6 / 18
5
しおりを挟む
即行で兄王子を見捨てたカレドナ王女は、王太子任命を受けたばかりのエルジールの元へ足早に向かう。だが、言祝ぎを届ける為ではない。彼女はいつも自分の欲に忠実なのである。王太子に祝福の言葉を述べる重鎮らの中に目当ての御仁を見つけると歓喜して跳ねた。
「フリードベル様ァ!キャーッ正装した貴方様は一段とス・テ・キ!」
場にそぐわない黄色い声をあげる王女に侮蔑の視線が集まったが、そんな事を気にする女ではなかった。彼と歓談していた紳士を無理矢理に退けてその腕に絡もうとする。だが、それは叶わない。フリードベルと呼ばれたその青年は素早く後退し、護衛騎士が王女の手を払った。
「痛ッ!何するのよ無礼ね!」
騎士を睨んでキィキィと文句を垂れる彼女にフリードベルは嫌悪の表情を浮かべた。
「無礼で無作法を働いたのは貴女の方だろう、挨拶も碌にせず触れようなどと……しかも今、貴女が押し退けた御仁は大帝国ドラゴリーフの宰相殿だぞ!」
「はぁ?このショボイおじさんが?」
尚も失礼な態度をとった頭の緩い王女に対して怒る青年だったが、帝国の宰相は手で制す。
「ホッホッホッ、宜しいのですよインパジオの若き獅子殿、花畑の羽虫ごときが我が国と関わることは生涯ないでしょうから」
「なるほど、これは手厳しい」
態度の悪い王女をちらりと見て嫌味を言う帝国の宰相だが、何を勘違いしたのかカレドナ王女は「まぁ花畑の蝶だなんて!」と嬉しそうだ。
両人は肩を竦めて頭のネジがぶっ飛んでいる王女に呆れかえる。
勘違いしたままクネクネしている王女を置いて、フリードベル・インパジオは壁の花と化しているとある美少女の元へ急ぐ。
「リリー!リリジュア!久しぶりだね、会いたかったよ!」
「まぁ、ベル。3年ぶりくらいかしら?すっかり大人になって軍服がとても似合っているわ」
親し気に挨拶を交わす二人は幼少からの友人である、隣の大国インパジオの王子は療養の為に3年前までコアブルト国に住んでいた。亡き祖父のはからいで公爵家所有の別荘にて暮らしていた縁で仲良くなった。リリジュア5歳、フリードベル6歳の頃からの付き合いである。
「小児喘息はもうすっかり良くなったのね」
「うん、お陰様で!ちゃんと体力も付けたんだ。騎士団で鍛錬に参加しているんだよ」
「まぁ、血気盛んだこと!通りで背が伸びたわけねぇ。出会った頃は私と同じくらいだったのに……いまでは三十センチは差があるわ」
少し悔しそうに唇を噛む彼女に「小柄な男のままでは護れないからな」と微笑む。
「私を護ってくださるの?」
「もちろんさ!その為にこの国へ舞い戻って来たのだからね」
「え?」
狼狽えている彼女の前に跪いた彼は逞しくなった腕を伸ばして述べる。
「どうか、私の伴侶になってくれないか?この通りだ」
「ま、まぁああ!?」
いきなりの求婚にリリジュアは吃驚して悲鳴に近い声を上げてしまう。はしたない事をしたと彼女は顔を赤らめて扇を広げて隠れる。
「リリー、愛しの姫君。返事は貰えないのかい?」
「ほ、本気なの?私は王子に捨てられた訳あり令嬢なのよ?城内では良くない噂まで」
「そんなの捏造なんでしょ、コアブルト国王夫妻は知っていて黙認していた。許されないことだ!この国は間違いだらけだ、こんな所にリリーを置いておけない!本来なら私が先に婚約していたのだから」
「なんですって?」
隠匿されていた真実を告げられた彼女は震えて床に崩れそうになった、しかしフリードベルの腕がそれを許さない。
思わず抱き合う形になってしまった二人は同時に顔を朱に染めた。
「キミを尻軽と罵るのならば真実にしてしまおうじゃないか!バカ王子と婚約破棄したばかりの令嬢はさっさと他所の王太子と逃げたとね」
「ふふ、愛の逃避行ということね!面白い、その話乗ったわ!」
「フリードベル様ァ!キャーッ正装した貴方様は一段とス・テ・キ!」
