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少女篇
皇帝陛下の毒見役
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したり顔の料理長にワザと毒入りを食わされたと気づいたシアは殴りたいと思った。
「そんな怖い顔するな、ただの試験だ。最終のな、一口で死ぬ猛毒が塗ってある。なのにお前は平然としてやがる、恐ろしく丈夫な腹をしているな」
悪かったと料理長は詫びて解毒剤をシアへよこした、一応飲めと言われたので飲み干す。
「……毒のほうがよっぽど美味い、薬っていうのはどうして苦いのだろ」
「毒が美味いか、凄いなお前!ハハハハッ」
豪快に笑う料理長はティブと名乗った、そういえば名を聞いていたなかったとシアは気が付いた。
最終試験に残ってこそ名を知る資格があるのだとティブは言った。
「なるほど、すぐ死ぬようなヤツに名乗っても無意味だな」
「そういうこった、だがなシア。一応は敬語というのを使え。俺じゃなければ不敬で処される所だぞ」
そう言われてシアはしまったと口を押さえた。
再び豪快に笑ったティブは本当の料理を目の前に並べた。
さきほどの品も凄かったが、さらに高級な食事だと目を瞠った。
もう一度四分の一ほど口に運び毒見を終えた。どの皿にも問題はなかったが流石に腹がパンパンになった。
「皇帝様は大食いなんですか?」
「ん?いんや従者の分もある、最初の毒見はお前だが移動中に毒が入る可能性がゼロじゃない、だから直前に側近が食べるんだよ」
料理長ティブはそう言って、銀盆に並んだ料理を銀製の保温箱へ詰め込む。箱は3段の棚状になって仕切りが二つある、合計6品が入る仕組みだ。銀箱は全部で2個から3個、これを一日2回運ぶ。
全部詰め込むとそれぞれにティブが鍵をかけた。
「鍵は俺と側近しか持たない、こんだけ厳重なんだ毒は入れようがない」
「それなら毒見はいらないんじゃ……」
ティブが意図して混入でもしなければ毒は皇帝に届かないのにとシアは疑問に思った。
「言いたいことはわかる、仕来りという理由もあるんだが食材のほとんどが生で届くだろ。その段階で万が一仕込まれてたら?」
「あ……そうか、そうですね」
料理人は食材の良し悪しは見極めるが見た目を細工されたり無味無臭な毒が相手ではわからない。
その代表はヒソ毒だがこれは銀に反応する。だが万能ではないのだ。
「そのための毒見役……わたしの仕事」
「お前の鍛えた舌と丈夫な腹が皇帝様の命を守るんだ、名誉なことだぞ?」
森で育ったシアには皇帝の凄さも偉大さも理解できてないが、なんとなく頷きわかったふりをする。
それを見透かしたティブが呆れて言う。
「豪華な食事はもちろん、平民には一生手に出来ないものを持てるのが皇帝様だ」
そう言われてもとシアはやはり困った顔をした。
***
仕事を終えて居室に戻ろうとしたシアだったが、訓練所は仮住まいだと呼び止められた。
下女のリグという娘が新しい居室へ案内してくれた。
調理場からさほど離れていない場所だった、皇帝のいる白宮は下っ端用の廊下すら豪華だった。
なんの見栄だろうとシアは首を捻る。
案内された居室は凄く広い、雑居なんだとシアは少しがっかりした。誰かの気配があると気が休まらないからだ。
「広さから見るに4~5人用だよね、私はどこに寝れば良い?なるべく端っこが良いな」
「いえ、シア様一人の部屋ですよ」
それを聞いたシアは素っ頓狂な声をあげて驚く。
「ほえあ!?一人でこんな広い部屋使っていいの?あのデッカイ寝具も?」
「はい、シア様は役付ですから当然ですよ。下位ではありますが本来は下女の私と口も利くのも憚れます」
己の身分が下位文官並みだと知らされシアは驚いた。
