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最終話
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「嫁の分際で婚家に尽くさないなんて許せないわ!」
「か、母さん。正式に婚約してないと弁護士に……」
「そんなの関係ないわよ!ロレッタはうちに嫁ぐべきなのよ!そうよね貴方!」
「うむ、その通り!困窮した我が家の役に立って貰わないと」
「そうそう、兄さんは気が弱すぎなのよね!私欲しいドレスと靴があるんだぁ、牢屋に入れられたことへの慰謝料も貰わなきゃね~」
娘のアリスがそう言うと母親はそれに乗って「良い考えね!アリスは賢いわ」と笑う。
サイモンの家族は揃ってクズなようで、貴族で裕福そうなロレッタの家を食い潰す気のようだ。
そして、意気揚々と家族総出で子爵家へ乗り込もうとしていたが、堅く閉じられた門が開くわけがない。両端には屈強な門兵が護っているし、「何用だ」と問われて竦み上がる。すると勇気と無謀をはき違えたらしい妹アリスが声高に叫んだ。
「ここのお嬢と兄サイモンがいい仲なのよ!察しなさいよね!門を開けなさいよ」
「……先触れのない者は通せん、例え相手が貴族であろうとそういう常識だ」
「はぁ?知らないわよ、うちらは平民なもんで~早く開けろよカス!」
アリスはそう言って門兵の脛を蹴った、貴族の兵に対して暴力を揮うという愚行に走ってしまった。
「よろしい宣戦布告ととらえよう」
門兵は警笛を鳴らして屋敷で控えていた私兵を呼んだのである。たった数秒でワラワラとやってきた十数名の兵は剣と盾を持ち臨戦態勢だ。
「や、やばっ!嘘だろう!?」
「あ、アリス!お前なんてことをしてくれたんだ!」
「兄さんがグズグズしているからじゃない!バカァ!」
「キャーッ止めて、私はなにもしてないわ!」
サイモン一家は全員不審者認定されて、死なない程度にボコボコにされたのである。
貴族相手に喧嘩を売った平民の彼らは逆に罪を重ねるだけになったのだ。再び豚箱行きとなった彼ら家族は不敬罪と暴行罪で実刑を受けた。
見事に刑務所暮らしとなったサイモンは収監先で項垂れていた。
そんな彼の元に面会人がやってきた、どこの物好きだろうと彼は看守に連れられて面会室へやってきた。だが、分厚いアクリル越しにいた顔を見て彼は狂喜した。
「あ!まさか!ロレッタ!来てくれたんだね!」
会話用の受話器を掴むと「会えて嬉しい」と泣きながら彼女の名を連呼する。
だが対話に応じたのは弁護士だった、見覚え有る人物はセシル・アーキン弁護士だ。
「なにをトチ狂ってるのでしょう?幻でも見ましたか?」
「え……だってさっきロレッタがここにいたはず……あれ?」
対話の向こう側には弁護士しかいない、現実を見た彼はドバッと脂汗を流し始めた。
「まぁ良いでしょう、私がここに来たのは良い報せを届けに来たのですよ」
「良い報せ?俺はここから出られるのかい?」
再び色めき立つサイモンだったが、とんだ見当違いである。
「実はこの度ロレッタ嬢と私の婚約が決まりましてね、そのご報告でございます」
「はあ!?巫山戯んな!それのどこが」
アクリル板をバンバン叩きだした彼は看守によって殴られた、気を失いかけたサイモンの目に映ったのは昏い笑みを浮かべるセシルの顔だった。
「さて、もうひと仕事せねば、ここからは貴族としてですが」
アーキン弁護士は刑務所長と面会する為に腰を上げた、愉快そうに鼻歌を唄う彼は「愛しい婚約者のためならばなんでもしましょう」と呟いた。
果たしてサイモンは無事刑期を終えて出られるのだろうか……。
完
「か、母さん。正式に婚約してないと弁護士に……」
「そんなの関係ないわよ!ロレッタはうちに嫁ぐべきなのよ!そうよね貴方!」
「うむ、その通り!困窮した我が家の役に立って貰わないと」
「そうそう、兄さんは気が弱すぎなのよね!私欲しいドレスと靴があるんだぁ、牢屋に入れられたことへの慰謝料も貰わなきゃね~」
娘のアリスがそう言うと母親はそれに乗って「良い考えね!アリスは賢いわ」と笑う。
サイモンの家族は揃ってクズなようで、貴族で裕福そうなロレッタの家を食い潰す気のようだ。
そして、意気揚々と家族総出で子爵家へ乗り込もうとしていたが、堅く閉じられた門が開くわけがない。両端には屈強な門兵が護っているし、「何用だ」と問われて竦み上がる。すると勇気と無謀をはき違えたらしい妹アリスが声高に叫んだ。
「ここのお嬢と兄サイモンがいい仲なのよ!察しなさいよね!門を開けなさいよ」
「……先触れのない者は通せん、例え相手が貴族であろうとそういう常識だ」
「はぁ?知らないわよ、うちらは平民なもんで~早く開けろよカス!」
アリスはそう言って門兵の脛を蹴った、貴族の兵に対して暴力を揮うという愚行に走ってしまった。
「よろしい宣戦布告ととらえよう」
門兵は警笛を鳴らして屋敷で控えていた私兵を呼んだのである。たった数秒でワラワラとやってきた十数名の兵は剣と盾を持ち臨戦態勢だ。
「や、やばっ!嘘だろう!?」
「あ、アリス!お前なんてことをしてくれたんだ!」
「兄さんがグズグズしているからじゃない!バカァ!」
「キャーッ止めて、私はなにもしてないわ!」
サイモン一家は全員不審者認定されて、死なない程度にボコボコにされたのである。
貴族相手に喧嘩を売った平民の彼らは逆に罪を重ねるだけになったのだ。再び豚箱行きとなった彼ら家族は不敬罪と暴行罪で実刑を受けた。
見事に刑務所暮らしとなったサイモンは収監先で項垂れていた。
そんな彼の元に面会人がやってきた、どこの物好きだろうと彼は看守に連れられて面会室へやってきた。だが、分厚いアクリル越しにいた顔を見て彼は狂喜した。
「あ!まさか!ロレッタ!来てくれたんだね!」
会話用の受話器を掴むと「会えて嬉しい」と泣きながら彼女の名を連呼する。
だが対話に応じたのは弁護士だった、見覚え有る人物はセシル・アーキン弁護士だ。
「なにをトチ狂ってるのでしょう?幻でも見ましたか?」
「え……だってさっきロレッタがここにいたはず……あれ?」
対話の向こう側には弁護士しかいない、現実を見た彼はドバッと脂汗を流し始めた。
「まぁ良いでしょう、私がここに来たのは良い報せを届けに来たのですよ」
「良い報せ?俺はここから出られるのかい?」
再び色めき立つサイモンだったが、とんだ見当違いである。
「実はこの度ロレッタ嬢と私の婚約が決まりましてね、そのご報告でございます」
「はあ!?巫山戯んな!それのどこが」
アクリル板をバンバン叩きだした彼は看守によって殴られた、気を失いかけたサイモンの目に映ったのは昏い笑みを浮かべるセシルの顔だった。
「さて、もうひと仕事せねば、ここからは貴族としてですが」
アーキン弁護士は刑務所長と面会する為に腰を上げた、愉快そうに鼻歌を唄う彼は「愛しい婚約者のためならばなんでもしましょう」と呟いた。
果たしてサイモンは無事刑期を終えて出られるのだろうか……。
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