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隣国の王子フリードベル・インパジオが求婚し、それをリリジュア公爵令嬢が快諾したという報せが社交界に流れた。

エルジール王太子の就任祝賀が終わった直後とあり、祝い事が続いて目出度いことだと王都の人々は湧いた。
コアブルト王は第一王子テスタシモンとの破局から一月もせぬうちに縁談が結ばれたことに顔を顰めたが、元より王女の差し金で起きたことだけに渋々了承するほかなかった。

そして、使えない娘だとバカにしていたカルスフット公爵は手の平を返したように冷遇を改善して日当たりの良い部屋へすぐに移動させよと指示をする。
「大国インパジオの王妃か悪くない、寧ろ自国の王族よりも良縁ではないか?」
態度をコロコロと変える夫の様子を見て妻はつくづく酷い男だと頭を抱えた。だが同時に気が変わらぬうちにインパジオへ娘の身柄を移した方が得策と考える。
王族との結婚には最低1年は準備期間を設ける、愚王が治める生国に留めておくのは危険ではないかと危惧するのだ。


王城では密かにフリードベルに思いを寄せていたカレドナ王女は荒れていた。
「きぃいいい!悔しや!まさかあの女がフリード様と婚約するなんて!」
嫉妬に狂った王女は目につくもの全てに八つ当たりをして暴れた、どんなに癇癪を起し憂さを晴らそうが行き場のない怨嗟の念は膨れるばかりだ。
従順だった侍女達だったが離職を願い出て城から去って行く、見かねた王妃が世話係を宛がってもすぐに辞めてしまう。

「これは手が付けられないわ……我が王よ。インパジオとリリジュアの縁談を白紙に出来ないかしら?」
「愚かな……相手は大国の王太子だぞ、そんなホイホイと覆せるか。二度も縁談を台無しにしたら公爵も黙ってはおるまい、他の貴族からの信頼も失うぞ」
「で、ですが……」
「くどい!いい加減甘やかすのは止めろと言ったであろうが!」
「う……仕方ありません、あの子は修道院へ送りましょう。何れにせよあの性分では嫁などいけないでしょうから」

王妃の身内贔屓の癖は治るのだろうかと王は頭を痛める。己にも責任があるはずだが面倒ごとになると投げ出す癖があるのだ。やはり血は争えない。

***

国王夫妻の苦渋の決断を知らないカレドナは、リリジュアを再び兄の婚約者へ戻すために画策していた。
「兄様ァ、一生のお願いがあるの~うふふふっ」
「どうしたんだい?とても機嫌が悪いと聞いていたが、指輪かドレスが欲しいのかな、週末に王都の店を呼ぼうか」
「違いますの、もっともっと価値あるものです。兄様の未来にも関わることですの」
「はて?」


暴れて手が付けられれないと耳にしていた王子は一体どうしたことかと身構えた。王女の我儘には慣れていた兄だが、お強請りの内容を聞いて瞠目する。
「な、あり得ない事だ!いくらなんでも!可愛いカレドナの願いでもそれは聞けない」
「どうしてですかぁ!寄りを戻すだけですわよ!兄様はリリジュアを好いてましたでしょ」
「……王族の婚姻はそう簡単なことではない、そもそも彼女には新しい縁談がきているのだぞ」
肝心の兄テスタシモンが渋面になり受け入れない。

「おかしくないか?あれほど結婚はやめろと私に訴えて来た癖に、まさかお前何か企んで」
「そ、そんなわけがないです!ただリリジュア嬢があまりに哀れと思いまして、だってそうでしょ?兄様と破局したからと他国へ嫁がされ国交の為の犠牲になるのですもの踏んだり蹴ったりですわよ、ですから私が彼女の替わりにインパジオへ嫁ぎたく思いますのぉ」

いかにもな理由を述べて兄を唆そうと口八丁で再度婚約をと迫る。単純な王子はそんな自己犠牲の発言をした妹の言葉に感動した。
「なんと……さすが心優しいカレドナだ。だがなぁ……こればかりは可愛い妹の頼みでも」
悪女に心を砕く妹を褒めるテスタシモンだが、再度の婚約などは無理だと聞き入れない。いまさら婚約し直したとて王太子は弟に決定している。金メッキ泥団子なりの矜持を持っていた彼は首を上下に振ることはしない。

始めて我儘を突っぱねられた王女はブチ切れて、猫かぶりを捨て去り叫ぶ。
「この分からず屋!クソ頑固野郎!大人しくリリジュアと結婚しやがれ!誘拐してでもねぇ!」
「な……カ、カレドナ!?」

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