下位文官と言えば訓練所の役人と同等だ、森の獣のようだと言われたシアは信じられないと呟く。
「ねぇそれってさ、ド田舎の村長より偉い?」
「うーん、対象が違い過ぎてハッキリわかりかねますが、帝国の城に勤める文官のほうが恐らく上位かと」
シアはまたも驚く、偉そうにしてた村長を見下せる立場なんてと思うのだ。
「んふー、きっと帰ったらみんな吃驚するよね」
村民に虐げられていた2カ月間を振りかえってシアは悪い顔をする。
案内を終えた下女が去ろうとするのを慌てて引き止めるシア。
「聞きたい事とお願いがあるの!」
「は、はい?なんでございましょう」
かつて住んでいた田舎の様子とあまりに違う環境にシアは下女に質問責めにする。
帝都は自然が少なすぎて落ち着かないこと、それから細かい違いを色々聞いた。
「それは羽虫のことでしょうか?」
「違う、虫じゃなくて小さな人型の羽持ちのことよ!綺麗な羽をもっていて話しも出来るし魔法も使うんだ」
それを聞いた下女リグは「おとぎ話の妖精のことですね!」と合点がいったと手を叩く。
「ようせい?」
「はい、ですがそれは物語の架空の存在です、見たり触れたりする人はいませんよ」
帝都にはいないのだと聞いてシアは凄く落ち込んだ。一方下女は夢物語りが好きな人なんだと片づけた。
「それでお願いとはなんでしょう?」
「あ、寝る時間までごめんね。えーと私と友達ってやつになって欲しいんだ」
「まぁ!恐れ多い!」
下女が青くなって数歩下がってしまう。
「ごめんね!怖がらせるつもりはなくて、ここって大人ばかりだから不安で……」
「そ、そうですね、友達は無理ですが……話相手ならば喜んで」
下女リグは微笑んでそう申し出た。
「ありがとう!それでいい!」
手を取ってブンブン振るシアに下女は大慌てで「また明日、早朝に起こしに参りますから!」
下女はそう言って逃げるように立ち去る。
奇妙な毒見役がやってきたという噂が従者たちに瞬く間に広まった。
「そんな怖い顔するな、ただの試験だ。最終のな、一口で死ぬ猛毒が塗ってある。なのにお前は平然としてやがる、恐ろしく丈夫な腹をしているな」
悪かったと料理長は詫びて解毒剤をシアへよこした、一応飲めと言われたので飲み干す。
「……毒のほうがよっぽど美味い、薬っていうのはどうして苦いのだろ」
「毒が美味いか、凄いなお前!ハハハハッ」
豪快に笑う料理長はティブと名乗った、そういえば名を聞いていたなかったとシアは気が付いた。
最終試験に残ってこそ名を知る資格があるのだとティブは言った。
「なるほど、すぐ死ぬようなヤツに名乗っても無意味だな」
「そういうこった、だがなシア。一応は敬語というのを使え。俺じゃなければ不敬で処される所だぞ」
そう言われてシアはしまったと口を押さえた。
再び豪快に笑ったティブは本当の料理を目の前に並べた。
さきほどの品も凄かったが、さらに高級な食事だと目を瞠った。
もう一度四分の一ほど口に運び毒見を終えた。どの皿にも問題はなかったが流石に腹がパンパンになった。
「皇帝様は大食いなんですか?」
「ん?いんや従者の分もある、最初の毒見はお前だが移動中に毒が入る可能性がゼロじゃない、だから直前に側近が食べるんだよ」
料理長ティブはそう言って、銀盆に並んだ料理を銀製の保温箱へ詰め込む。箱は3段の棚状になって仕切りが二つある、合計6品が入る仕組みだ。銀箱は全部で2個から3個、これを一日2回運ぶ。
全部詰め込むとそれぞれにティブが鍵をかけた。
「鍵は俺と側近しか持たない、こんだけ厳重なんだ毒は入れようがない」
「それなら毒見はいらないんじゃ……」
ティブが意図して混入でもしなければ毒は皇帝に届かないのにとシアは疑問に思った。
「言いたいことはわかる、仕来りという理由もあるんだが食材のほとんどが生で届くだろ。その段階で万が一仕込まれてたら?」
