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両想い
しおりを挟む夜会は無事に成功して恙なく終わった。
緊張の連続で心身ともに疲れ果てたモニカは、その晩はぐったりとしてすぐに就寝した。
そこへトリスタンが寝室へやってきた、夫婦の寝室だなにも問題はない。だが、彼は忍んでやってきて彼女の頬に触れる。まるで壊れ物を探るような仕草だ。
「……貴女はまだ私を受け入れてくれないだろう、いまはまだ良いのだ。この寝顔を見られるのなら」
うっとりと見つめるその瞳は恋焦がれ恋慕に満ちていた。いつからかなどわからない、だが確かに愛しいと思えるのだ。
「おやすみ、愛しい人」
彼は優しく頬にキスを落としてその場を去った。
しばらくして、寝返りをうつ彼女は顔を真っ赤に染めていた。起きていたのだ。夢現にしていた彼女がはっきりと覚醒したのは『おやすみ、愛しい人』と言われたあたりだ。もちろんキスをされたことにも気が付いていた。
「な、なんてこと……私達は両想いなのだわ」
キャーと声なき声で叫び、悶絶する彼女だ。布団の上で何度も転げまくり、終いにはジタバタと足を撥ねていた。
「で、でも今更なんて告白したら良いの?わからないわ~」
彼女の悩みは尽きそうもない。
***
翌日、どう顔を合わせていいか分からなくなった彼女は寝室で朝食を摂ることにした。
珍しいこことでもないのでメイドはせっせとお世話をして「良い天気ですね」と微笑む。
「え、ええほんとうに良い天気で……ほほほほ」
あれほど眠かったはずなのに一睡も出来なかった彼女は目の下に隈が出来ていた。それでも眠気がやってこないので困ったことである。
もそもそと好物のスクランブルエッグを食べていた時、ノックが叩かれた。
「やあ、モニカ。今朝は会えないかと思ってね、つい来てしまったよ」
「あ、あらまぁ、お恥ずかしいです」
ネグリジェのままで食事をとっていた彼女は「ボッ」と赤らめた、それを見た彼はどこか具合が悪いのではと危惧した。
「ど、どこも悪くないです!はい、絶対に!」
「そうかい?とてもそうは見えないのだか。ちょっと失礼」
「へ?」
なんと額同士をくっつくてきてきたではないか、これにはモニカは不意を突かれて更に「ボボッ」と顔に火が吹いた。
「ひ、ひぇ~」
「モニカ?だいじょうぶかい?これは酷い熱だ、キミ直ぐに医者を呼びたまえ」
「はい、すぐに!」
後に大事ないと太鼓判を押されたモニカはただ恥ずかしいと思って項垂れた。
「それにしてもどうして熱を出したのか、私はてっきりご懐妊かと思いましたよ」
「え?」
医者が悪びれなくそう言ったのだが、そこに居合わせた二人はまたも真っ赤になった。
「懐妊などありえない!ありえないぞ!」
「そ、そうです!私達はそのようなことは!」
清い身体だと言ってしまって更に墓穴を掘るふたりなのだ、医者は「まあまあ、タイミングがございますから」と苦笑して帰って行った。
「と、とんだことを申し訳ございません」
「い、いいや、良いんだ……私が意気地ないせいで」
サロンに移動したふたりはソワソワとして互いの出方を見ている。もういっそ殺してくれとモニカは思った。
「あの、私は寝室に行ってもいいだろうか……そろそろ、その…どうかと思っている」
「え?まぁ……トリスタン様。う、嬉しいです」
「ほんとうかい!良かった……」
互いに惹かれ合っていたことを再確認したふたりは漸く心が通じ合った。
見つめ合い、どちらともなく近づく二人の唇が重なり合おうとした時だ。
「トリスタン様!タリーニご夫妻が御面会希望とのことです」
「え?えええええ……なんでこのタイミングで……」
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