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最初に供されたのは中々刺激的な香りのする紅茶だった、ツンとした香りに舌が麻痺するような辛さがあった。なにを淹れたのか察しがつくものだ。

「あらまぁ、随分と刺激が強いのですね、普段からこのようなものをお召しになられるなんて。聖女様は味覚音痴でしょうか?それとも……」
「……あら、ごめんなさいね。私の侍女が淹れるものを間違えたみたい」

聖女はそういうと茶を注いだ侍女を呼びつけて鞭で叩いた。あまりの事に言葉を失ったサビーナだったが、そんな光景など戦場と置き換えれば些細な無体だ。血飛沫が飛び散るわけでもないので彼女はニッコリと笑い、その様をみていた。

焦ったのは聖女のほうだ、てっきり”お止めください”と言って大慌てするものと思っていたからだ。だが、サビーナの目は『もっとやれ』と言っている。引っ込みが付かなくなった聖女はバシンバシンと叩き続ける。

「お、御赦しください……お願いです」
涙目になって赦し請う侍女は聖女の右腕といって良い忠臣だ、皮膚が真っ赤に爛れたのを見て聖女はやっと手を止める。

「ふふ、中々面白い茶番劇でしたよ。次は何を見せて頂けるのかしら」
「ぐ……失礼しましたわ、サビーナ様。口直しにケーキなどは如何でしょう、私が自ら焼いたものですの」
テーブルの上に鎮座していたクリームたっぷりのケーキを指して言う、一見は変哲もない菓子である。だが、やはりサビーナは不穏なものを感じ取る。

「あら、では先に召しあがって?私は王子の婚約者です、万が一を考えて毒見は当たり前でしょう?」
「え、ええ……そうね」
聖女は些か青い顔をしたが、右端をほんの少しだけ切り分けて口にする。どうやらそこにだけ毒がないのだろうとサビーナは見抜く。小さなベリーの実が乗せてある箇所だった。

『さて、どうしたものでしょう。大人しく毒入りケーキを食べますか?』
『いいや、待ってくれ……そうだな、これを先に口にして欲しい』
指輪から伝わるアレクサンドルの声が響いたと思ったら、一粒の丸薬が指輪からコロリと零れた。どうやらそれが中和剤とみられる。

彼女はさりげなくそれを口に含むとゴクリと飲み込む、それから意を決して切り分けられたケーキを口に運ぶのだ。
「いただきますわ、聖女様」彼女はにっこりと微笑みながらそれを咀嚼して嚥下してみせた。
すると聖女の顔が醜く歪んだではないか、ニタリと微笑むその顔は殺人鬼のものだった。

「どうかしら、私が作った特製ケーキの味は?焼けるように甘く蕩けるでしょう?うふふふっ」
「そうですね、これはアーモンドの香りが若干します、青酸性の毒かしら」
そう呟いた彼女は苦しみだし泡を吹いて倒れた。

「オーホホホッ!ざまぁ見なさい。聖女アルビータの恋焦がれる殿方に近づいたのが悪いのよ!」
高らかに嗤うその声は御殿中に響き渡った。





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