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合格通知と似非ヒロイン

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受験から1週間後、学園から通知が届いたわ。
信じられないことに紙には【合格】の文字が……どういうこと?

自己採点では満点には遠い78点程度です、これはあり得ない。
なんらかの根回しがされていたのは明白、おそらくバカ王子の仕業ですね。

急いで先触れを飛ばし私は学園へ向かいます。
学園事務官に連れられ学園長の執務室へ入室しました。学園長は巨大な執務机にデンと構えていたわ。
なにかしら、すごい暇そうですね。

「急遽面会をお許し下さりありがとうございます」
「う、うむ。緊張せずとも良いですよ、お掛けなさい」

中央に置かれた応接セットのソファへ促されたので渋々座ります。対面に学園長がドスンと腰を下ろした所で例の通知を差し出しました。

「早速ですが不正合格についてお聞かせください。先週の試験ですが入学条件の満点に届いておりません、それにも関わらず合格した理由をお聞かせ願います」
私の言葉に学園長は僅かに顔を顰める、つい怒気を孕んだ声色をつい出してしまったわ。

「まぁ落ち着きなさい。キミ、紅茶を淹れてくれ」
壁際に控えていた事務官に学園長が指示した、茶なんて要らないわ!


のんびりした学園長にイライラしながら返答を待つ、出された紅茶を一口飲んで漸く口を開いた。
「不正とは些か乱暴な言い方だね、優遇措置が気に入らないようだが」

「とうぜんです、なんの為の条件だったのか疑問です。こんな緩さで入学しても嬉しくありません、それに不正のことが露見すれば学園生活は針の筵になるでしょう。学友すらできないでしょうね、私に妬みと誹りに塗れた地獄の学園生活を過ごせとおっしゃるようなものです!」


それを聞いた学園長は慌てた様子で宥めようとする。
「い、いやそんなつもりの配慮ではないのだよ、しかし迂闊だった。……うむ、一理あるな。今回の措置は陛下からの打診だったので優遇してしまった。あまりに浅慮だったね申し訳ない」

学園長が薄くなった頭頂部を下げてきた、やっぱり王族が絡んでいたのね。
この方も2年飛び入学について思う所があったようで、私の入学辞退を受け入れて貰えた。
そして合格という事実も抹消すると約束してくれた。彼がまともな思考の持ち主で僥倖だわ。

暗黒の学園生活を送らずに済み、私は安堵して帰路につけたわ。

***

「せっかく合格できたのに!どうして辞退するのよ!」
案の定、激怒した姉が私に詰め寄ってきた、どうしてそこまで入学させたいのかしら?

「お姉様、不正してまで入学を薦める理由を聞かせてください」
「う、そ……それは」

至極当然の質問に姉はシドモドロになる。なんて分かり易いのかしら。
「……殿下を押し付けたいのですね?」
「な!?」

核心を突いてあげれば動揺しまくる姉デボラ、青くなったり赤くなったり顔色が忙しい。
「婚約破棄なさればよろしいでしょう?」
「そんなことしたらこの家は取り潰しになるわよ!法外な慰謝料と罰を受けるわ、王族との婚姻は重いものなの!」

興奮気味に捲し立てる姉に私は問う。
「ならば、どうしてフロラン殿下と親睦を深めようとしないのですか、茶会でも素気ない上に私を同席させても異を唱えませんよね。あわよくば婚約者の交換などと虫の良いことをお考えですか?」

責める私の言葉になにひとつ言い返せない姉、唇を白くなるまで噛み私を睨む。
「姉さま、黙っていてはわかりません」

すると堰を切ったように姉が捲し立てました。

「アンタはフロランと添い遂げて破滅する運命なのよ!アンタがシナリオに逆らう行動するから私は!私は軌道修正しようとしただけじゃないの!なんでフロランに靡かないのよ!馬鹿同士くっつけば良いのに、お似合いじゃないの何も考えず花畑の中で生きてれば良いのに!それが似非ヒロイン、ミラベル・サヴァンスなのよ!裏で悪事を働き最後には帝国の皇太子マティアス・モンテレイド様に断罪されて獄中死する終焉に辿り着くの!でも安心して私はアンタを嫌いじゃないから修道院送りにとどめてあげる。優しいでしょ?だからシナリオ通り私の幸せの踏み台として生きなさいよ。」

なにを言ってるの?ほとんど理解できないわ。

「お姉様、似非ヒロインとはなんですか?シナリオ通り生きろとか人生は観劇ではありませんのよ」

「いいえ!アンタはざまぁされる似非ヒロインなの!これはこの世界【不遇の乙女は冷酷皇太子に溺愛される】の決定事項なの、逆らえない運命の上に存在するゲームキャラなのよ!潔くざまぁされなさい!」


え?え?なんて?
げーむきゃらとは一体なんの事なの……。


「うふふふ……マティアス様は私を向かえにいらっしゃる、世界一幸福な花嫁に私はなるの。そういう運命なのよ」
茫然とする私を残して、姉は言いたいことを身勝手に言い放ち甲高い笑い声と共に去っていった。


大帝国の皇太子がどうして出てくるの、私はただの伯爵家の小娘でしかないのに。
マティアス・モンテレイド、たしかにこの国の東に大帝国モンテレイドは存在するし、去年皇太子になったとニュースで聞いたわ。でもそれだけの情報しか私は知らない。

やや冷静さを取り戻した私は自室へ戻り彼女が放った言葉を反芻し書き残した。
俄かに信じがたいことばかりだが「運命」とやらが本当ならば私は破滅する、らしい。
そんなことは望まない、姉のいうようなシナリオとやらに抗ってやる。

そんな事を考えていたら侍女のララが声をかけてきた。
なにか思い詰めた表情の彼女にとても嫌な予感がしたわ。

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