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現在のチェルシーの事情を知らないコーディは一向に届かない返事を今や遅しと待ち兼ねていた。真面目で大人しい性格の彼女のことをどこか見下している彼は「直ぐにでも行動を起こすはず」と高を括っていたのだ。
心底嫌われているなど微塵にも想像していない哀れな男は手に入れても無い金を当てにしていつもより豪華な食事をとっていた。

「ちゃんと手紙をだしたのでしょうね?」
「あぁ、届いたのは間違いないさ。宛先不明の返信がないのが証拠じゃないか」
浮気相手プリムと離縁したと書いておきながら、未だに繋がりを絶っていない二人だ。手紙に認めたのはほとんど嘘で、なんとか金を毟り取ろうと企ててのことだ。経営していた商店が傾き借金を作って閉店したことだけは真実なのだ。

「あれは俺にベタ惚れだったからな、そうそう気持ちが離れるわけがないんだ」
「へえ、スゴイ自信ねぇ。そうじゃなかったらどうするの?返済日は来月頭なのよ、でないと」
「あぁわかっているさ!好きでもない女に恋文を送ったのは苦渋の決断だからな」
手紙に要請した二百万はその借金と当面の生活費が含まれるのだ。

まんまと金をせしめたらプリムと二人で逃げる算段なのだ。万が一に金を持って来なければ彼女の住まいに押しかける手筈になっていた。五年経っても性根は腐ったままのようだ。
「ちょっと脅せばあんな小心者、いくらでも出すことだろう」
「あら、だったら全財産奪ってやりなさいよ。なんなら飼い殺しでも良いわ」
「そうか!あいつを働かせて俺達は遊び放題、悪くないな」

更なる悪事を思いついた二人はだらしない恰好で嗤い、酒盛りを始めるのだった。

***

だが、文を出して十日以上過ぎても訪問どころか手紙すら寄越さないチェルシーに対して憤怒した彼らは行動を起こす。
かつて知ったる彼女の借家へ押しかけてドアを開けろと恫喝した。
「居留守は通用しないぞ!大人しく出てくるんだ!いますぐ開けろ!そして金を寄越せ」
「そーよ!あんたの取り柄なんて金くらいなんでしょ!」
好き勝手騒ぎ立てる珍客を近隣の住人らが何事だと窓を開けて見物しだした。

気まずくなった彼らはドアを蹴破り侵入することにした。だがその時、急にドアが開かれた。不意を突かれて驚く二人だったが、やっと観念したかと家へ雪崩れ込む。
「よおよお、やっと反応したか相変わらず鈍くさいな。今すぐ”財産を差し上げるからお許しください”って平伏せば許してやらんでもないぜ?」

薄暗い家の中へ偉そうに宣うコーディだったが、暗がりに目が慣れてくると恐ろしい現実を見て震え出した。
「なにをやっているのよ?早く奥へ行きなさいよ」
後ろで状況を把握していないプリムが彼の背中をグイグイと押す、しかし固まったように動かない。

「これはこれは、ご夫妻揃って返済に来たとは感心ですなぁ。コーディ殿、ところで”お許し”とは何の事ですかな?」
「え、あ……そ、その……どうしてここに?」
元恋人の部屋には借金元の取り立て屋が勢ぞろいで、彼らを招き入れ歓迎してくれた。押しかけたその日は丁度返済日だったのだ。
問答無用で捕らえられた彼らは返済の為に大海原へと連れられて行くのだった。


***

「間一髪、引っ越しして良かったわ」
「あぁ、そうだね。私としてはもっと早く同棲したかったな。次は結婚の相談だ」
「ええ、嬉しいわ。今度こそ幸せになれるわよね、エイベル」
「もちろんさ!」







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