場にそぐわない黄色い声をあげる王女に侮蔑の視線が集まったが、そんな事を気にする女ではなかった。彼と歓談していた紳士を無理矢理に退けてその腕に絡もうとする。だが、それは叶わない。フリードベルと呼ばれたその青年は素早く後退し、護衛騎士が王女の手を払った。
「痛ッ!何するのよ無礼ね!」
騎士を睨んでキィキィと文句を垂れる彼女にフリードベルは嫌悪の表情を浮かべた。
「無礼で無作法を働いたのは貴女の方だろう、挨拶も碌にせず触れようなどと……しかも今、貴女が押し退けた御仁は大帝国ドラゴリーフの宰相殿だぞ!」
「はぁ?このショボイおじさんが?」
尚も失礼な態度をとった頭の緩い王女に対して怒る青年だったが、帝国の宰相は手で制す。
「ホッホッホッ、宜しいのですよインパジオの若き獅子殿、花畑の羽虫ごときが我が国と関わることは生涯ないでしょうから」
「なるほど、これは手厳しい」
態度の悪い王女をちらりと見て嫌味を言う帝国の宰相だが、何を勘違いしたのかカレドナ王女は「まぁ花畑の蝶だなんて!」と嬉しそうだ。
両人は肩を竦めて頭のネジがぶっ飛んでいる王女に呆れかえる。
勘違いしたままクネクネしている王女を置いて、フリードベル・インパジオは壁の花と化しているとある美少女の元へ急ぐ。
「リリー!リリジュア!久しぶりだね、会いたかったよ!」
「まぁ、ベル。3年ぶりくらいかしら?すっかり大人になって軍服がとても似合っているわ」
親し気に挨拶を交わす二人は幼少からの友人である、隣の大国インパジオの王子は療養の為に3年前までコアブルト国に住んでいた。亡き祖父のはからいで公爵家所有の別荘にて暮らしていた縁で仲良くなった。リリジュア5歳、フリードベル6歳の頃からの付き合いである。
「小児喘息はもうすっかり良くなったのね」
「うん、お陰様で!ちゃんと体力も付けたんだ。騎士団で鍛錬に参加しているんだよ」
「まぁ、血気盛んだこと!通りで背が伸びたわけねぇ。出会った頃は私と同じくらいだったのに……いまでは三十センチは差があるわ」
少し悔しそうに唇を噛む彼女に「小柄な男のままでは護れないからな」と微笑む。
「私を護ってくださるの?」
「もちろんさ!その為にこの国へ舞い戻って来たのだからね」
「え?」
狼狽えている彼女の前に跪いた彼は逞しくなった腕を伸ばして述べる。
「どうか、私の伴侶になってくれないか?この通りだ」
「ま、まぁああ!?」
いきなりの求婚にリリジュアは吃驚して悲鳴に近い声を上げてしまう。はしたない事をしたと彼女は顔を赤らめて扇を広げて隠れる。
「リリー、愛しの姫君。返事は貰えないのかい?」
「ほ、本気なの?私は王子に捨てられた訳あり令嬢なのよ?城内では良くない噂まで」
「そんなの捏造なんでしょ、コアブルト国王夫妻は知っていて黙認していた。許されないことだ!この国は間違いだらけだ、こんな所にリリーを置いておけない!本来なら私が先に婚約していたのだから」
「なんですって?」
隠匿されていた真実を告げられた彼女は震えて床に崩れそうになった、しかしフリードベルの腕がそれを許さない。
思わず抱き合う形になってしまった二人は同時に顔を朱に染めた。
「キミを尻軽と罵るのならば真実にしてしまおうじゃないか!バカ王子と婚約破棄したばかりの令嬢はさっさと他所の王太子と逃げたとね」
「ふふ、愛の逃避行ということね!面白い、その話乗ったわ!」
60
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
夜桜
恋愛
【正式タイトル】
屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。
~婚約破棄ですか? 構いません!
田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる