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ララの怒り

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「ごめんください、ギルドから来ました」
ララは決め台詞のようになってきた言葉を紡ぐ、依頼者の果樹園側はさっそくと棘だらけの雑草を駆除して貰う。そんな日々が一月ほど続いた。

「そろそろ違う町へ移動しよう……」
地図を広げる彼女にぴたりとくっついて「次はどこへ行くのだい?」とシェイドは聞いてくる。鬱陶しいと向う脛を蹴飛ばし「しっしっ」とララは言う。それでも懲りないのか「イタタ」と笑っている。

「痛いなんて嘘ばかり……貴方って人間ではないのでしょう?」
「ふふ、その通り!私は精霊神だからね」
「はぁ……」
精霊だか神だか知らないが、付きまとってくるこの男のことがララは苦手だった。人ならざる美しさを持つ彼はとにかく目立つ、ギルドに出入りする女性は決まって彼のことを見つめては「きゃー」と叫ぶのだ。

そして、いっしょに居るララを睨んでくるのだ、やっかみもあるのだろうがはた迷惑だ。
「もう少し離れて!貴方は目立つのよ」
「ええ~そんな事をいわないで」
片時も離れたくないらしいシェイドは兎に角始終いっしょにいたがるのだ。人間の機微など知った事かと彼はひっついてくる。


いよいよ街を離れることにした彼女はひとりで買い出しに出かけた。
そこに、いつもララを目の敵にしていた輩が絡んで来た、いつもの破落戸と嫉妬に狂った女達だ。破落戸たちは彼女の稼ぎが目当てで、女達はシェイドのことで難癖をつけたい様子だ。
「また彼方がたですか、良い加減にしてください」
「そうはいくかよ、俺達には面子というものがあらぁ」
「私達もそうよ、あんたったらシェイド様にひっついて目障りったらないわ」

どいつもこいつも自分勝手な言い草だ。
裏路地に引き釣りこまれてドンと弾かれてしまう、リンチでもしようと言うのか破落戸のひとりがララの華奢な身体を羽交い絞めにした。
「どうしてこんなツルペタをあの方は御執心なのかしらね」
パンッと張り手をされて腹のあたりを蹴り上げられた、「ウグッ」と声を上げたララはキッと睨み返す。

「理不尽じゃないですか、私が貴方方に何をしたという…の?」
ギリリと締め付けられて息が上手くできない、破落戸は命を奪おうとしているのか。
「別になにも?ただ気に入らないのよ、その顔も小さい体もね」
「うふふ、その通りあの方の中心にあんたがいるのが目障りなのよ」

「そうですか、残念です」
さすがのララも堪忍袋の緒が切れた。なおも締め上げてくる破落戸には炎で応戦して黒焦げにした。さらに風魔法を吹き荒らし息が出来ない様にしてしまう。
「ひぃ!な、何が起こったの!」
「ぐえ、苦しい……」
「助けてぇ!」

「ほんとうに迷惑ですね、あなた達の言い分に呆れましたよ」
彼女は突風を起こして巻き上げてやった、つむじ風というやつだ。轟々という音を立ててそれは何もかも吹き飛ばしてしまう。宙に舞う女達は綺麗な衣装をバタバタとはためかせて、男達は無様に逆さになり泡を吹いている。

「何をしているのだ?クラーラ、そんなに怒って」
「何をですって!全部貴方のせいだわ、節度をもって接してくれと言ったのに」
呑気そうに現れたシェイドに苛立ったララは激しく怒って怒鳴りちらした。あまりの剣幕にただごとではないと察した彼は「どうか怒りをしずめてくれ」と懇願する。

ララは飛ばした人間達が気を失っているのを確認すると漸く風魔法をおさめた。黒焦げになった破落戸は絶命しかけていたが知った事ではないと無視をする。
彼女は現場をそのままにして立ち去った、それを追うシェイドはどうしたら良いかわからずオロオロとしていた。

「ついて来ないで!」
「そんなララ……私が悪いのなら謝るから」
その言葉を聞いた彼女はいったい何が悪いのかわかっていないことに激怒する。破落戸に狙われたのは自身のせいだが、女達の執拗な嫌がらせはシェイド絡みなことを一気に捲し立てた。

「そ、そうか人間など取るに足らない存在だったのでウッカリしていたよ。嫉妬心とは恐ろしいのだな」
すっかり悄気た彼はトボトボと歩き数メートル開けて歩いてくる。それはまるで主人に叱られた子犬のようだ。
だが、付かず離れずに歩を踏む様子はララを諦めたわけではない。

「ほんとにもう!」
ララの悩みは尽きそうにない。

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