「あ……そうか、そうですね」
料理人は食材の良し悪しは見極めるが見た目を細工されたり無味無臭な毒が相手ではわからない。
その代表はヒソ毒だがこれは銀に反応する。だが万能ではないのだ。
「そのための毒見役……わたしの仕事」
「お前の鍛えた舌と丈夫な腹が皇帝様の命を守るんだ、名誉なことだぞ?」
森で育ったシアには皇帝の凄さも偉大さも理解できてないが、なんとなく頷きわかったふりをする。
それを見透かしたティブが呆れて言う。
「豪華な食事はもちろん、平民には一生手に出来ないものを持てるのが皇帝様だ」
そう言われてもとシアはやはり困った顔をした。
***
仕事を終えて居室に戻ろうとしたシアだったが、訓練所は仮住まいだと呼び止められた。
下女のリグという娘が新しい居室へ案内してくれた。
調理場からさほど離れていない場所だった、皇帝のいる白宮は下っ端用の廊下すら豪華だった。
なんの見栄だろうとシアは首を捻る。
案内された居室は凄く広い、雑居なんだとシアは少しがっかりした。誰かの気配があると気が休まらないからだ。
「広さから見るに4~5人用だよね、私はどこに寝れば良い?なるべく端っこが良いな」
「いえ、シア様一人の部屋ですよ」
それを聞いたシアは素っ頓狂な声をあげて驚く。
「ほえあ!?一人でこんな広い部屋使っていいの?あのデッカイ寝具も?」
「はい、シア様は役付ですから当然ですよ。下位ではありますが本来は下女の私と口も利くのも憚れます」
己の身分が下位文官並みだと知らされシアは驚いた。
下位文官と言えば訓練所の役人と同等だ、森の獣のようだと言われたシアは信じられないと呟く。
「ねぇそれってさ、ド田舎の村長より偉い?」
「うーん、対象が違い過ぎてハッキリわかりかねますが、帝国の城に勤める文官のほうが恐らく上位かと」
シアはまたも驚く、偉そうにしてた村長を見下せる立場なんてと思うのだ。
「んふー、きっと帰ったらみんな吃驚するよね」
村民に虐げられていた2カ月間を振りかえってシアは悪い顔をする。
案内を終えた下女が去ろうとするのを慌てて引き止めるシア。
「聞きたい事とお願いがあるの!」
「は、はい?なんでございましょう」
かつて住んでいた田舎の様子とあまりに違う環境にシアは下女に質問責めにする。
帝都は自然が少なすぎて落ち着かないこと、それから細かい違いを色々聞いた。
「それは羽虫のことでしょうか?」
「違う、虫じゃなくて小さな人型の羽持ちのことよ!綺麗な羽をもっていて話しも出来るし魔法も使うんだ」
それを聞いた下女リグは「おとぎ話の妖精のことですね!」と合点がいったと手を叩く。
「ようせい?」
「はい、ですがそれは物語の架空の存在です、見たり触れたりする人はいませんよ」
帝都にはいないのだと聞いてシアは凄く落ち込んだ。一方下女は夢物語りが好きな人なんだと片づけた。
「それでお願いとはなんでしょう?」
「あ、寝る時間までごめんね。えーと私と友達ってやつになって欲しいんだ」
「まぁ!恐れ多い!」
下女が青くなって数歩下がってしまう。
「ごめんね!怖がらせるつもりはなくて、ここって大人ばかりだから不安で……」
「そ、そうですね、友達は無理ですが……話相手ならば喜んで」
下女リグは微笑んでそう申し出た。
「ありがとう!それでいい!」
手を取ってブンブン振るシアに下女は大慌てで「また明日、早朝に起こしに参りますから!」
下女はそう言って逃げるように立ち去る。
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2020/12月某日
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