ずるいずるい!プライバシーの侵害よ」と叫び出す。
捏造した証拠はまだまだあるが、もう駄目だとバカ王子は頽れてしまった。

「階段落ちをして痣まで造ったのに!ぜんぶぜんぶ台無しよ!どうにかしてよバカ王子!」
「なんだと!だから止せと言ったのに、俺に責任を押し付けんじゃないよ!乳オバケ!」
「きぃーー!乳オバケですって!?そのオバケで喜んでたドスケベは誰よ!」
口汚くの罵り合いだした二人をしばし傍観する生徒とお歴々たちは「面白い余興を見た」と喜んだのは内緒である。

結局たくさん作った証拠のほとんどは日の目をみないままゴミクズになった。

「わざわざ登城してアリバイを作るまでもなかったわ」
文明の利器に感謝するナディアはとても穏やかに微笑んでいた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

貴方と私では格が違うのよ~魅了VS魅了~

callas
恋愛
彼女が噂の伯爵令嬢ね…… 魅了魔法を使って高位貴族を虜にしていく彼女。 ついには自分の婚約者までも…… でもね…相手が悪かったわね

婚約者は迷いの森に私を捨てました

天宮有
恋愛
侯爵令息のダウロスは、婚約者の私ルカを迷いの森に同行させる。 ダウロスは「ミテラを好きになったから、お前が邪魔だ」と言い森から去っていた。 迷いの森から出られない私の元に、公爵令息のリオンが現れ助けてくれる。 力になると言ってくれたから――ダウロスを、必ず後悔させてみせます。

その令嬢は祈りを捧げる

ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。 エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

王子の逆鱗に触れ消された女の話~執着王子が見せた異常の片鱗~

犬の下僕
恋愛
美貌の王子様に一目惚れしたとある公爵令嬢が、王子の妃の座を夢見て破滅してしまうお話です。

婚約破棄と追放を宣告されてしまいましたが、そのお陰で私は幸せまっしぐらです。一方、婚約者とその幼馴染みは……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、シャロン・ライテルは、婚約者である第二王子のローレンス・シェイファーに婚約破棄を言い渡された。 それは、彼の幼馴染みであるグレース・キャレラの陰謀で、私が犯してもいない罪を着せられたせいだ。 そして、いくら無実を主張しても、ローレンスは私の事を信じてくれなかった。 さらに私は、婚約破棄だけでなく、追放まで宣告されてしまう。 高らかに笑うグレースや信じてくれないローレンスを見て、私の体は震えていた。 しかし、以外なことにその件がきっかけで、私は幸せまっしぐらになるのだった。 一方、私を陥れたグレースとローレンスは……。

処理中です...