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喋れや!

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極寒茶会から10日、漸く話し合いの場が設けられました。
公爵邸の応接室は無駄に広く豪華、相手を委縮させる意味でなら効果覿面だと言えるわ。
だけど負けません!
絶対に婚約破棄をしますからね!

侯爵家は父、兄、私が並び。
公爵家はアイスブラド当主デンゼル様、元凶のロードリック様。
あら?義母のバネッサ様はいないようです。


「破棄したいというのは本心なのかな?アイリス嬢」
デンゼル様の穏やかな声が私に問います、とても優しい面差しはロードリック様に似てません。
そして良い声!

「はい、私はロードリック様には相応しくないと自負しました。嫌悪の目でいつも見られておりますの、どんな鈍い方でも一瞬で理解するほどに冷酷無慈悲な対応でした。」

デンゼル様は少し思案してから続ける。
「それは嫌われる君に落ち度があるという自覚があるのかな?それなら改善しようという意思は持つべきじゃないかな」

このオッサン食えない!わたしが全面的に悪いって方に向ける気ね!?
おのれぇさすが公爵家当主タヌキおやじ!


「デンゼル様、意思表示もされない方を相手にどう改善点を見出せば良いのでしょうか?先日の茶会に限らず数年前から私は一言も声をかけれておりません。それにロードリック様はいつも無表情です」

この私の訴えにデンゼル様は瞠目されました。

「ほ、ほんとなのか!?数年間一言も?」
「はい、名すら呼ばれておりませんわ。微笑みさえ一度も見てません。木彫りの人形のほうが表情があるくらいですわ」

嫌われても構わない覚悟のある私は、ここぞとばかりに苦言を呈します。
無くすものがないですもの、捨て身で行きます。

「どんなお声だったかすら忘れてしまいましたわ……」
私は捨てられた子犬のように震えて俯きます、父と兄は黙って空気です。
おいこら!卑怯者!加勢してよ!

「そ、そんなバカな……ロードリック!お前いったいどういうつもりで婚約者を蔑ろにしていた?」
デンゼル様はさすがに声を荒げます、さぁさぁロードリック様はどうでますか?


「……………………」眉間に手をやり悩むロードリック。
「…………」フルフルと首を振るロードリック。
「……」肩を竦めるロードリック。

喋れや!!!


なんだよそのジェスチャー!
私達は何を見せられたの?パントマイムか!

「ロードリック、いくらなんでも態度が酷いぞ?言葉を出さねばなにも伝わらんぞ」
「そうですぞ、ロードリック様。娘のことをどう思っているのですか?」
「険悪のまま破棄で良いのかい?禍根を残すべきじゃないよ」

詰め寄るデンゼル様と御父様、兄様。やっと援護射撃です。

全員に睨まれたロードリック様は青白い顔です、いつも私を睨んでいた貴方。
立場逆転のいま窮地に立たされてます、ちょっとザマァでございます。

いよいよ観念した彼が口を開きかけた時でした。

「お義兄様ぁ!わたしのドレスを買ってくださぁーい!いますぐ!早く!秒で!仕立て屋を呼んでくださいまし!」
乱暴に扉が開かれ珍獣が乱入してきました。
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