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目覚め

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「うぅ、頭がいてぇ。俺はあれからどうしち待ったんだ?」
「……さぁ」
冒険者PT青焔の戦斧のリーダーであるティアは、酔っていた間の記憶をすっぽり抜け落ちていた。当然にノチェに愛の告白を打ちかましていたなど知る由もない。
「やはりあれは世迷言のようなものだったのね」肩を竦めるノチェはそのように片づけてしまった。

「せっかく二人きりにしてやったのに……お前と言うヤツは」
完全に匙を投げたパウドは「勝手にしろ」と捨て台詞を吐いて不貞腐れる。レタルはケラケラと笑い転げて「さすがのヘタレだ」と言う。
なるようにしかならないと判断した彼らは余計なことはしまいと考えたのだ。

「時にノチェちゃん、今日も城へ行くの?」
「え、はい。そうですね、もう少しという所まで来てまして……」
昏睡状態にある王子の容態については何も言ってはいけない彼女は、仮の言葉で話す事しかできない。そんな様子を垣間見たレタルは「そりゃ大変だね」と嘯く。



いつも通りの狩りを終えて魔導人形へ報告をすると青焔の戦斧せいえんのせんぷはその日は解散となった。
「では、皆さんここで」
ペコリとお辞儀をするノチェに一抹の不安を覚えたティアは駆け寄って行き「また会えるよな」と念押しをする。
「どうしたんですか?帰って来るに決まってますよ」
「あ、ああ……そうだよな。そうなんだが」

相も変わらずヘタレな彼にパウドとレタルは腹を抱えて笑う。しかし、そこはリーダーで「なにか?」と威嚇してきた。
「なにも無いよ、ねぇパウド」
「ああ、その通りだ」
「……お前らちょっと付き合え」


***

静謐な部屋の中でノチェはいつも通りの御祈りを捧げてから静かに横たわる王子と向き合っていた。壁際には城の侍女が待機している。なにも変化がないように見えて、少しづつ空気が変わっていた。
「こんにちは、王子殿下。外は大分気温がさがり針葉樹も色味がついてまいりました。秋ですね、私は秋が一番好きですよ。殿下はいかがでしょう」

静かに話す声が滔々と響いている、その度に王子の瞼が震える、何かを訴えるかのように。そんな僅かな変化を見逃がさないノチェはにっこりと微笑み、ちゃんと殿下に届いているのだと安心した。
「さて、今日は趣向を変えて物語を読もうと思います。”緑の羽”という物語です、御存じだと良いのですが」
すると王子の瞼がピクピクと痙攣した、その物語に聞き覚えでもあったのか。

”――緑の王は言う、『この世の理を知りたいのならば黄金の林檎を持て、――――あぁ、どうして己で考えようとしないのか虚妄の世界に足を踏み入れながら――わが愛し子よ汝は』”

そんな風に読み漁っていると不意に言葉が流れてきて驚く。
「汝は……数多かぞえ……幾重にも」
「殿下!?まぁなんてことでしょう……聞こえていますか、私の声が」
王子の変化に気が付いたノチェは縋る思いで彼の手を取った。何度も握り、摩り起きて欲しいと願ったことだろうか。

「……続きは起きてから聞こうか……ノチェと言ったかい?ありがとう」
「あぁ、王子!目覚められたのですね」
短く刈り取った髪の毛は少年のような成りだったが、それはとんだ勘違いだったのだと思い知る。瞳を開けた王子は青い目をしていた。まるで蕩けるような夢見心地だと王子は語る。

「さて、父上と、いや王と王妃をここへ長く眠りについていたことを詫びなければ」
痩躯を叱咤して起き上がる彼は立派な王子殿下の相貌をしていた。だが、その手にはノチェの華奢な腕があった。束の間でも離すまいとしているのがわかった。

「あ、あの王子?」
「あぁ、済まないね。もう少しだけこのままでも良いか?」
「は、はい」



「まぁ王子!私の可愛いマガワード!良く顔を見せて頂戴!」
「はは、大袈裟ですね。母上は」
親子の対面を果たした二人は仲むずまじい様子で語り合う、そして腕を取ったまま動こうとしない息子に不審に思う。バツの悪そうなノチェは半笑いである。

「あらまぁ、ふふふ仲が良い事ね。妬けてしまうわ」
「ふふふ、そうでしょう。彼女は僕の恩人だからね、大切にしないと」
そんなやり取りをしていると父王が少し遅れて見舞いにやってきた。テンツフィール王は感動して「良かった」と涙ぐむもしっかりと腕を組みはなさない息子を見て「はて?」と首を傾げる。

「どうした、マガワード。何か思う所があるのか?」
「どうもしませんよ、我が王よ。私は伴侶をみつけただけですから」
「うむ、そうか、伴侶をな……え、なんて?」



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