上 下
21 / 32

軌道修正

しおりを挟む



「それは真か!おのれぇ……」
ポルデの町で無駄足をしていたトマス・オルフォードは地団駄を踏みたかった、だがギチギチと居並ぶムカデの足ではそれもままならない。悔しそうに唇を噛み「いますぐに移動だ」と命令する。

騎士団の動きを探らせていたトマスだが、とうに彼らはポートリックを目指し船に乗ってホシルタへ向かったというではないか。クラーラはてっきり国内に留まり、細々と暮らしていると思っていた彼は苦虫を噛んだ顔をする。
「思っていたより行動範囲が広かった……クソゥ!」

今の彼女は万能ともいえる能力を有しているなど想像もしていない、たかが少女だと侮り過ぎていた。実際に対峙していたらトマスらなど瞬殺されていることだろう。
その幸運を未だ知らないトマスはただひたすらに彼女の行方を追うのだ。
「待っているが良いクラーラよ!捨てゴマなりに役に立つが良い」

精霊神シェイドの嫁を捨てゴマなどと言い放つトマスに若干呆れる腹心たちだ。本当にこの王子に着いて行って良いものかと疑問視した。どうにも勘違いしているとしか思えない。
「私は降りるぞ、殿は何か思い違いしておられる」
「やはりそうか、そうだよな……」

見た目の恐ろしさから追従してきたが、ここらで縁を切るべきと考えた。この日、腹心二名を失ったトマスはどう生きるのか。


***

一方で船旅を楽しんでいたララたちは順調そのものだ。
さして大きなトラブルもなく過ごしていた、ホシルタまでの日数は20日間だ。あと8日ほどで到着する。
「ふんふんふ~ん、牛のふん~」
「……ちょっと何よその下品な歌は」
呑気そうに歌を唄うシェイドに突っ込みを入れるララは嫌そうに身を捩る、ちょっとした冗談だと笑い飛ばす彼はうっかり素がでそうでヒヤヒヤした。

「もう、止めてよね、いまの貴方は女子なのよ!下品禁止!」
「はいはい、ごめんよ。ついだよ、つい」
相変わらず女装したままのシェイドは大欠伸で答える、女装というよりは身体までも変化していて女性そのものだ。豊かそうな胸をタユンと揺らす。

「……胸、紛いものの癖に腹立たしい」
「ん?なんか言ったかい?」
「別に~」
ツンとソッポを向いて何でもないのよと言うララだ、さりげなく自身の胸を摩るがひっかかりはほとんど無かった。いつになったらボンと膨らむのかとため息を吐く。

「それより何か騒がしくないか?階下からだが」
「え?そうなの?何も聞こえないけれど」
二階建ての質素な船だったが、一階から喧騒が聞こえるとシェイドが言う。

気になったララは降りてみようとシェイドを促す、降りては見たがやはり物音は聞こえない。気のせいじゃないかと彼女がそう言いかけた時だ。くぐもるような小さな声が聞こえて来た。
「シェイド!」
「ああ、わかっている卑怯なことだよ」

客室の一室から時折バタンという音が聞こえて来た、「たすけて」というか細い声が聞こえた。これはただ事ではないと悟ったララは「お願い」とシェイドを頼る。
「任せておいて」
彼はウインクして客室のドアを蹴破った、中には二人の男と羽交い絞めにされた女性が泣き腫らしている。なんという事か女性は半裸の状態でそこにいた。

「たすけて……」
それを見たララはざわりとした感情が湧いて来た、身の毛もよだつというような感じだ。
「なんてことを!恥を知りなさい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸
恋愛
 私は侯爵家の令嬢リリエッタ。  皆様からは笑顔が素敵な『花の令嬢』リリエッタと呼ばれています。  私の笑顔は、婚約者である王太子サミュエル様に捧げるためのものです。 『貴族の娘はすべからく笑って男に付き従う『花』であるべし』  お父様のその教えのもと、私は『花の令嬢』として笑顔を磨き続けてきました。  でも、殿下が選んだ婚約者は、私ではなく妹のシルティアでした。  しかも、私を厳しく躾けてきたお父様も手のひらを返して、私を見捨てたのです。  全てを失った私は、第二王子のもとに嫁ぐよう命じられました。  第二王子ラングリフ様は、生来一度も笑ったことがないといわれる孤高の御方。  決して人を寄せ付けない雰囲気から、彼は『断崖の君』と呼ばれていました。  実は、彼には笑うことができない、とある理由があったのです。  作られた『笑顔』しか知らない令嬢が、笑顔なき王子と出会い、本当の愛を知る。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜

みおな
恋愛
 私は10歳から15歳までを繰り返している。  1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。 2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。  5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。  それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。

【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船
恋愛
子爵令嬢であるアイーシャは、義母と義父、そして義妹によって子爵家で肩身の狭い毎日を送っていた。 辛い日々も、学園に入学するまで、婚約者のベルトルトと結婚するまで、と自分に言い聞かせていたある日。 義妹であるエリシャの部屋から楽しげに笑う自分の婚約者、ベルトルトの声が聞こえてきた。 【誤字報告を頂きありがとうございます!💦この場を借りてお礼申し上げます】

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...