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しおりを挟むいよいよ業を煮やしたキアラ王子は直接侯爵家へ向かおうとする、だがどうしてだか彼女の邸宅の前にくると馬車は素通りしてしまう。
「おい!どうしてビスカルディ侯爵邸へ入らないのだ?先触れは出しているじゃないか!」
彼は馭者のいる場所へ無理矢理に顔をだし叫んだ。
「どうと言われましても、王子殿下はお連れするなとお達しがありまして、こうして素通りするしかないのです」
「なんだって!?」
聞けば王の勅命だというではないか、納得のいかないキアラは「ならば飛び降りる」と言い出した。しかし、今度は護衛たちが御守りしろと立ち塞がる。
「ええい!お前達!いい加減にしろよ!なんだって邪魔だてするんだよ!」
「王命でございますから、御辛抱くださいませ」
「だからその王命とは何なんだ!訳が分からない!」
誰に尋ねても「理由はわからない」と言われた、益々と苛立つ王子は不意を突き馬車から飛び降りた。どしゃりと転げ落ちたそこは、運悪く雨が降った泥溜まりだった。
それでもめげない王子は泥だらけになったまま走り去る、そうして漸くついた門の前には緊張した顔で「何ヤツ」と身構える門兵がいた。
「俺は第二王子キアラだ!ほらこの通り王家の紋章を所持している!」
「は、はあ……間違いございませんな」
二つの龍頭を象ったエンブレムを品定めした兵はうっかり彼を通してしまう。
***
やっと邸宅に着いたもののフットマンが困り顔で応対する、確かに先触れはされているがやはり通すわけにはいかないと言う。
「何故だ!俺はキアラ王子だ!扉を開けろ!」
「開けろと言われましても……王命でございますから」
「くっ!ここでも王命かよ、一体どうなっているんだ!」
地団駄を踏むキアラは我儘坊主そのもので、ギーギーと喚いてまるで猿のようだった。なんど諫められても諦めない彼はフットマンを突き飛ばして屋敷に無理矢理入ってしまう。
もう王族がなんだと矜持をかなぐり捨てている。
「アレシア!どこだ!キアラがきたのだ、顔を出せ!」
何度も同じ台詞を吐き彼女を探して屋敷中を走り周る、すると侍女らが泥だらけの王子を見て「キャー」と騒ぎ立てる。収拾がつかない事態だ。
「まぁ、キアラ殿下がきたですって?」
「はい、お嬢様。本日はアレン様はご不在ですので如何いたしましょう」
「そうねぇ、王命では会ってはならないと言われているけど」
小首を傾げて苦悩するアレシアに口を挟む者がいた。
「いいじゃないか、アレに現実を見せる絶好の機会だよ」
「あら、クラウディオ様。宜しいのかしら?」
「あぁ、構わないさ。責任は私が取ろう、アレも真実を見るべきなのだ」
ゆっくりと立ち上がるクラウディオはクラバットを整えて「では参ろうか」と手を差し伸べた。
「エスコートしてくださるのね、初めてですわ」
「はは、些か気恥ずかしいな」
くの字に曲げた腕にそっと手を添えるアレシアはドキドキと鼓動が煩いことに気が付いた。いつの間にか王子に惹かれていたことにも気が付く。
「あぁどうしましょう、とても嬉しいわ」
二人は連れだったサロンを後にした。
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