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勘違いと齟齬

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翌日、早速と嫁とした働くモニカだったが、いきなり面喰らうことになった。
「お、奥様!掃除などしなくて宜しいのですよ!」
「え?でも朝の支度はちゃんとしなければ」

箒と雑巾を抱え込む彼女はいつもの粗末な服を着てキョトリとしていた、とてもではないが公爵夫人になる人物には見えない。頭を抱え込む侍女長は「どうかおやめください」と諌言する。
「あの、ええと……ごめんなさい。順番が違うのですね、では外の掃除から」
「違います!お願いですから止めてください」

まるで下女のような仕事をやろうとする彼女をどうにか部屋に引っ込めると、ミルド侍女長は奥方はなんたるかを教える。また正式に結婚したわけではないが、彼女に屋敷を切り盛りする女主人としての心得を教えたのだ。

「まぁ、そうだったの。知らない事ばかりだわ、では自身の部屋掃除はしていいのよね?」
「……しないで下さい、それになんですか、その見すぼらしい恰好はドレスならばいくらでも用意されておりますよ」
「ええ?」

クローゼットを開けて見せたミルドは「御着替えあそばせ」と言った。そこにはヒラヒラで掃除などしたらすぐに破けそうなものばかりが入っていた。
「宜しいですか、貴婦人がなぜこのような服を着るのか。それは掃除などをしないためです、女主人は従者らを使役して働かせるものです、窓が曇ったなら拭かせ、床に塵があれば掃かせるのです。身分というものを考えていただきたい」
「は、はい。わかりました……」

彼女はすっかり悄気てしまい、委縮してしまう。
女主人とはなんと肩身が狭いのだと肩をゴリゴリと解し深くため息を吐くのだった。

「掃除全般は駄目……ならば何をして過ごせば良いのか?う~ん、繕いもの……はやらないかこんなに素敵なドレスがたくさんあるのだもの」
なにをしていいのかソワソワとしていればメイドがやって来て「朝食の準備が整いました」と呼びにきた。彼女はお腹が空いていたことに気が付く。

「ありがとう、食堂へ行けば良いのよね?」
「どちらでも、お部屋でお摂りになられるのでしたらそのように」
そう言われた彼女はしばし悩んだが結局は食堂へ向かうことにした。誰かに呼ばれて食事を摂るなど初めてなのだから仕方がない。

昨晩は致し仕方ない事情があったので妙な気分である。

食堂に入ると義父バルトロが紅茶を飲み待っていた、夫トリスタンの姿はない。挨拶を済ませて着席すればバサリと朝刊を開く義父が言う。
「トリスタンは朝食を食べないのだ、朝早くに仕事に出ている。妻が来たばかりだと言うのにまったく気が利かないことよ」
「は、はあ。別に宜しいですわ、私のことなど捨て置いてくだされば」

それを聞いた義父は青褪めて「なんということだ」と呟く。
もとより政略結婚だと聞いている、妻の役目は跡取りを生むことだとトリスタンに言われているのだ。いまさらだとモニカは思うのだ。

「それは良くない!良くないぞ!バカ息子はなにを考えているのだ!」
「はあ?まぁ、美味しい。ゆで卵ではないのねぇ」
彼女はスクランブルエッグを楽しみだし、すっかり夫のことなど頭の隅に追いやっていた。


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