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何を見せられているのか

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女性たちの黄色い声がオーストン侯爵家の庭園に響く、その中心にいるのは金髪を掻き上げて恰好を付けた男が一人。
「香しい花々が咲き誇る季節だけれど、君達の美しさには敵わないね。ご覧よ所詮は引き立て役に過ぎないのさ」
彼はそう言うと手近に咲いていた薄桃色の花を一輪摘むと腕を絡ませていた令嬢の髪に挿した。

「ほら、キミの美しさが増しただろう?花は役目を全うして散るのみさ」
「まあ!クレッグ様ったらお上手……私は勘違いしそうだわ」
「いいや、本当のことを言ったまでさ」
クレッグと呼ばれた青年は頬を染める令嬢の手を取り甲に唇を落とす、すると再び黄色い声が上がった。先ほどより大きいので談笑していた他のグループが顔を顰める。姦しいのもいい加減しろと言いたげだ。


その騒ぎの一団から少し離れたテーブルで悲しい表情を浮かべる少女がいた。
名はナタリア・オーストン、いつも女性に囲まれている彼をハラハラして見守っていた。

女好きの優男クレッグ・アルバーン侯爵令息はナタリア・オーストン侯爵令嬢の恋人である。約3年の恋を経て婚約を交わすことを約束している。
二人の出会いは15歳以下が参加する幼童茶会からはじまった、社交界へデビューする前の学びの場でもある。茶会でのマナーを覚えたばかりのナタリアはドレス袖で茶器を転がし紅茶を零してしまった。

たまたま側にいたクレッグが機転を利かせて「ボクが令嬢の背にぶつかったせいです」と失敗を庇った。
それがきっかけで友人になり、小さな恋を育んできたのである。
成長とともに彼も彼女も美しい容姿に育ち、15歳で社交界にデビューするや否や忽ち注目を集めた。身分も高く美丈夫な二人が恋人と露見すると羨望と嫉妬の念が絡まる。

最初は嫉妬を向けられがちだったナタリアの盾になるべく、クレッグが率先して令嬢達の機嫌を取るように振る舞うようになった。夜会では誘われれば誰とでもダンスを舞い、美辞麗句でもって群がって来る女子たちを手の平で転がした。
耳障りの良い言葉を聞かされた彼女らは有頂天になったし、風当たりも柔らかになった。同時にナタリア嬢を狙う輩には牽制することも忘れない。

完璧な紳士となったクレッグは、社交界の華となるのに時間はかからなかった。
けれどもナタリアは寂しさを募らせるようになる。
どの夜会に参加してもファーストダンスは彼女が選ばれてきたが、王家主催の夜会で王女が我儘を言い「私と一番に踊って」と割り込んで来た。

「婚約者でないなら問題ないでしょ?」
「は、はぁ……わかりました仰せのままに」
ただの恋人と婚約者では訳が違う、それを逆手に取られてナタリアは彼とダンスを踊ることなく過ごす羽目になった。
その夜会をきっかけにナタリアは雑に扱われることが増えていく。
近頃ではエスコートすら他の令嬢に取られてしまうことも増えていた。その度に軽い嫉妬をするようになったナタリアの様子にクレッグは味をしめた。

貴族令息たちが憧れ恋焦がれる美しいナタリア、その彼女に嫉妬させた己に妙な自信をつけた。
「私だけを見ていて」そんな彼女の切ない訴えが自尊心を擽って来る快感を知ってしまった。
増長していく彼は何をしても彼女が愛想をつかすことはないと高を括った。


「彼方の心がわからないわ」
遠くからクレッグを見つめていた彼女の目には恋慕の色は褪せはじめていた。

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