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真実は

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完全に外交官たちに姉ソフィニアの捜索を丸投げしたマルベルは、夜な夜な夜会へ参じて男漁りに興じた。初なフリをした彼女は貞淑さをアピールして儚さを演出していた。
「キミほどに慎ましい女性を見たのは初めてさ」
「まぁ、そんな……お恥ずかしいですわ」

彼女はまぁまぁな見目の公爵令息を手中に収めるべく、必死に取り繕う。
年齢を偽り二十一歳を十九と申し出て、経産婦であることも隠した。上手くいけばそのまま婚約してもよいところまでに来ていた。すべては順調であった。
「滞在期間ギリギリになってしまいそうね。仕方ないわ、申請して2週間延ばしましょう」
公爵令息からの婚姻の申し出は時間の問題である、マルベルは良い縁に恵まれて幸せいっぱいだ。


「え、それは本当でございますか。父上」
晩餐の席にて王太子グランは寝耳に水という具合で話しかけた。なんとマルベル侯爵令嬢がテビィル公爵令息と婚約をしたというのだ。
「ほんとうだ、話を聞いたところ驚いたぞ。国交のためにも是非とも結びたいと申してな。まぁ反対する理由もないので許可をしたのだ」
「な、なんと」

彼女のことは密偵に探らせていたグランだったが、思わぬ展開に驚いた。思案顔のグランは御耳に入れておきたい事があると父親に言う。
「なんだ?もったいぶるな」
「……お話は食事の後に、ブランデーを用意させます」
「うむ」


食後、侍女に言いつけてブランデーとチーズ類を頼んだグランは、サロンで待っている父親の元へ急いでいた。
そこへ途中に居合わせたマガワード王子とすれ違う、軽く往なして通り過ぎようとした。
ところが、彼の腕をガシリと掴んで来たマガワード王子が共に父王に話したい事があるというではいか。
「マガワード、ずいぶんと神妙じゃないか」
「はい、重要なお話があるのです」
「……いいだろう、付いてこい」


***

「ノチェ……」
「え、マード。お久しぶりですね、その……この間は取り乱してすみませんでした」
深々と詫びる彼女に「そんな事はいいんだ」と言って二人だけで話したいと申し出てきた。躊躇う彼女にどうしてもと言ってくる。
「キミの妹君のことだ、セントリブ国のことを含めて」
「え!?」

真剣な眼差しを送って来る彼に「なにもかも知っているのね」と呟く。
青い顔をするノチェは震えながらも静かにそう言うと「ティアと同席ならば」と答えた。それを聞いたマードは”あぁ、彼には話したのか”と察する。




「どうぞ、今お茶を用意しますね」
「あ、ああ」
ここは彼女の住まいだ、狭いながらもキチンと整えられた空間に彼らは安堵した。
カタコトと茶を用意する彼女を見つめながらマードが口を開く。

「いつ聞いたんだい?」
「――いつ、って。夜会に行った辺りかな、たぶん」
「そうか、彼女はその、君には心を許しているんだな」
マードは苦し気にそう言うとハァっと溜息を吐いて、少し悲し気な目をしていた。まるで置いてきぼりを食らった飼い犬のようだ。

「おまたせしました、どうぞ。ティアは砂糖なしでいいのよね?」
「うん、ありがとう」
「……いただきます」
暫くの間は茶を啜る音がなって、それが妙に落ち着かない。嵐の前の静けさに似ていてなんとなく居たたまれない。

「さて、どこから話そうか……、キミが国の為に働いていたことから?」
「いいえ、今更でしょう。あの国の王太子に追いやられてこの国に流れ着いた辺りからでいいかと」
「うん、済まない」
渓谷へ落とされてからの地獄の日々をポツポツと話し出したノチェは妙に落ち着いていた。声は若干震えていたがしっかりしていた。

「――そうして私は亡きものとしてノチェを名乗り冒険者になったの。いま思えばギルドでティアに出会えたのは奇跡的ね、そう思わない?」
「あぁ、そうだね。あの日俺は酷い状態で血塗でいつ死んでもおかしくなかった、瀕死だった」
「うん、でも助かったよね金貨五十枚で」
「ははは、確かになぁ」

口を噤んでいたマードが語気荒く割って入る。
「僕だって!昏睡状態だったボクを救ってくれたノチェに感謝している!”この世の理を知りたいのならば黄金の林檎を持て”という言葉に」
目を見開いたノチェが「あぁ、どうして己で考えようとしないのか虚妄の世界に足を踏み入れながら」と言った。

「そうだよ、その言葉に救われたんだ!生涯忘れはしないさ!愛しているよノチェ!」
「へ?えええええええ!?」
「な、なに言ってんだよお前!」
三者三様に驚いたり嘆いたりと大忙しの面々だ、特に愛の告白をしたマードは真剣そのものである。

「待って待って!処理が追い付かないわ!」
「愛しているんだノチェ!」
「やーめーろー!」

ゼーハーと息が荒い三人はやっとの思いで落ち着いた。
「とにかく、この町に落ち着いてそれなりに暮らしをしていた、そしたらセントリブから何故か妹がやってきたのよね」
「あ、ああ。その通りさ、理由は瘴気ということらしい」
「瘴気……でも変だわ、私が追放された時にはそれらしいものは見当たらなかったわ」
黒い瘴気溜まりはその時には消滅していた。それは確かなことだった。





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