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しおりを挟む「チャーリー少尉は一等兵曹に降格処分とする、その他違反金、金貨200枚を請求する。以上だ」
直属の上司である大佐にそう言われて項垂れているチャーリーは膝から崩れ落ちそうになっている。辛うじて立っているという有様だ。
そして、恋人であるナタリー・ロメルもまた厳罰を受けた。アラン・バリエを誘い、一番危険な前線に送り込んだ張本人は軍曹から十五等兵に降格された。罰金は金貨100枚である。
「どうしてくれるのよ!先の戦いで功績をあげて禁固刑は免れたけれど冗談じゃないわ!」
「なんだと!?彼を誑かして金を巻き上げようとした癖に!」
「キィー!なによ!貴方だって受け取ったじゃないの!」
彼らは醜い争いを軍部の外でやっていた、甲高いその声は上官たちに筒抜けになっていた。
「呆れたものだよ……まったく頭が痛い」
「その通りですね、反省すらしていないなんて」
大佐と少佐は窓から聞こえてくる耳障りな喧騒が嫌になり窓をぴしゃりと閉めるのだ。
***
場所は変わって王宮の奥では王子妃教育を始めたサビーナ・アレオンが必死に勉強に勤しんでいた。苦手な歴史書を読み、貴族名鑑と格闘している。
「うぅ……似たような名前ばかりで頭が痛いわ」
先ほどからロゼル卿とロルゼ卿、ネイジェルとネイジャルなど誤字かと思うような名前に悩まされていた。いずれも王族と関わりが深い良家なので気が抜けない。
「やあ、やっているね。だけど休憩もしなきゃ。ほら、教師の方がグッタリしているよ」
「あ、あら。アレク様、私もそう思っていましたのよ」
苦笑いしながらそっと名鑑を閉じる彼女は”まだまだいける”という顔を隠している。朝から張り切るサビーナは5時間ぶっ通しで勉強していた。
やっと解放された教師はフラフラになりながら「後は自習で」と一言残して去って行く。
「どうだいサロンで軽食など、私も長い議会が終わったばかりで腹が空いた」
「ええ、良いですわね。ご一緒させてください」
彼女はゆったりと微笑み手を伸ばす、彼もまた腕をくの字に曲げて「行こうか」と歩を進める。侍女たちが彼らに追従して歩く。
いま最も注目されるこの二人を羨望の眼差しを向けながら歩いていた。
間もなくサロンという所で二人の歩みが止まった。その視線の先には聖女アルビータがいたのだ。
「御機嫌よう、王子。貴方ったらちっとも来ないから私から来ちゃったわ」
「これはこれは御殿からわざわざいらっしゃるとは珍しい」
対峙したアレクサンドルとアルビータは良い笑顔で挨拶していた、だがどこか空々しさを醸し出している。それを目の当たりにしたサビーナは所在無げにしていた。
腕を絡めて歩いていた二人はそのまま固まっている、それを見咎めた聖女は苦笑して言う。
「随分と仲が宜しいのねぇ、元婚約者としては見逃がせないわぁ」
「なっ!いまさら何を言いだすんだ!」
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寝耳に水なことを聞かされたサビーナは思わず絡めていた腕を離すのだった。
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