6 / 20
6
しおりを挟む戦いから三十日後、車椅子を動かしながら魔法師団の庭を移動するアランの姿があった。火傷負い引き攣れた皮膚が痛々しい。今日は同僚に火傷の後を治して貰う日だ。それからもう一つ目的があった、恋人であるナタリーの姿を探している。
彼女は彼の降格を知ると急に余所余所しくなっていた、病棟へ見舞いにも碌に訪れない彼女に苛立っていた。まさかこのまま見捨てる気ではないかと気が気ではない。
「くそっ!後方支援してるはずがあの場にいなかった……」
彼女は戦況が思わしくないと知るやさっさと逃げおおせていたのだ、命令違反をしていた斥候部隊なのだから当然と言えばそうなのだが悔しくて仕方がない。
「文句の一つも言ってやらなければ気が済まない!」
彼はブツブツと恨み言をいいながら約束していた魔法師に会いに行く。皮膚が引き攣れる度に苛立ちが募った。
「やあ、ビル。約束通り会いに来た、宜しく頼むよ」
「え?ああ、そうだっけ」
すっとボケた言い方をする同僚に苦虫を噛んだような顔をするアランである。すると同僚は「悪ぃ、冗談さ」と言って肩を竦めた。
「じゃ、ほら払うものがあるだろう?ほれほれ」
「……金をとるのかよ、まぁいいけど」
金貨の入った革袋を渡すと「確かに受け取った」とビルは言った、そして一番傷跡が酷い左半分の顔を治してやる。引き攣れが少し良くなった気がする。次々と治癒を施しケロイドはなくなった。
「ほい、これで傷跡は残っていないだろ」
「ああ、ありがとう。ついでに足も治してくれると助かる」
「はあ?それは無理だと言っただろう、魔力切れ起こして倒れちまうよ」
「……やっぱりそうか」
彼は複雑骨折した足を恨めしそうに睨んだ、自然治癒による回復は半年以上はかかる。いますぐ治して汚名返上したいアランは歯噛みする。
「ところでなんであの日だけ調子が悪かったんだ?炎壁で一気に殲滅するつもりだったんだろう?」
「そ、それは……良く分からないんだ。魔法を展開してすぐに力が出なくなって」
魔力切れとは違う症状に彼は戸惑いを隠せない、実はアンクレットによる底上げをしていた事など頭から忘れている。愚かにも程がある。
「魔法は使えるんだ、だけど効果が薄くなって」
「それってさ器用貧乏ってやつじゃねぇか、技は使えても効力が薄いってそういう事だろう?」
「なんだって……」
そこで彼は思い当たることがあるとハッとした。右足にあったアンクレットのことを漸く思い出したのだ。
『ねぇアラン、貴方は魔法はいろいろ使えるけれど魔法の効力はいまいちなの。なんと言うか魔力は膨大だけれどそれを駆使する能力が……そこでね』
サビーナの言葉を思い出した彼は愕然とする、燃料タンクは満タンでも火力が細すぎるという彼女の指摘を思い出したのだ。
「なんてことだ!アンクレットに込めた魔力開放の力が衰えていたのか」
「え?なんだってアラン?」
そこに聞き慣れた甘ったるい言い回しをする声が聞こえてきてビクリとした。ナタリー・ロメルの声だった。治癒室を抜け出し、愛しくも腹立たしいその声を聞いたアランは”キッ”と睨みつける。
「やっと見つけたぞ、ナタリー!どうして見舞いに来ないんだ!」
「え……あらぁ、アランじゃない」
彼女は上背がある将校にしな垂れかかっていた、階級は少尉と見られる騎士だった。
「何をしているんだナタリー!キミは……」
475
お気に入りに追加
500
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが
ふじよし
恋愛
パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。
隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。
けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。
※現在、小説家になろうにも掲載中です
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
完結 転生したら戦略結婚に巻き込まれた
音爽(ネソウ)
恋愛
ハンナレッタは小さな駄菓子店を切り盛りしていた。
『ハンナレッタ駄菓子店』は薄利多売だがとても繁盛していた。毎日が楽しくて微笑みが絶えない店内は小さなお客さんで溢れている。
ところが珍しいものを作って商売をしていると貴族の耳に入る。
「娘、これの製法を教えろ。言い値で買い取ってやろう」
「……お断りします、それは安価で子供たちに提供したいのです」
「ふん、貴族に楯突くか。いまに見ているが良い!」
貴族の威光を盾に、無理矢理に婚姻を結ぶ羽目になったハンナレッタは渋々の体で嫁入りした。
嫁いだ先は傾きかけた商家だった、主は怠け者ですべてを丸投げにする。
任された妻は奮闘して軌道に乗せていく、だが上手くいっていると知った夫はそんな彼女を追い出す。
「もうお前に用はないさ」と……
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる