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即行で兄王子を見捨てたカレドナ王女は、王太子任命を受けたばかりのエルジールの元へ足早に向かう。だが、言祝ぎを届ける為ではない。彼女はいつも自分の欲に忠実なのである。王太子に祝福の言葉を述べる重鎮らの中に目当ての御仁を見つけると歓喜して跳ねた。

「フリードベル様ァ!キャーッ正装した貴方様は一段とス・テ・キ!」
場にそぐわない黄色い声をあげる王女に侮蔑の視線が集まったが、そんな事を気にする女ではなかった。彼と歓談していた紳士を無理矢理に退けてその腕に絡もうとする。だが、それは叶わない。フリードベルと呼ばれたその青年は素早く後退し、護衛騎士が王女の手を払った。
「痛ッ!何するのよ無礼ね!」

騎士を睨んでキィキィと文句を垂れる彼女にフリードベルは嫌悪の表情を浮かべた。
「無礼で無作法を働いたのは貴女の方だろう、挨拶も碌にせず触れようなどと……しかも今、貴女が押し退けた御仁は大帝国ドラゴリーフの宰相殿だぞ!」
「はぁ?このショボイおじさんが?」

尚も失礼な態度をとった頭の緩い王女に対して怒る青年だったが、帝国の宰相は手で制す。
「ホッホッホッ、宜しいのですよインパジオの若き獅子殿、花畑の羽虫ごときが我が国と関わることは生涯ないでしょうから」
「なるほど、これは手厳しい」
態度の悪い王女をちらりと見て嫌味を言う帝国の宰相だが、何を勘違いしたのかカレドナ王女は「まぁ花畑の蝶だなんて!」と嬉しそうだ。

両人は肩を竦めて頭のネジがぶっ飛んでいる王女に呆れかえる。

勘違いしたままクネクネしている王女を置いて、フリードベル・インパジオは壁の花と化しているとある美少女の元へ急ぐ。
「リリー!リリジュア!久しぶりだね、会いたかったよ!」
「まぁ、ベル。3年ぶりくらいかしら?すっかり大人になって軍服がとても似合っているわ」
親し気に挨拶を交わす二人は幼少からの友人である、隣の大国インパジオの王子は療養の為に3年前までコアブルト国に住んでいた。亡き祖父のはからいで公爵家所有の別荘にて暮らしていた縁で仲良くなった。リリジュア5歳、フリードベル6歳の頃からの付き合いである。

「小児喘息はもうすっかり良くなったのね」
「うん、お陰様で!ちゃんと体力も付けたんだ。騎士団で鍛錬に参加しているんだよ」
「まぁ、血気盛んだこと!通りで背が伸びたわけねぇ。出会った頃は私と同じくらいだったのに……いまでは三十センチは差があるわ」
少し悔しそうに唇を噛む彼女に「小柄な男のままでは護れないからな」と微笑む。
「私を護ってくださるの?」
「もちろんさ!その為にこの国へ舞い戻って来たのだからね」
「え?」

狼狽えている彼女の前に跪いた彼は逞しくなった腕を伸ばして述べる。
「どうか、私の伴侶になってくれないか?この通りだ」
「ま、まぁああ!?」
いきなりの求婚にリリジュアは吃驚して悲鳴に近い声を上げてしまう。はしたない事をしたと彼女は顔を赤らめて扇を広げて隠れる。

「リリー、愛しの姫君。返事は貰えないのかい?」
「ほ、本気なの?私は王子に捨てられた訳あり令嬢なのよ?城内では良くない噂まで」
「そんなの捏造なんでしょ、コアブルト国王夫妻は知っていて黙認していた。許されないことだ!この国は間違いだらけだ、こんな所にリリーを置いておけない!本来なら私が先に婚約していたのだから」
「なんですって?」

隠匿されていた真実を告げられた彼女は震えて床に崩れそうになった、しかしフリードベルの腕がそれを許さない。
思わず抱き合う形になってしまった二人は同時に顔を朱に染めた。
「キミを尻軽と罵るのならば真実にしてしまおうじゃないか!バカ王子と婚約破棄したばかりの令嬢はさっさと他所の王太子と逃げたとね」
「ふふ、愛の逃避行ということね!面白い、その話乗ったわ!」
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